マイナンバーの紐つけ議論が出ている。きっかけは、10万円の給付金支給で、マインバーカードを使用したところ、大混乱に陥ったことだった。それで、ひとつの銀行口座を紐つけしようという議論がでて、そのうち、金融機関の口座全部を紐つけしようという案もでている。普通であれば、10万円給付で、書類よりもマイナンバーカードを使うほうが手間がかかり、遅れてしまい、そしてとりやめざるをえなくなったという事態が生じれば、どこに問題があるのかを徹底的に究明して、そこを改善しようということになるのではないか。ところが、そんなことはあまりやった雰囲気がなく、直ぐに口座紐つけという案が出てくる。こういうのを「場当たり的対応」というのではないか。あるいは、ナオミ・クライン流に、「ショック療法」で、都合のいい悪巧みを、混乱を利用して実行しようということなのか。
そもそも、マイナンバーやマイナンバーカードを何故使うのか、どのように使うのか、そういうグランドデザインがあるのだろうか。マイナンバー制度そのものが、政策能力などみじんも感じられない安倍内閣によって創設されたものだから、機能するはずがないと思ってきたが、案の定、今回の混乱だ。
先進国のいくつかでは、国民に番号を振り、それで様々な機能を円滑に進めている。もっとも徹底しているのは北欧諸国の「国民総背番号」だろう。日本は、それを部分的に取り入れようとして、何度も失敗してきた。だいたい、国民に振られている番号は、いくつあるのだろうか。公的な番号で、私自身が、自分の番号として自覚しているものに次のようなものがある。
・マイナンバー
・納税者ナンバー
・基礎年金番号
・住民基本台帳コード
・雇用保険ナンバー
・健康保険のナンバー
私が自覚していないだけで、もっとあるのかも知れない。そして、いくつかの番号は、日常生活のなかで、ほとんど使ったことはない。マイナンバーカードはまだ所有しておらず、マイナンバーの記入を求められたのは、これまでに10回はないだろう。年金生活者になったので、さすがに、基礎年金番号は、なんどか手続で使うことがあったし、問い合わせで必要なことが多かった。住民基本台帳コードなど、いまだに一度も使ったことがない。お前の番号はこれだと通知があったときに、確認し、そんな書類を確実にとっておく自信がないので、ノートに書き留めてあるが、これはどのようなときに使用するのだろう。
マイナンバーに関して、本当に不思議なのは、国民全員に送られた「紙」と、それをもとに申請するカードという二本立てにしてあることだ。本当に必要なのは、カードではなく、「番号」そのもののはずである。「番号」をどのような場面で、どのように書いたり、入力したりする必要があるのか、それを徹底的に整理すれば、カードなど必要ない。記録され活用されるのは「番号」なのだから。「紙」と「カード」という二本立てにした時点で、実は「活用」に関する対応を、徹底的には検討しなかったことがわかる。
このように、「公的な」ナンバーがこれだけたくさんあるということ自体が、そもそも行政としての大失敗ではなかろうか。「国民総背番号」であれば、ひとつで全部を機能させることができる。口座の紐つけも、すべてやればいい。では何故、日本ではそれができないのか。
一番の原因は、「政府が国民に信頼されていない。政府が国民に信頼されるように行政を機能させていない。」ということだろう。
現在、政治の民主主義の度合いと、国民の政府に対する信頼度を測る、最も重要な指標は「透明度」である。各国の透明度を測る機関が、毎年結果を公表しているが、北欧諸国は常に上位に並び、日本はかなり下位になっている。先進国では明確に最下位に近く、国際的にも中位である。毎年変動するが、その位置は大きく変わらない。
透明度とは何か。それは、政府の政策が、どのような議論、過程で決まっていくのかが、国民にどの程度公表されているか、また、その実施過程や結果についても明確になっているかという、その度合いである。様々な指標で点数化され、順位が付けられている。その点数化に多少の疑問が感じる人もいるだろうが、こうした結果をみて、日本が政治的透明度が低いことは、日々実感していることと違わないといえるだろう。
モリカケ問題、桜を見る会、検察人事問題等々の最近の不祥事に対する、安倍内閣の情報開示をみれば、国際的に中位にあるのすら疑問に思えるほどだ。
さらに、新型コロナウィルス対策に関しても、実はわからないことだらけだ。専門家会議で議事録を作成していないこと(参加している専門家は議事録を作成することに同意している人が多いとされるのに)、PCR検査があまり行われていないのは、どこが止めているのか、よくわからないこと、そして、公表されているのは、陽性数や死者数とその関連情報であり、検査数、検査が必要であると医師に判定されたのに、断られた数等々はわからない。全国の学校休講要請にしても、これだけ重要な政策が、どのようなプロセスで決まったのか、その対応等が事前にどれだけ練られたのか、さっぱりわからないのだ。だから、安倍首相が、オリンピック中止可能性というIOC理事発言に仰天して、側近2、3名と発作的に決めた、という噂が流布することになる。
こういう政府が、国民の経済活動をほぼ全面的に管理する、番号による汎用的な管理を、国民が賛成するはずがないのである。
このような「番号」は、国家が国民の私的経済領域を管理する手段であり、それを国民が受け入れるためには、「国家」が実施することが、国民に明確に知らされており、それを納得していること、「管理」部分が、他の国民に不当に洩れないように、プライバシーが確実に保護され、正当な管理に限定されて、国家によって使用されること、こうした保障と信頼がない限り、国民は受け入れることができないのは、当然なのである。
従って、マイナンバーの全口座の紐つけを実行するならば、その前にやらねばならないことがある。
1 政策決定、実行プロセスを、最大限透明にすること。あらゆる国の審議会、委員会等の議事録の公開
2 官庁文書の最大限の開示
3 国政調査権によって請求されたことは、無条件に開示すること
4 既存の国民に付した番号を含めた、グランドデザインを作成し、国民の議論に付すこと。
こうしたことが確実に実行され、国民が納得すれば、統一的な国民総背番号も、消費税の増税も、国民は受け入れるのではないだろうか。信頼の下で、行政が効率化されることは、国民にとっても望ましいことなのだから。