高齢者隔離措置?

 ダイアモンド・オンライン2020.11.27に、上久保誠人氏の「コロナ第3波に無策の菅政権、今こそ実現すべき安倍前首相の『遺言』」と題する文章が掲載されている。まだこういうことが議論されなければならないという点で、なさけない状態だと思うが、重要な論点が提示されている。ただし、全面的な賛成はできない認識もある。
 安倍前首相の「遺言」というのは、大げさな表現だし、多くの人が主張していて、なんとなく安倍氏も受け入れそうな感じだっただけで、本当にそう思うならば、さっさと実行すればよかっただけの話ではなかっただろうか。ただ、重要な点ではあると、私も思う。それは、新型コロナウィルスを指定感染症の第二類以上という扱いをやめて、インフルエンザと同等の扱いにするという提案である。完全に同等というわけにはいかないと思うが、無症状の者まで入院するという措置は、現在ではあまりとられていないはずなので、実質的には、厳密に第二類以上として実行されているわけではない。あいまいなのだ。はっきりさせることは必要だが、どういう線引きをするかは、実情に合わせる必要がある。
 まずは、上久保氏の主張を簡単に整理しておこう。

1 指定感染症第二類以上の指定をやめる。これで、無症状者、軽症者の入院隔離措置をやめ、自宅待機とする。
2 新型コロナウィルスの感染者、死亡者は、いずれもインフルエンザよりも少なく、WHOも同等と認めている。そして、新型コロナウィルスの死者は60歳以上の高齢者が大多数だ。若年層、現役層にとっては、ただの風邪である。
3 現在のやり方で、若年層・現役層に不要な行動制限をかけ、他方、高齢者に必要な行動制限をかけていない。(同じに扱っているから)これによって、経済が大打撃を受けている。
4 高齢者隔離リゾートの提案をしたら、反響が大きかった。イギリスのジョンソン首相は、50歳以上の外出禁止令を検討したことがある。考えてみるべきではないか。
 
 一番大きな疑問は、若年層や現役層にとっては、新型コロナウィルスはただの風邪と同じだという点だ。どう考えても事実と大きく異なる。単なる風邪は、ほとんど後遺症を残さない。よほどこじらせなければ、肺炎などになることもない。つまり、多少重くても少し休めば治るような病気である。しかし、新型コロナウィルスは、たとえ軽症であっても、後遺症が残り、それが後の生活に大きな負担を強いることがあると、報告されている。そして、少ないとはいえ、若年層でも死者が出ている。江戸時代ならいざ知らず、現在の日本で、風邪で死ぬ人はほとんどいない。
 また、確かに、感染者数や死者がインフルエンザよりも少ないというのは、現在の数字ではそうだろうが、やがて逆転するのではないだろうか。現に、今年はインフルエンザの感染者数は、激減している。これは、おそらく、新型コロナウィルスに対する警戒心で、生活スタイルを変えたことによって、インフルエンザの感染予防にもなっている側面が大きいからだろう。つまり、今年、および来年の数値では、新型コロナウィルスの死者数は、インフルエンザよりも多数になる可能性が高いのである。そして、インフルエンザはやはり、深刻な後遺症となることはそれほど多くない。しっかりと休息をとって1週間を過ごせば、実は何もしなくても治癒することが多いのだ。ほとんどの人が薬を飲むのは、それだけの休息期間をとれないからである。もうひとつ大きな相違と言われているのは、インフルエンザは通常発症者から感染するが、新型コロナウィルスは無症状者からも感染するだけではなく、発症する2日ほど前がもっとも感染力が強いという点である。つまり、インフルエンザは、発症したら自己隔離すれば、だいたい感染は防げるが(だから、登校は禁止される)、新型コロナウィルスの場合、無症状者からの感染を防ぐためには、広い範囲でのPCR検査が必要となるのも異なる。
 以上のことから、新型コロナウィルスは、若年層・現役層にとっては風邪と同様とする認識には、賛成できないし、やはり、インフルエンザよりも、深刻な病気であると考えるべきである。
 この点を除けば、上久保氏の提案は、賛成できる。ただし、実行は難しいとは思うのだが。
 若年層・現役層と高齢者とを区別して、対策をたてることは、大いに賛成である。実際に、高齢者はかなり行動自粛しているのではないだろうか。私自身、1月以来公共交通機関を利用していないし、でかけることには原則車にしている。また、いわゆる観光地の雑多なところには絶対にいかないようにしており、買い物などのときには、マスク着用して、しかも回数もかなり制限している。映画やコンサートも自粛している。つまり、ステイ・ホームの生活そのものである。しかし、現役層は、そうもいかない。多少後遺症覚悟で活動するのは許容されるのだろうが、しかし、現在の感染の多くは家庭内感染、つまり、若年層や現役層が外から持ち込んだウィルスを、家庭内で高齢者に感染させるというパターンが、最も危惧されるのだ。そういう意味で、3世代同居しているような高齢者を重点に、高齢者隔離リゾートというのは、実現できれば、非常にいい案だと思う。
 
 ここまで書いたら、ヤフーニュースに、政府は、指定感染症の現行の状況を来年2月以降も延長する方向で調整している、という記事が出た。「コロナ『指定感染症』延長へ調整 入院や外出自粛措置を継続」11.27)どうやら、安倍内閣の遺言の実施をしないことは、菅氏の意志であることがわかる。
 ちなみにGOTOの利用者は、高齢者もかなり多い。暇があるのと、お金があるから、この際利用しようというのだろう。高齢者の感染が増加したのは、やはり、GOTOの影響があると考えるのが自然だろう。感染拡大という危険な要素を刺激しながら、経済をまわすことではなく、安心と安全を確保することによって、経済をまわすべきなのである。GOTOなどに資金を使うのではなく、徹底した検査と隔離に資金を使うほうが、もっと大きく経済活動を保障するのではないだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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