合格者に入学を強制できるか 東京学芸大付属高校の混乱?

 国立の高校である東京学芸大学付属高校が、他校に合格した場合にも辞退しないように、受験生に入学確約書を書かせたことが、ネットで話題となっているという。まさかと思うが、事実のようだ。もちろん、進学実績でも非常に高い、学大付属高に合格して辞退する人かいるのかという驚きもあった。それには理由があったらしい。
 Jcastニュース2021.1.18「受験生に「入学確約書」要求、学芸大附属高に「圧力」指摘 学校側は反論「あくまでもお願いです」」によると、2016年11月に男子生徒かいじめが発覚した。
 当時の産経新聞によって事実を確認すると以下のようだ。
 2015年5月から9月に、5件のいじめが発生した。体育祭の練習中に倒して、手首骨折、また、投げ飛ばして脳震盪。部活中に、被害者をはやしたてて、セミの幼虫をなめさせるというようなことがあった。9月に被害生徒の保護者から訴えで知ったが、学校側が文科省に報告したのは、翌年の3月で、11月に処分が発表されたということだ。(産経2016.11.29) 
 そして、その翌年の入試で、入学辞退者が続出し、定員割れが生じたのだそうだ。更にその翌年は、繰り上げ合格も実施したという。そして、更にその翌19年に、入学辞退をしないようにという文書を出し、入学手続の締め切りを、都立高校などの発表前にしたというのだ。それでも辞退者の歯止めがきかず、繰り上げ合格措置のために、日比谷高校が影響を受け、二次募集を実施するという、これまた異例の事態になったという。

 そして、入学辞退しないようにという文書をいれるのは、おかしいのではないかという批判か起きているわけだ。正直、進学上位校においては、かなり珍しいことだと思う。
 学大付属のような高校で、重傷を負うようないじめがあるというのも驚きだ。あれだけの進学校であれば、暴力沙汰が起きるというのは、本当に稀ではないだろうか。そして、実際に起きたときに、学校当局の対応がまずく、処分者が、校長を含めて5人も出たというのが、更に驚きだ。一体どうなっているのだろう。学大付属であれば、毎年大量の教育実習生を引き受けて、未来の教師を指導しているはずであるが、どんな指導をしていたのかについても、疑問に思ってしまう。
 
 入試の辞退をしないようにという要請について検討しておこう。
 これに類することは、私自身経験していることがあることと、また近くで起こったこともある。多少違うことだが。
 私も、実は国立大学の付属高校に入学した生徒であった。そして、当時は、不便だなとは思ったが、その付属高と都立高校を両方合格することは、不可能な設定になっていた。というのは、付属高に合格して、入学意志がある者は、都立高校の試験当日に、集合をかけられていたのである。だからは、都立高校を受験した段階で、入学辞退を伝えたことになる。それから、二次試験として、運動能力試験と面接があり、面接で都立高校との併願になっているので、合格したらどうするか聞かれていた。もちろん、私は入るつもりだったから、入りますと答えた。そう答えて、都立高校を受験する人もいたかも知れないし、都立を受けますといったら、不合格にするのかどうかもわからないが、正直に答えていれば、特に問題はないシステムだとは思う。ただ、私の場合、父親が都立に行けなどと、今から考えると、ありえないことを言っていたので、しばらくの間、親子の騒動があったのだが、私が担任の先生の力を借りて、押し切ったわけだ。少し前までは、都立を受験して、合格を辞退した受験生が若干いたが、私のときには、いなかったと思う。
 とにかく、入学意志がある者は、指定の日に行って入学手続をする、そして、ちょっとした式典もあった。入学意志がない者は無視すればいいので、当時、そうしたやりかたに不満は聞かなかった。もちろん、両方受験したい人は、いただろうし、両方合格して、あとで選択したいという気持ちもあるだろうが、これは、おそらく、都立高校との了解もあったのではないだろうかと推測している。もちろん、入学辞退しないように、というような文書は一切なかった。
 また別の例だが、私の知人の子どもが、高校入試の二次募集を受験する際に、願書提出のときに、応募書類にない「入学誓約書」を要求されたという。当日知ったので、試験日当日に提出するよう言われた。提出しないと不合格になることは確実だから、担任の教師の印を押してもらって、提出した。合格したが、別のよりレベルの高い学校にも合格したので、入学誓約書を提出した手前、入学辞退の断りを両親が出向いて説明したそうだ。なぜ、わざわざ出向いたかというと、同じ中学から多数受験する近くの高校だったので、後輩たちに迷惑がかからないように、丁寧に説明すべきだと考えたからだそうだ。その際、応募書類には、誓約書の提出は全く書かれていないから、誓約書の提出はルール違反であるから無効であるということで納得してもらったという。翌年、後輩たちにはまったく悪影響がなく、むしろ、普段よりも多数合格したそうだ。
 
 事前に入学することを約束する入試は、ごく普通に行われている。高校の嘆願はそうだし、大学の推薦入試もほぼそうだと思われる。もちろん、それらは、応募書類に書かれており、高校の進学指導担当者も承知している。しかし、一般学力試験の枠で、最初の入学願書の書類に、合格したら辞退しないようにという「お願いの」文書をいれるというのは、聞いたことがない。嘆願や推薦入試という、特別枠ではないのだ。もちろん、このような文書に拘束力はない。最高裁の判例によって、合格発表をしたあとは、学校側が合格を取り消すことできないが、受験生のほうは、いつでも辞退することができることが、確認されている。しかし、これは、自分がその要請に反して辞退すれば、後輩たちに迷惑がかかるのではないかという危惧が生じて、ある程度受験生を精神的に拘束する力があるとも考えられる。しかし、実際には、逆効果だったようだ。
 このような文書をいれたこと自体が、高校としてかなり恥ずかしいことだろう。日比谷高校の二次募集とか、学芸大付属の水増し合格とか、私立大学では、ごく当たり前のことで、そもそもそうした措置をすることが、日程として組み込まれている。そういう補正作業が不要になるような合格者の選定などは、神業で実際には不可能だから、予めそのつもりなわけだ。学芸大学付属がそういう学校になってしまったということに、驚きを感じてしまう。
 いじめがあったということが原因なのか、それに対する対応に不手際があったことが原因なのだろうか。それにしても、辞退するのに、受験するというのも、不思議な感じである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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