共通テストのマスク受験の失格

 16日と17日に、最初の大学共通テストが実施され、大きな話題になっているのが、マスクをしているが、鼻をだしていたので注意をうけ、6回の注意にもかかわらず、従わなかったので、失格にされたというできごとだ。失格について、賛否両論起きているが、賛成が圧倒的に多く、しかも、真偽のほどはわからないが、近くにいたという受験生からのツイッターも複数ある。いずれも、非常に迷惑したということだった。
 その後、いくつかの事実が報道されていた。現在報道されていることは、その受験生は49歳であること、教室を出たあと、トイレの個室に閉じこもったために、警官が壁をよじ登ってなかに入り、逮捕したということだ。イライラしていたので、従わなかったと話し、容疑を認めているということだった。
 コロナ禍での受験だから起こりうることで、同じ教室にいた受験生は、最後の英語リスニングの試験で、去ろうとしてその受験生のために、別室に移動することになったという。かなり迷惑なことだ。
 
 断固失格措置を批判しているのは、茂木健一郎氏である。

 
 「茂木健一郎 @kenichiromogi
鼻出しマスクの件、非典型的な個性に向き合い、包摂することが本質。注意されたらおとなしく従うということが悪意ではなくできない個性もあります。しかもマスクという人によって身体性知覚が異なるものが対象なのに。明らかに試験官側の対処が稚拙。記録して後に事情も聞けた。これはマスクゲートだ。」
 
 一番いいたいことは、このことだろう。
 しかし、どう考えても、茂木氏の主張は納得しがたいものがある。近くに座っていた人の茂木氏へのコメントでは、鼻だしでも可である、別室受験を監督から提案されても、それを拒否したという。
 私の経験では、失格にするというのは、相当なことがないと入試センターはやらない。実は、私は一度だけ、センター試験で、不正を摘発したことがある。どんな入試でも、絶対不可の「やめ」合図後、まだ鉛筆をもって答案に記入している受験生がいたのだ。明らかに3問程度書き込んでいた。それで昼休みの時間だったので、答案を持ち帰り、そして報告をした。すると、担当者が、その受験生を呼び出して、事実の確認をした。そして、受験生をそれを認めたのである。午後の試験が開始されたときに、その受験生は席にいなかった。試験の統括者から、不正を認めたので、おそらく失格になると伝えられていたので、そのまま試験を続けていたのだが、30分ほど経って、その受験生が入室して、統括者から、入試センターに報告したところ、受験を認めるように、ただし、時間の延長はしない、ということになったと聞かされた。明らかな不正で、本人が認めたのに、失格にしなかったのである。
 私には、理解できない措置だったが、そのまま監督を続けて、その日は終了した。その後、その受験生がどうなったかは、まったくわからない。要するに、入試センターが失格させるというのは、本当に余程のことがあったときだけなのだ。このマスク受験生に対しても、最初の注意から、リスニングの時間開始まで教室にいたのだから、その間に、入試センターでの協議があり、その結果として失格が担当者に伝えられたはずである。かなり慎重に検討されたと思われる。
 
 何故センターが慎重なのか。それは、センター試験や共通テストは、受験生からのクレームが非常に多いからだ。もし、マスク受験生に対して、何もしなかったら、同室の受験生から、ほぼ確実にセンターにクレームが寄せられたに違いない。そして、問題として、翌日の新聞に、大学名が報じられる可能性があるのだ。他方、安易に失格にしたら、失格にされた側からのクレームがありうる。50万人も受験するし、その会場や監督も膨大な人数になる。ミスをゼロにすることは不可能だから、受験生に納得できない事態は、ゼロにすることは難しいのだ。
 
 ところで、今の段階ではわからないが、この人は、本当に受験する意志をもっていたのだろうかというのが、疑問に思われる。49歳で受験してもおかしくはないが、かなり珍しい。私は、30年以上大学に勤めていて、毎年入学試験を監督してきたから、おそらく、100回は監督したが、40代の受験生には、一度もあたったことがない。私立大学では少ないとしても、センター試験でもそういう年齢と思われる受験生はいなかった。
 ひやかし受験とか、あるいは、混乱を最初から引き起こそうという意図での受験とは思いたくないが、なにか不自然なところがある。本当に大学に入りたくて受験しているならば、試験官の注意を6度も無視したり、あるいは、退去を求められたのに抵抗して動かない、などというとは、考えにくいのである。
 軽々しく断定はできないが、なにか不自然なものを感じるのは、私だけではないだろう。意図してやったのだとしたら、本当にやめてほしいと思う。
 
「補充」
 今日になって、新たな情報として、鼻をだすかたちでマスクをしていたのは、眼鏡が曇ってしまうからだ、と当人が説明していることが、報道されている。茂木氏は、おそらく、身体的な不都合があったのではないかという前提があったように思われる。もし、身体的な要因があるならば、そのように説明すればいいだけで、代替措置を受けることができたわけだ。しかし、めがねが曇るというのには、少々驚いた。もちろん、マスクをすると眼鏡が曇るのは、私自身、日常的に経験しているので、マスクをしなくてもいいときには、しない。店に入るときに、絶対にマスクをしなければいけないときには、変な格好だが、マスクをして、眼鏡を上にずらして、事実上外すような形にしている。そうしないと、すぐに曇って見えなくなるからだ。
 しかし、これは、いくらでも対策がある。くもりどめのグッズはいくらでもあるのだ。私は、購入しようと思って薬局にいったときに、品切れと言われたから、その後わざわざ買いにいってないが、試験を受けることになれば、なんとしてでも手に入れてから、試験会場にいくだろう。49歳ともなれば、その程度の知恵は働くはずである。
 いろいろな事実が明らかになるにつれて、やはり、失格になった受験生に、落ち度があり、失格は不当でないこと、茂木氏の見解は間違っていることが、明確になってきていると思う。2021.1.20

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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