教員採用と行政区域

 大阪都構想が否決されたが、ここで二重行政が問題となった。いろいろな分野でそうした重なりがあるのだろうが、私の専門領域で考えてみることにした。それは、教員採用と教員の移動である。通常の都道府県では、公立小学校と中学校は、市町村立であるが、教師の採用と人事に関しては、県が行うことになっている。そして、給与もかつては半分が県、半分が国という分担だったが、現在は県が3分の2、国が3分の1を補助するように変化している。これは、知事たちの要求で、都道府県の裁量部分を増やすという目的で変更されたが、同時に、それまで全国一律の給与表だったが、都道府県で変えられるようになった。いずれにせよ、都道府県が公立小中学校教師の給与を負担し、国が補助をする。そして、そのシステムと表裏のものとして、教員の採用とその後の人事も、都道府県が行うことになっている。
 ところが、政令指定都市は、この権限を市として行うことか認められている。市が給与を負担して、採用や人事も市で行うわけである。大阪もそうだし、埼玉県も同様だ。しかし、横浜や千葉は独自の採用試験を行っておらず、県の採用試験に任せている。大阪は、私の指導する学生が就職したことがなく、また、遠くて詳細がわからないので、とりあえず、埼玉、東京、千葉で考えたい。

 東京は、採用も人事も東京都として行い、移動なども全域が対象となっている。人口稠密地域がたくさんある一方、過疎地域も存在する。そして、島もあるので、東京都の教師になろうと思う者は、気を使うのだ。島を希望するものは少ないが、それだけに、面接で島でもいいとか、島を希望すると伝えると、合格可能性が高まると信じている学生も少なくない。本当のとこはわからないが。
 それに対して、埼玉県は、当然県としての採用と人事をするが、さいたま市は政令指定都市として、独自の教員採用試験を実施し、採用・人事を市内で完結させている。それが始まったときには、比較的人気がなかったのだが、さいたま市は財政が豊かなので、教育投資を熱心に行い、現在では県よりもずっと合格が難しくなっている。従って、埼玉県で採用された者は、さいたま市を除いた地域の教師になるが、県をいくつかのブロックにわけて、だいたい希望するブロック内に赴任し、その範囲内で移動する。
 このように、教員採用やその人事は、基本的には、都道府県によって行われることになっているが、政令指定都市になると、その権限を行使することができる。しかし、それを行使する政令指定都市としない都市がある。他にも、このような権限があるから、通常は県に属する権限が、ひとつの内部の市が政令指定都市になると、県の権限を奪うという結果になるわけだ。特別区は逆に、一般の市よりも、権限が小さく、都に吸い上げられている。
 もちろん、権限が大きいほうがよいというわけではなく、その権限を行使する行政主体は、どのようなものが適切なのかという問題だろう。
 教員人事に戻る。
 教員採用は、どういう範囲で行うのがよいのだろうか。長らく日本では都道府県がその単位であったが、学校の設置者が市町村であるのに、教員人事は都道府県というのは、齟齬が起きる可能性は高い。何故、都道府県に人事権があるのか。それは、教師の給与負担が市町村には大きすぎるので、給与は県が負担することになり、それに応じて、人事権を県がもつようになったわけで、論理的に設置は市町村、人事は都道府県という分担がなされたわけではない。政令指定都市が、人事権をもつようにしたのは、こうした矛盾を解消するために、政令指定都市の要求によるものだ。戦前は、義務教育、つまり小学校の教師は、師範学校によって、専権的に養成されており、卒業生は教師になることが、基本的に義務づけられていたから、現在のような採用試験のシステムは存在しなかった。教員養成が開放制になったことにともなって、採用試験という制度が整備されてきたのである。
 採用の方法については、ヨーロッパの多くの国では、学校が採用単位になっている。もちろん、そうではない国家的な統一試験がある場合もあるが。更に、国家試験あるいはそれに似た統一試験の合格を前提にするか、あるいは、養成課程での卒業資格と単位取得によって、個別の採用試験を受けられるかどうかという区分もある。
 このように、大学で必要な単位を取得することは、共通であるが、採用プロセスは、
・基礎資格としての統一試験とその後の個別の採用プロセス(面接・実技など)
・統一試験そのものか採用試験で、合格後赴任校を指定
・学校単位の選抜
という大別して3通りがあるといえる。もちろん、細かく見れば、もっと多様な類別化がありうるだろう。
 日本は2番目の類型となるが、これはどのような特質があるだろうか。(政令指定都市の例外はまずは考慮外)
 長所としては、受験者は一度の受験で済む。オランダのように、学校単位であれば、ひとつの学校の倍率が非常に高くなり、いくつもの受験をしなければならない。また、学校を適当な間隔で変わることで、マンネリを防ぐことかできる。
 短所としては、一度に数百人の受験者の採点をする必要があるから、丁寧な選抜をすることが難しい。教師が移動するので、学校としての特色ある実践をするのが難しい。教師にとって、移動範囲が都道府県によって異なり、広域の地域では、行政側が威嚇的に移動を武器に、教師の統制をすることがある。
 それに対して、学校単位の採用にしても、長所短所がある。
 この考察の目的は、行政単位と採用方式は、どのような種類があるかの整理なので、どのような採用方式がいいのかの考察は、別の機会にしたいが、こうした様々な機能が、特別区、市町村、政令指定都市、都道府県によって異なるのだということと、どの行政形態に属するのが適切なのか、丁寧に検討することが必要であることを確認してとくに留める。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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