コロナ後の大学の在り方を想像する3

(昨日の続きで、今回は残った課題を個別に考察する)
(7)現在の大学で、単位制限の問題が、かなり学生たちを苦しめている。文科省の指導などで、学部として、学期ごとの最大単位申請数の制限を設けるようになっているのだ。文科省が、こんなことを指導するのは、おかしなことだと思うが、最近の文科省は、大学の自治を無視するようなことを平気でやっている。
 特に最近の学生は資格を多くとりたがる。社会全体が資格社会になっているのに対応しているのだ。ところが、多くの資格は、正規の学部や学科の科目とは別の科目が要求されることが多い。もちろん、資格取得が認められるには、土台となる分野があるから、学科の科目と共通する部分もあるが、それだけでは足りないのが普通だ。従って、資格をとろうとすると、余分の授業をとらなければならない。それで、履修数が多くなる。資格のための特別費用を徴収する場合もあるが、それは事務的な経費にかかるもので、余分な授業などは含まない。従って、資格用に、授業を設定すれば、それは大学にとっての負担になる。大学にとっての負担というのは、その資格をとる学生にとっては利点だが、とらない学生にとっては、自分に関係ない余計な負担をすることになる。これはやはり不合理だ。

 更にいえば、授業料が履修する授業への対価であるとすれば、いくつ授業をとっても、授業料が変わらないというのも不合理である。アメリカの大学の事情に触れるようになって、北米では授業料は申請単位数によって決まることを知った。その方がずっと合理的である。単位数によって授業料が決まるのであれば、社会人の聴講や単位取得も、個別に決められるから、社会人の聴講を格段に増やすことができるし、学生間の不平等も解消することができる。そして、何よりも、ルールで学期あたりの単位数制限を決めるよりは、自発的に授業料との関係で、自分で判断するようになるのだろう。そして、単位ごとに授業料を払うようにすれば、他大学への履修の仕組みも組みやすくなる。
 
(8)しかし、このようなオンラインの大学教育システムは既にあるではないか、それとはどう異なるのかという意見も出てくるだろう。
 Moocは、世界的に有名な大学の講座を、無料あるいは有料で提供しているシステムで、日本の大学も参加している。在宅で東大の講座を受けられるわけだ。しかし、これは、あくまでもMooc用に構成された講義であって、決して、実際に大学で行われている授業そのものではない。私も、退職を機に、体験の意味も含めて、いくつか履修している。少なくとも、大学で90分ないし100分の講義15回分を網羅したものは、私がみる限り、ほとんどない。あくまでオープン・ユニバーシティのような、かなり簡略化した教養講座のようなものだ。もちろん、それは意味があるものだと思うが、私が、既存の大学の教育そのものを開いていくべきというものとは違うのである。
 私が履修している Globalization: past and futureは、単に履修するだけなら無料、修了証をとるためには、25ドル払うという仕組みで、4回講座、各ビデオと講義をおこしたテキストがある。修了証をとるためには試験もある。あくまでその講義を修了したとい認定であって、大学教育での単位ではないし、また、内容も通常の講義のダイジェスト版のようなものだろう。
 ここでは、単位が与えられて、資格要件を満たすことができる授業を、オンラインで提供することを提案している。
 こうしたことは、大学で連合を組んで、相互にカリキュラムを調整することによって可能になるだろう。日本の大学は、非常勤講師が非常に多いことを既に書いたが、これは、大学の教授や准教授が非常勤講師をしている場合には、実は、大学同士の相互協力が実行されていることになる。しかし、それは結果としてであって、組織として、意識的に協力しているわけではない。現代社会は、組織間の競争だけではなく、協力こそが重要になるのだと、私は思う。だから大学同士も、もっと協力関係を強化すべきなのである。そして、相互に授業をオンラインで提供しあえば、講義にかかわる教員を減らすことができ、それだけ演習科目などの、少人数の指導が可能になるのだ。
 日本の大学の低下が指摘されている。私自身、それを実感してきた。コロナは、そうした大学の在り方に、根本的な再考を迫ったわけだが、元に戻るのではなく、現在使用可能なメディアを総動員して、教育・研究の再構築を図る必要があるのではないだろうか。
 以上書いたのようなことは、当然法令の改正が必要なものも少なくないだろう。しかし、大学自身がそういう意思を持たなければ変わりようがない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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