無駄を省こう プロ野球 ブロックサインと応援

 私は野球少年だったので、大学院くらいまで野球をやっていた。もっとも野球部に入ったことはなく、草野球だったのだが。私の少年時代には、リトルリーグなどはなかったので、みんなまず草野球から入って、本格的にやるのは中学の野球部からが多かった。近くに駒沢球場があり、オリンピックの工事で廃止されるまでは、友達とよく見に行った。後楽園などもずいぶん見に行ったものだ。長島や王、金田の全盛時代である。野球場にいくのは、子どもが小学生くらいまでで、その後はぷっつり行かなくなってしまった。忙しくなったというのもあるが、球場での野球観戦が嫌になったこと、野球の試合時間が延びて、仕事が忙しくなると、自然に足が遠のいていったわけだ。
 スポーツが多様になったためでもあるが、野球の人気はかなり低下してきて、少子化も重なって、子どもたちの野球人口が非常に少なくなっているのだそうだ。一般的な意味での人気低下と、私の感覚が同じだとは思わないが、他人のことはわからないので、私が感じているプロ野球の魅力をなくしている要因と解決のいくつかを書いてみたい。
 一番大きな不満は、スポーツそのものをじっくり見る環境にないという点だ。観衆のほぼ全体が応援団的に参加している。サッカーほどではないが、外野席や両翼の内野席の観衆は、ずっと応援歌を歌ったり、身体を揺すったり、叫んだりしている。あの人たちは、プレーをみているのだろうかと疑問だ。私がお金を払って観戦にいくとしたら、プロの高い技術を見たいからだ。それにはじっくりと、静かな環境でみたいのだ。テニスは、おそらくどの大会でも、プレー中は静粛にしていなければならない。だから、選手の掛け声や、ボールを打つ音、選手が走る音などがよく聞こえる。ひとつのプレーが終われば、歓声や拍手が沸き起こるが、とにかく、プレー中は静かだ。だから、観衆はプレーをじっと見ていることになる。野球でも、アメリカの大リーグは同じだと聞いたことがある。確かに、日本のように、投手が投球動作に入って、投げるまで大声をだし続けるなどということは、大リーグ中継で見たことがない。実は、日本でも、長島監督の提唱だったと記憶するが、そういうゲームをしたことがある。そのときには、ボールの音がよく聞こえて、みんなプレイに集中していたそうだ。非常に評判がよかったと思うのだが、その後繰り返し実施されたとは聞かない。
 私が子どものころは、プロ野球の応援は、いわゆる私設応援団という、球団から許可をえた人たちだけが、応援をしていた。だいたいベンチの上に陣取って、プレーの合間に応援するだけだった。もちろん、観衆に音頭を取って一斉に拍手というのもあったが、プレー中は静かだったように記憶している。いつからか、若い女性のファンが増えて、プレーそのものよりも、お気に入りの選手を応援することに、楽しみを見いだしているかのような雰囲気になってきた。女性が観戦するのはとてもいいことだが、やはり、それなりに勉強して、プレーの高度さ、技術を味わうようにしてほしいのだ。
 つまり、プレー中の応援の廃止。プレー中は静粛に。投手が投球動作に入った時点から、プレイが止まるまでは、長くても30秒である。ほとんどは、打者は打たないか、ファウルなのだから、2,3秒のことだ。プレーが止まったら、拍手なり歓声をあげるなりすればよい。
 次に見に行く魅力がなくなったのが、試合時間が長いということだ。今のプロ野球の試合時間は、3時間でも短いほうだろう。しかし、私が子どものころは、ほとんどの試合が1時間半から2時間の間ですんでいたのだ。だから、日曜日はダブルヘッダーといって、二試合続けてやることが多かった。全盛期の金田は、1日に2勝することがよくあった。
 では、何故、試合時間がこんなにも長くなったのか。まず間違いなく、ブロックサインがどこでも行われるようになったからだ。私が子どものころは、一球一球サインが出るなどということはなかったし、サインはベンチからでていたように思う。それがベンチから3塁コーチに伝達され、しかも、誰がサインを出すかはわかっているのだから、相手がたに知られないように、ブロックサインなるものが大リーグから導入されたのだ。最初に導入したのは巨人だったはず。ブロックサインは、例えば、バントしろ、というサインが帽子を触るというときに、その前後に、まったく関係ない動作をいくつもいれて、キーの動作の次に帽子を触る、そして、また別の動作をいれるというような感じだ。ひとつのサインがかなり時間を要するだけではなく、投手が一球投げるごとにやるのだから、時間がかかるのは当たり前だ。以前は1時間半ですんだのに、今は3時間以上かかるということは、試合時間の半分はブロックサインに費やされていることを意味する。本当に半分かどうかは別として、かなりの割合を占めていることは間違いない。だから、応援もやりたくなるのだろう。
 こんなことを続けていけば、プロ野球の人気は、やがて下火になるのではないか。だから時間短縮のために、ブロックサインは禁止、あるいは、投手が1球目を投げる前のみという制限を設けたらどうだろう。そうすれば、試合が実にスピーディになり、面白くなると思うのだが。あるいは最新器具を活用して、ベンチから無線で攻撃側は、バッターや走者に、守備側は、それぞれの野手に作戦を送るようにしたらどうか。それなら、サインを盗むことは困難になるし、いちいち動作で示す必要はないので、時間が短縮されるはずである。どのような方策で改善するにせよ、サイン確認に試合の半分の時間をとるようなスタイルは、絶対に改める必要がある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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