トランプのアカウント削除と支持者のファシスト化

 ドイツのメルケル首相が、トランプの行動を非難しながらも、ツイッター社がトランプのアカウントを永久停止したことを批判している。
 
 「ザイベルト氏は、うそや暴力の扇動も「非常に問題だ」としつつも、これらへの対応は国家が法的規制の枠組みを策定することでなされるべきだと言明。アカウントを停止し完全に投稿を見られなくするのは、行き過ぎだと述べた。ただし、虚偽の主張に警告を表示するSNS各社のここ数か月の対応には支持を表明した。
 トランプ氏の支持者による連邦議会議事堂への乱入について、メルケル首相はこれまで「激しい怒りと悲しみ」を覚えたと明らかにしている。」AFPBB News 2021.1.12
 ザイベルト氏はメルケル首相の報道官である。
 しかし、メルケル氏の批判は、あまり説得的ではない。というのは、メルケル氏の論によれば、国家がツイッター社に対して、法的規制の枠組みを策定するということになる。それこそ、国家による私企業に対する言論規制ではないのだろうか。言論のプラットフォームを提供しているだけのツイッターやラインなどと、出版社とは明らかに異なり、ツイッターなどの投稿内容に対する責任はずっと軽い。しかし、まったく責任を負わないというものではない。今回の議事堂襲撃事件で、自ら突入して銃撃された人、襲撃した人に暴行をうけて亡くなった警官は、トランプ大統領と、その言動を拡散することを許したツイッター社を訴える可能性がある。訴訟の結果、ツイッター社の責任が認定される可能性は低いと思うが、ゼロではないに違いない。
 また、いかにプラットフォームを提供しているだけとはいえ、かならず言論に関する守るべきルールを定めている。そして、そのルールに継続的に抵触しているとすれば、アカウントを停止ないし廃止することを決めており、それを受諾した上で利用しているはずである。メルケルの論理でいうと、そのルールを定めることすら否定されてしまう可能性がある。
 ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、トランプ派が、大統領就任式をはじめ、武装襲撃する計画がネットを使って密かに勧められている可能性があるという。そして、そういう呼びかけには、武器を帯同するようにという内容もあるそうだ。6日の議事堂襲撃の映像を見ると、そうした呼びかけが、決して、単なる憶測とは思われないのが、深刻なことだ。

 実際に、日本のトランプ支持派の人たちのなかには、そうした武装蜂起をあからさまに述べ立てている人たちもいる。そういう人たちは、彼等なりの情報網から、あまりオープンにはなっていないサイトをみているのだろう。したがって、やはり、武装蜂起的な計画があることは、事実だと思ってよい。議事堂への襲撃なども、日本のトランプ支持派は、かなり前から期待を込めて語っていたというのも事実だ。
 トランプは、アカウントを削除されても、別のアカウントを取得するなり、あるいは、他人のアカウントを使わせてもらうことはできる。しかし、これまでのトランプという、ツイッター上の「執筆者・人格」は消えてしまう。別の人格として、自分の発信したい内容は発信することはできる。そこが、インターネットの独特なところだ。トランプという大統領のいうことだから、多くの人はフォローしたし、また、受け入れた人たちは多かったに違いない。しかし、別人格で発信するときには、内容そのものの魅力で惹きつけるしかなくなるのである。そこまで規制することはできない。しかし、民主主義的に考えれば、暴動を扇動するネット人格を否定することは、理にかなっていると私は思う。少なくとも、事前にそうしたルールが明示されて、それを承諾して利用している限りは。
 
 私は、このブログで、前にトランプはヒトラーに似てきていると指摘したが、この間の動きは、それが加速しているといえる。元カリフォルニア州知事のシュワルツネッガーもそうした指摘をしている。彼は、ナチス支持者であった家庭に、1947年に生まれ、すっかり荒廃してしまった家族のなかで成長したという話を書いている。
 安易にヒトラーとの類似性を述べることは慎むべきであるが、最近のトランプは明らかに、ヒトラー的要素を濃くしている。
 ヒトラーの特質は何かというのは、かなり論争的だと思うが、結果からみて、ネガティブな特質が強調される。しかし、ポジティブな面も少なからずあったし、だからこそ、後年の政治家に影響も与えている。
 ポジティブな面の最大のものは、公共事業等で失業を減少させたことだろう。この点では、トランプもそれなりに評価されている。国民に直接語りかけることを重視し、宣伝力に秀でていたことは間違いない。そして、ヒトラーは、新しい宣伝方法を、ゲッベルスとともにいろいろと考案している。その最大傑作が1936年ベルリンオリンピックそれ自体と、映画化だろう。トランプも、ツイッターを活用して、国民どころか世界中の人々に直接、自分の考えを伝えるという、国家元首としては、まったく新しい手法を駆使した。しかも、多くの政治指導者たちが、それを見習っている。
 ネガティブな共通性もいくつかある。
 第一は、宣伝を活用したが、そこにデマを多数使っていることだ。「小さな嘘は疑うが、大きな嘘は信じてしまう」というのは、ゲッベルスの有名な言葉だが、まさしくヒトラーとトランプは、それを自覚的に使ったといえるだろう。新型コロナウィルスが非常に恐ろしい病気であることの報告を受けていたにもかかわらず、トランプは、単なる風邪だという風評を流し、結局、コロナ対策の失敗で支持を失うことになったが、しかし、それを信じたアメリカ人も多く、アメリカは、甚大な被害をうけることになった。そして、大統領選挙の不正疑惑キャンペーンもそうした、極めて大きなデマだ。両者とも、そうしたデマの宣伝を広げる場として、大規模集会を多用した。数千人、数万人もいる場では、人々は理性を失いがちになるという性質を、大いに活用したわけである。
 第二は、敵を創って支持者に攻撃目標を与え、そこに問題を向けていくという手法だ。ヒトラーにとっては、ユダヤ人であったが、トランプにとっては移民である。このような手法は、古典的な政治手法であるが、20世紀以降の大国で、ここまで顕著に、敵を創出して、そこに国民の意識を向けた政治家は他に見当たらない。
 この特質は、両者に極めて強い差別意識、差別政策と結びつく。ヒトラーについて述べる必要はないだろうが、トランプもまた、マイノリティ、女性差別意識を隠そうとはしなかった。これは敵創出と不可分の関係にある。
 
 相違はどうか。
 最大の相違は、ヒトラーがほとんど創立に関わり、しかも、早い時期から党首であったナチス党という政党の指導者だった点である。トランプは、共和党を乗っ取った形での党首であって、今回の議事堂襲撃事件で、共和党の指導者として留まることはできなくなるだろう。つまり、自分で育てた党をトランプはもっていない。今後、いまでも武力抗争を主張している人たちを政党として組織し、トランプが実際に指導者として君臨し、その政党を基盤に政治活動を続けていくのかはわからない。しかし、ヒトラーにはあった東方征服計画のような、イデオロギー、政治理念が、トランプにあるのだろうか。そこは疑問だ。
 したがって、ヒトラーは青年組織ヒトラーユーゲントを結成して、ナチス的人間を育成しようとしたが、トランプは、そうした青年組織を動かそうとはしなかった。つまり、将来プランはあまりないのだろう。
 最後に、暴力との関係である。ヒトラーは最初から暴力を重要な勢力拡大の手段としていた。ヒトラーは民主的な選挙で選ばれたとよく指摘されるが、半分は間違いである。選挙に勝つために、日常的に政敵に対して暴力を古い、恐怖心をあおった結果としての選挙の勝利だった。トランプは、これまでは暴力を特に使用してこなかった。しかし、大統領選挙に破れて以降は、戒厳令とか、軍隊の発動などをいう支持者が現れ、実際に、議会に乱入して暴行を働いたし、また今後も不穏な動きを指摘されてもいるから、今後、ますますヒトラーに近づいていくことが危惧されるのである。
 そして,日本の状況でいえば、そういうトランプを熱烈に支持しているひとたちが、まだまだ多くいるということも、それが何故なのかを考察していく必要があると感じている。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です