東北大学で押印廃止 大学に無駄はたくさんある

 「東北大、学内手続の押印廃止へ 年8万時間の作業削減」という記事が掲載されている。(https://www.msn.com/ja-jp/news/national/東北大、学内手続きの押印廃止へ-年8万時間の作業削減/ar-BB14Jsjk?ocid=spartandhp)
 大学というところは、極めて非能率的な組織である。会議は月1で組まれているから、かなりの重大事件が発生しても、解決には2、3カ月かかる。通常はもっとかかり、改革をやろうと思えば、小さな改革でも2年くらいかかるのが普通である。教育機関は、あまり重大かつ緊急な問題は起きないから、それでとくに不便でもないという時代が続いた。しかし、少子化による全入時代に突入して以降、これまでのやり方を漫然とこなしているだけでは、大学としての存立そのものが危うくなりかねない状況になってきて、多くの大学は、大学独自の対応を進めていると思う。今回のコロナ問題で、こうした大学の非能率性は、かつてよりはずっと明確に浮き彫りになっている。会議にオンライン要素を取り入れていれば、以前だって問題対応能力はずっと高かった。私自身、なんどかそういう提案をしたことがあるのだが、必ず「会議は対面でやらなければだめだ」などという声が出て、実現しなかったのである。オンラインは、別にzoomのような会議システムを使う必要もなく、メーリングリストでも充分に機能する。いろいろなやり方があるのだ。オンライン会議も方法として採用されていれば、緊急事態が起きたときに、会議の日程が先でも、緊急会議を行うことができるわけだ。だから、解決が速やかになる。
 不幸中の幸いというか、コロナ問題で、ほとんどの大学がオンライン授業に踏み出し、会議のオンライン化を進めたようだ。これを単に、コロナ対策としてではなく、大学の作業の効率化として、日常的にシステム化すべきであろう。会議が対面でしか行えないと、緊急事態に関しては、解決を遅らせるか、あるいは、通常の手続を省略して、誰かに委任するかのどちらかしかない。対面以外のシステムを可能にしておけば、全員のコンセンサスを形成しつつ、速やかに対応することが可能になるのである。こうした認識が必要であろう。
 ついでに、私自身が経験した非能率的なことについて対応策を書いておこう。予め断っておくが、あくまでも能率の問題であって、正・不正の問題ではない
 大学には、研究費というものがある。大学の公的予算として組まれるものと、教員がどこかの機関に申請して獲得してくるものとがある。私はあまりお金を必要としない研究をしているので、外部申請をしたことがない。ここでは前者の大学予算に関してのみ言及する。
 大学が予算を組んで研究費を教員に支給するとき、現金によるシステムと、ほしいものを事務に申請して、大学として購入するシステムに分かれる。おそらく、後者が多いのではないかと想像するのが、私の大学では、前者だった。私の学部では、それとは別に、教育上必要とする内容については、後者のシステムによる支給もあった。申請方式だと、手続は申請のときだけで、あとは、物が来るのを待つだけだ。もちろん何でも購入できるわけではなく、制限があるが、その審査は申請時に行われる。だいたいスムーズに来るので、事前に申請しておけば、不便は特にないが、緊急に必要な場合には対応しにくい。例えば、授業準備をしているときに、ある本が必要になり、図書館にないと購入せざるをえないが、事務手続をとっていると間に合わないというようなことは、稀ではない。その場合、現金支給だとすぐに対応できる。
 では、現金支給にするとどうか。これは、教員にとっても、メリット・デメリットがある。メリットはなんといっても、使いたいときに使えるのだから、遅延がない。ただし、厳密な規定(名前・所属・品名が正確に書かれていなければならない)による領収書をつけて、使用の明細と、研究成果の報告を年度末に提出しなければならない。これがなかなか面倒だ。また、私にはその理由がわからないのだが、クレジットカードを使用してはならないという規定があった。しかし、今は、インターネット上での情報産業が盛んだから、ネットで新聞や雑誌、書籍を購入することがよくある。それは原則、カード決済である。そのことを訴えて、例外的に認められるのだが、それでも、カード会社が発行する明細の現物を提出する必要がある。
 そして、最大の問題はそれからだ。数百名の教員の提出したかなりの領収書を含む報告書を、事務が全部詳細にチェックするのである。それは、研究費として支出可能なものと、許されないものがあるのから、それを全部点検するわけだ。しかも、年度末に一斉に提出されるから、それを短時間に終わらせなければ、他の業務に差し障りが生じる。もちろん、ミスもあるから、その都度指摘して、訂正させるわけだ。申請方式だと、こうした手間は随時行うので、業務に過大な負担にはならない。
 さて、こうしたことを踏まえて、私は、ある大学でのやり方を噂できいたとして、研究費の現金支給はやめたほうがよい。ある大学では、個人の研究費はすべて、大学が管理するクレジットカード方式にしている。つまり、各教員名義のカードを作成し、支払いや明細の送り先は大学の事務局とし、使用限度額が設定されている。これだと、いちいち申請する必要もないし、使用報告書もいらない。使用したときに、明細が大学事務局に送られるので、その都度チェック可能である。許可外の支出であれば、その時点で訂正させることができる。さらに、私の大学がカード使用を認めない理由のひとつに、大学の費用で購入して、ポイントが個人につくのはおかしい、という、私には理解不能な理由が示されていたのだが、大学がカードを作成していれば、ポイントは大学の収入になって、これがかなりの額になるのだそうだ。私のいた小さな大学でも、この個人研究費は総額で億単位になるから、ポイントもけっこうな収入になるだろう。
 教授会でこういう提案をしたのだが、残念ながら、あまり共感をえられず、学部長などは興味を示してくれたが、私の在任中には、実現していない。
 もうひとつ、瑣末だが、交通費支給の方法も改善提案をしたのだが、これもうやむやになっているが、事務量の大きいものだ。
 大学でも、企業と同様出張がある。交通費が支給されるわけだが、その都度、経路と費用を明細にして提出する。交通費など、あまり覚えていないし、特に今の世の中スイカを使用するから、値段などいちいち気にせずに乗る。だから、申請のときに、ヤフーのシステムを使って値段をチェックして申請するわけだ。そして、受け取った事務は、そのすべてを、ヤフーのシステムを使ってチェックしなおすわけである。そして、間違っていたり、あまりに不自然な経路で高く請求していたりすると、訂正要請を出す。この事務量は馬鹿にならないはずである。そこで、私の提案は、まず、最も多い、会議によるキャンパス間移動の場合には、予め交通費はわかるので、事務が出欠をとるのだから、そのチェックで支払いが行われればよい。そうすれば、申請後のチェックは不要になる。教職員の申請手続も不要になる。その他の出張についても、行き先だけ届ければ、事務がヤフーシステムで金額を決めるというようにすれば、訂正などの手間は省けるわけだ。経路によって値段が違うが、最低料金を設定して、必要上高い経路のみ申請させればよい。以上のふたつを改善すれば、教職員の事務にかかる時間は相当削減できるのだが。
 残念ながら、この提案もほとんど検討すらされることがなかった。
 読者も、すぐにわかるだろう。方式を変えるだけで、膨大な作業量が減らせるのである。他方、人手が不足しているために、学生サービスがおろそかになっている部門もある。無駄を省くということは、必要なサービス機能をより充実させるために必要なことなのだ。実際に学生たちの不満はいろいろと聞かされた。不当な不満もあるが、多くは事務の配置によって、充分にサービスが提供されないために生じているものが多い。こうした不満を適切に対応できないと、今の大学競争のなかでは、生き残っていくことが難しい。運営に責任をもつ管理者たちは、こうした問題にもっと真剣に取り組むべきだろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です