劣化した自民党に最低限求めたいこと

 週刊ポストが、「自民党の人材不足、野党も共倒れで菅政権延命の最悪シナリオも」という記事を掲載している。菅降ろしが画策されているが、結局自民党にも、また野党にも人材がいないので、菅続投という最悪の事態になるという、なんとも皮肉たっぷりの記事だ。しかし、自民党や野党の人材不足の指摘は、いまに始まったことではない。その原因に関する言及もたくさんある。そのわりには、自民党内での人材養成システムが改善されたり、機能している風には思えない。ますます、非生産的な権力闘争によって、ものごとが決まっているように見える。
 そして、菅首相の発する言葉を、国民の多くが、そして、与党内部の人ですから、率直には受け取っていない。だから、菅降ろしが語られているのだろう。
 自民党有力議員の政治力の劣化を示す事実は、数えきれないほどある。

 アベノマスクなどの、あまりに愚かな政策が何故実行されたのだろうか。外交の安倍などといわれながら、安倍首相がなし得た外交的成果というのは、何があるのだろう。拉致問題、北方領土問題、日韓関係、尖閣諸島問題、なにひとつ、安倍氏が欲するような成果がえられていないだけではなく、むしろ、悪化している。拉致問題は解決の糸口すらなく、北方領土には、ロシア軍の基地が建設されそうになっている。日韓関係は悪化の一途であり、尖閣諸島を狙う中国の攻勢はどんどん強まっている。トランプが拉致問題を、金正恩に伝えてくれた、などということが成果であるなら、情けないことだ。自分で解決できそうにないことを暴露しただけのことではないか。
 菅首相は、オリンピックを、人類がコロナに勝利した証として開催することを、繰り返し繰り返し述べている。そして、コロナ対策を万全にすることで可能になるともいっているが、誰もがまだ記憶している、首相になって最初に明言したのが、コロナ対策を第一の課題にするということだった。それが9月だ。しかし、その段階では、コロナは終息していたわけではないが、現在に比較すれば、まだまだ深刻な状況ではなかったのである。このときに、コロナ対策が第一だといっていたのだから、そのときに、適切な対応を十分にとれば、現在の状況はかなり変わっただろう。少なくとも医療崩壊を起こさない対応は可能だったはずである。しかし、菅首相がやったのは、コロナ対策ではなく、コロナ拡大政策だった。GOTOは、コロナが終息してからというのを、強行したのは、安倍内閣だったが、その推進役は菅官房長官だった。首相になってからも、専門家からは、GOTOがコロナ拡大をもたらすことは散々指摘され、また、ヨーロッパにおける再拡大も夏のバカンス解放が大きな影響を与えたことも指摘されていた。他方、コロナ終息ための施設は、ほとんどめだったことをしていない。そして、現在の結果があるわけだ。
 そういう首相が、万全のコロナ対策をして、コロナを克服すると宣言しても、ほとんどの国民が信頼するはずがないのだ。しかも、菅首相の主要なアドバイザーである高橋洋一氏は、youtubeで、政府ができることは「お金をだすことだけだ」と明言している。そして、予算は十分にとってあるからどんどん使えばいい、と語っているのに、9月以来、その資金は、GOTOに主に注いできた。
 振り返ってみると、コロナ発生以来、政府のやることは、本当におかしなことが目立った。大量の中国人観光客の受けいれ継続、突然の全国の学校休校、アベノマスク、PCR検査の制限等々。
 オリンピックは、私は中止すべきであると思っていたが、それでも、2年延期なら、開催可能だったと思われる。IOCも森会長も2年延期説だったが、安倍首相の強い要望で1年延期になったという。もちろん、安倍首相の任期の残りを考慮したからだろう。オリンピックの開催可能性より、安倍首相個人の利害で決めていると言われても仕方ない。
 逆に必要なことで、十分に行われなかったこともたくさんあるように思われる。感染症対策を十分に行うための医療体制の改善、ワクチン開発のための財政支援等々。
 
 これほど、適切な対応ができない政治家が多くなっていて、そうした人たちが政権を担っているのか。考えられる理由をあげてみよう。
・ 二世・三世議員の圧倒的増加  
 二世議員、三世議員は、最初から当選確実で政治家になる。親の秘書をやって、それなりに政治的に鍛えられる場合もあるが、(その場合でも、予め近々議員になることが約束されているから、厳しさとは無縁ではないか)サラリーマンをやっていたとか、あるいは、小渕優子のように、デレビで番組制作にたずさわっていたような、政治家として成長した結果として、それが認められ議員に当選するのとは、まったく違う安易な経路をとっている。
 しかも、安倍晋三のように、桁外れに政治家としての有力家系にある場合には、ごく当たり前のように、自民党内の出世が、他の議員に比較すれば、格段に、確実に約束されている。つまり、政治家としての能力が試されることなく、議員となる、それが二世・三世議員である。
 自民党は、以前から、江戸時代の大名組織のようなものだった。大名は一人で、地元には藩のような後援会組織があり、秘書が地元と東京に存在している。地元の筆頭秘書は城代家老で、江戸の秘書は江戸家老である。そして、大名は、その組織の上にのって、家来たちが実務を取り仕切る。家来たちにとっては、あまり口をださないお飾りがよい。それでも、戦後初期から高度成長期くらいまでは、ある種戦国時代の名残りで、大名には実力が求められたが、江戸安定期にはいると、大名のすることは、儀式ばかりになっていく。自民党の二世議員、三世議員が有力者のほとんどを占めるようになると、まさしく、幕藩体制の外様大名だ。
・ 政策立案や政治活動の切磋琢磨を消滅させた選挙制度と自民党内の体制
 それでも、新人議員から、有力ポストについて、大臣へと上昇していくために、政治家としての実績を積んでいくことが不可欠であるならば、それなりに実力のある政治家が表舞台に出てくるだろう。
 最近話題になる会食だが、いまの自民党のリーダーたちは、会食は政治的情報をえるために必要な場だというようなことを言っている。菅首相は、会食にいろいろな人を招いて、そこで話をきく。それが、彼の情報源であり、また政策を立案するために必要なのだそうだ。しかし、会食でえられるような情報は、おそらく断片的なものであり、政治家としての体系的な知識、情報をえる、あるいは質問なりをして、疑問を正していくような場になるとは思えない。菅首相の政策が、非常に小さな問題の集積であるのは、おそらくそのためなのではないだろうか。NHKや携帯料金の値下げとか、印鑑の廃止とか、あまりに個別のことに過ぎない。デジタル庁の創設にしても、彼がかなり大きなデザインを描いているわけではないだろう。
 以前池田勇人首相の毎日の生活を描いたノンフィクションを読んだことがあるが、その勉強ぶりはすさまじいものがあった。早朝から、朝食の前に、勉強会が行われる。たくさんの資料が用意され、報告者が決められている。朝食は、そのあとだったと記憶する。つまり、会食のような形式で、知識を仕入れているようなものは、非常に雑駁な知識の寄せ集めをするだけである。おそらく、現在の自民党は、そういうことで済んでしまっているのだろうと想像する。
 
 では、どうしたらいいのだろうか。私は自民党支持者ではないので、本当はどうでもいいのだが、政権党である以上、やはり、政権を担っている政治家には、しっかり勉強して、切磋琢磨し、実力を磨いて、しっかりとした政治を行ってもらいたい。
 最低限、思いつくことをあげてみる。
・二世、三世だからといって、政治家になることを禁止することはできない。せめて、イギリスのように、親の選挙区を継承することを禁止するべきであろう。あらたな選挙区にはいって、そこで地元民の支持を獲得するための活動を、0から開始するように義務づければ、本当に実力のある政治家が育つだろう。落ちたとはいえ、イギリスは、まだまだ日本よりは、影響をもっている。
・国会では、与党の質問時間を失くす。あるいは、最小政党と同じ程度の時間にする。
 民主党政権で、民主党は与党としての質問を少なくした。しかし、自民党は政権に復帰すると、自民党の枠を拡大し、議員数に比例する方式に復帰させた。そもそも、与党は政府を構成する政党だから、質問することはほとんどないはずである。そして、与党が時間を使い、野党に十分な時間を与えないことによって、政府が答えなければならない状況を、そうとう減らしてしまうことになる。これは、健全な政治の在り方ではない。与党の馴れ合い質問に答えることで、時間を浪費できるのだから、政府の答弁能力を鍛える機会が減っているのである。
・公職選挙法違反で有罪になった者は、一審段階で、暫定的に停職にし、最終的に無罪となったときには、復帰を認める。
 夫婦で起訴される国会議員というのは、史上初めてだろうし、妻のほうは有罪判決がでた。そして、この夫婦は、まったく国会に登院しておらず、国会議員としての最低限の職務を果たしていない。そもそも議員に対する歳費というのは、何に対して支払われるのだろうか。労働者の給与は、当然労働をしてこそ支払われるわけである。労働をしないのに、給与を受けられる労働者などは存在しない。有罪になった時点で、停職となり、歳費の支払いを停止するのが、制度的に好ましいといえるが、(そうすれば、違反に対する規制力が向上することが期待される)そうできないとしたら、正当な理由なく、登院せず、与えられた職務をしない国会議員には、歳費を支給しないようにすべきであろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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