新型コロナウィルスに対するワクチンの開発が進み、効果が95%であることが確認された、などというニュースが注目されているが、通常のニュースやワイドショーなどをみている限りでは、どうもよく理解できない部分がある。つまり、有効率が95%というのは、どうやって確かめたのかということだ。そして、何故、日本の医師の多くが、ワクチン開発はかなりの年数がかかるのに、これらのワクチンはまだまだ本当に有効であるかはわからない、と解説するのか、そうしたことがよく理解できないのだ。ワクチンが有効だったということは、ワクチンを摂取した人が、新型コロナウィルスに感染したけれども、まったく発症しなかったという人の割合が95%で、発症した人が5%だったというように、常識的には受け取れる。
例えば、毎日新聞の11月17日の記事に次のような文がある。
「ファイザーは9日、約4万4000人を対象としたワクチンの最終段階(第3相)の治験で、有効性が90%超だったと発表。モデルナも16日、3万人以上の第3相治験で有効性が94・5%に上ったとした。インフルエンザのワクチンの有効性が3~5割程度とされ、「90%超」に関係者の間では驚きが広がっている。
宮坂氏は「9割超」の意味について「『100人に接種して90人に効果があった』というものではない。ワクチンを打たなかった人で(新型コロナを)発病した人の9割は、ワクチンを接種していたら発病しなかっただろう、と言い換えられる」と説明。」
この文章は、何度読んでも、私には理解不可能である。「ワクチンを打たなかった人で発病した人の9割はワクチンを摂取していたら発病しなかっただろう」などということが、何故わかるのか。ワクチンを打ってないのだから、わかるはずがないと思うのだが。要するに、この数値は、ワクチンを打った人は一定期間に5%程度しか発症しなかったということなのだろうか。私のような素人には、そういう意味にしかとれない。しかし、そうだとして、だからそのワクチンが有効だということにはならないだろう。なぜなら、ワクチンを打った人がみな、新型コロナウィルスに感染したかどうかはわからないからである。要するに、ワクチン開発が時間がかかるのは、ワクチンの効果は、実際にウィルスなり細菌に感染しなければわからないわけだから、このくらいの時期があれば、感染した可能性が高いという目安を決めて、その効果を試すのだろう。コロナが流行しているからといって、かならずしも感染するとは限らない。だから、5%とか95%という数字は、正確には信頼できるものではないのだ。長い時間をかければ、確かに感染した可能性が高く、また、その内発症した人とそうでない人が明確になるだろう。だが、コロナの場合には、そうした長い期間をかけての治験ではないようだ。
そこで、いろいろと調べている内に、やっと、ヒューマン・チャンレンジ試験という方法について、行き着いた。実際の研究の現場では、ずいぶんと話題になっているようだ。ヒューマン・チャレンジ試験というのは、実際に、そのウィルスが感染するようにして、ワクチンの効果を試験するというものだ。つまり、確実に感染させるわけだ。しかし、実際には、新型コロナウィルスに関するワクチンでは、このヒューマン・チャレンジ試験は実施されていない。倫理的な問題があるから、実施が提起されてはいるが、まだ承認されていないわけだ。
日経バイオテクの記事(2020.10.23 久保田文)によれば、WHOは以下の指針を満たせば、ヒューマン・チャレンジ試験が可能だとしている。
「ガイダンスでは、8つの主要な基準として、(1)強い科学的正当性、(2)リスクと潜在的ベネフィットの合理性、(3)一般市民や専門家、政策立案者への通知と相談、(4)試験関係者や規制当局、政策立案者間での緊密な調整、(5)科学、臨床、倫理面で試験を遂行できる施設の選択、(6)リスクを抑え、最小化するための被験者の選択、(7)独立した専門委員会による審査、(8)厳格なインフォームドコンセント──を挙げ、こうした基準が満たされれば、ヒトでのチャレンジ試験を実施し得るとの見解を示している。」
ただ、別の記事では、一般論として、ヒューマン・チャレンジ試験が行われるためには、その疾患の治療法が確立していることというのがあるようだ。つまり、治療薬はあるが、まだワクチンが開発されていないような疾患では、ヒューマン・チャレンジ試験を行って発症しても、治療することが可能だから、倫理的問題は低いということだ。しかし、新型コロナウィルスに関しては、まだ確立した治療法がない。レムデシベルについても、死亡率を低下させる証拠がないという見解もある。更に、上記の条件を満たすのは、かなり難しいようだ。ウィルスに感染させるということは、密閉された部屋にウィルスを含んだ空気をいれて、それを吸わせるということのようだが、そうすると、その空気が外に絶対に洩れないようにしなければならない。完全に空気が浄化されてから、被験者が部屋を出るということだが、そういう浄化装置が設置されていなければならない。
難しい議論はさておき、大事なことは、これまでに公表されているワクチンは、いずれもヒューマン・チャレンジ試験を経ていないということだ。そうすると、効果を検証するためには、ワクチン投与後、かなりの日数を経ないと、ウィルスに曝されたかどうかは、十分にはわからないことになる。また、安全性についても、直ちには現れないが、かなりの日数を経て、副作用が現れるという可能性もある。そういう意味で、効果も安全性も、厳密には実証されていないということになる。テレビの報道は、そこをあいまいにして、製薬会社の発表を鵜呑みにして垂れ流しているといわれてもし仕方ない。従って、現在の時点では、ワクチンが開発されているから、オリンピックを安全に実行できるなどということは、まったくの絵空事であると考える必要がある。
さて、ヒューマン・チャレンジ試験が実行できれば、確かにワクチンの開発期間は圧倒的に短縮することができる。しかし、WHOの指針を守っての実験というのは、可能なのだろうか。そこには、治療薬が存在しているという条件が欠けているのであるが、それも疑問である。ただ、実際に8つの条件を守って行われるとどうなるのだろうかと考えてみたい。
まず確実な治療薬がないこと、そして、新型コロナウィルスは発症すると、生命の危険があること、治癒してもかなりの後遺症が残る危険があること、等を厳格に告げた上で、治験に参加する人を募集するとなると、ボランティアではあまりいないのではないだろうか。薬の治験であれば、実際の患者が希望するだろうから問題はないが、ワクチンは健康である人に治験をするのだから、病気になる可能性がある。やはりそれなりの謝礼をだすことになるだろう。そうすると、貧しい人が参加する、貧困者による人体実験ということになる可能性が高いように思われる。
また、ヒューマン・チャレンジ試験で、効果の確認が短期間で済むようになったとしても、安全性はやはり長期的な確認時期が必要なのではないだろうか。
日本では新薬の認可条件か非常に厳しいが、それはやはり、合理的な理由がある。また、テレビに出演している医師たちは、慎重に考えるべきであるといっているが、それが正しいように思われる。