コロナ禍は第一波?

JBpress 2020.10.29に、久しぶりに伊東乾氏が登場し「米大統領選後に訪れるコロナ大恐慌に備えよ」という文章を掲載している。この間、コロナ関連の情報処理の仕事をしていたとかで、今後、蓄積したことをどんどん書いてくれるのではないだろうか。
 さて、この文章を読んで驚いたのは、個々の国、地域の感染者数の増減と、世界全体の合計の増減とは、まったく違う様相を示しているという点だ。日本やヨーロッパなどは、明らかに、春先にピークがあり、ロックダウンや自粛などで、ある程度新型コロナウィルスの感染を押さえ込んだ時期があるが、9月10月から再度増加し始めている。だから、そういう波で世界が動いているという感覚を、私ももっていたのだが、確かに、世界全体の動向としては、異なるのだ。https://www.worldometers.info/coronavirus/


 伊東氏と同じサイトから引用したが、伊東氏はもっと横長に造り直している。これをみれば、一目瞭然に、世界全体としては、一度としておさまったことはなく、一貫して増加し続けているということになる。注意しているつもりでも、まったく見落としていた。確かに、ヨーロッパや日本、北米が収まりかけていた時期には、ブラジルやインドなどが大きな感染状態を引き起こしていたから、世界全体としては、決して減少していなかったのだ。
 これら、北半球は冬を迎えるわけだから、当然ウィルス性の感染症は増える。中国の一地域から広まった新型コロナウィルスが、これだけ感染した。全世界で感染状態にあるなかで、感染しやすい季節を迎えるのだから、いかに深刻な事態が起きるか、見当もつかない。とにかく、感染をしない対策を個々人がとることが大事なのだろう。
 いまやっと入手可能になった新型コロナ対応・民間臨時調査会の『調査・検証報告書』を読み進めている。まだ、全部は読んでないが、過去の新型インフルエンザを深刻には体験していない日本としては、ダイアモンド・プリンセス号がいきなりやってきて、船内感染という事態を引き受けざるをえなかったことは、本当に大変な事態だったのだと、改めて認識した。いろいろ批判はあったが、たとえば、船内に閉じ込めたことについては、日本に、4000人を越えるひとたちを、隔離収容できる施設などなかったとか、とにかく、まだわからない病気であったこと、等々、困難だらけであったことは、理解できた。しかし、それでも、直ちに対策チームを作り上げるときに、本当に、こうした感染症対策のプロたちを集めたのか、という点では、まだまだ疑問は消えてはいない。
 それから、日本人は、まじめで、政府がいうと、しっかり受とめて行動するという性格が、強調されているが、本当にそうだろうか、と私は今でも多少は納得できない部分がある。3月に、非常に危ないと言われたヨーロッパに、多数の旅行者がでかけたことなどは、政府の勧告に従わなかった例といえるだろう。大学生の卒業旅行などが多かったので、私自身は、既に卒業生をもっていなかったから、学生に注意する場面などはなかったのだが、それでも、大学などは、多少甘かったのではないかと思う。なんといっても、日本人のなかに、かなり深刻な事態なのだ、感染症対策を個々人でしっかりしなけれは、という思いが広範に浸透したのは、志村けんの死亡だったと思う。政府の提言ではない。また、それに続いて、何人かのタレントや有名人が感染したことも、それを加速した。確かに、欧米人よりは、同調圧力が強く、政府の勧告を素直に受け入れる傾向は強いと思うが、それは、逆の生活面では、様々な問題の原因ともなるので、同調性を過度に、「日本的方式」などとして、称賛することは、疑問である。
 
 全国休校措置に至るあたりまでの、各行政単位や専門家は、調査書によれば、非常に頑張ったのであるが、興味深い記述がいくつかでてくる。
 専門家会議が設置され、政府の側に助言を行う活動をしていたが、そのうちに、専門的なことについては、やはり、専門家が説明しないと国民には十分伝わらないということで、尾見氏が説明を始めたということだ。そして、そのあたりから、やはり、専門家だけの議論が必要だということで、政府の担当者を含めた正規の会議の時間が終わったあと、専門家だけで討論をほとんど毎日のようにやっていたのだそうだ。そしてそこでは、かなり激論がかわされ、怒鳴り合うような場面もあったという。感染症にかかわる専門家が、専門の立場で議論しているときに、そんなに激しくやりあうというのは、どんなことだったのだろうと、非常に興味をもつ。間違いなく、そこには、かなり本質的な検討事項があったに違いない。その議論については、だれかが、詳細に紹介してほしいものだ。
 私は、いまだに、専門家の説明で納得ができないことがあるのだ。それは、感染した人の8割は他人に感染させることはなく、他の2割の人が多数の人に感染させるという、たびたび繰り返された命題である。これは、前にも書いたが、かなり早い時期の、尾見氏と山中氏の対談で語られていて、何故ですか、と山中氏に質問したときに、「わからないのだが」と尾見氏が答えているのだ。そして、その後も、なぜそうなるのかの理由を、私は読んだことがない。
 当初は、発症していない無症状の人は、陽性であっても、感染させないという「前提」で方針が決められていたが、あとで無症状でも感染させることがわかったというので、間違った方針を一時的にもとってしまったことが悔やまれるという、反省が書かれていた。当初から、そして、今でも、疑わしい者だけが、PCR検査をするのだから、感染していても無症状の場合には、検査されていない可能性が高いわけである。感染経路不明のだれかから感染した場合には、だれかの濃厚接触者のなかにはいっていると認識されない場合があるわけだから、、無症状であれば、検査の対象にならない。そして、無症状でも感染させることがあるというのであれば、実は、検査の対象にまったくなっていない無症状の感染者が、他人に感染させていて、更に、そこで感染した人も無症状であれば、まったく、調査の対象にならないわけである。そうやって、若い人たちの間で、感染が広がっており、決して、2割だけが感染させるのではない可能性もあるはずだ。症状が現れた人と、その濃厚接触者だけを検査して、どうして、陽性者の8割は感染させることがない、と結論をだせるのか、私にはわからないのである。いまでは、重傷になる可能性がある人と、そうでない人が見分けられるようになっているのだから、感染させる人と、させない人を見分ける方法や、あるいは、両者のなんらかの要因となる違いがわかっていないのだろうか。私には、最初にそのような印象をもったので、それが無批判に続いているようにも思われるのである。
 思いつくままに、書いてきたが、調査報告書を読了したら、また考察してみたい。
 要するに、現在は、全世界的には、新型コロナウィルス感染の「第一次の波」の真っ最中であり、それはますます拡大しているという認識が必要だということだ。統計はそれを物語っている。しかも、これからが流行する時期に突入するわけだから、当分収束はしないだろう。オリンピックなど、とんでもないというべきだ。
 生活スタイルや経済の在り方など、大変革が必要となるわけだが、その点については、次に考えたい。
 
 
 
 
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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