5月11日に日本教育学会の名前で、9月入学に反対する声明がだされた。題名は「拙速な導入はかえって問題を深刻化する」となっていて、「慎重な検討」を求めているものだが、実質的には反対声明と受け取らざるをえない。ちなみに、私も日本教育学会の会員だが、この声明には反対せざるをえないし、また、学会員に対する意見聴取の機会があったわけでもない。このような場合には、学会総意ではなく、理事会とか、そういう管理組織での議論だろうから、それを断るべきではなかろうか。
内容的にも、大きな疑問をもたざるをえないものだ。(全文はhttp://www.jera.jp/20200511-1/)
まず声明は、長い休校が続いているなかで、再開後の詰め込みをしないでほしいという子どもたちの切実な声があることを認めつつ、しかし、9月入学では問題を解決できないとする。
9月入学自体については、これまで検討されてきたが、メリット・デメリットがあるので、コロナ騒ぎの解決策としてだすには、解決策の検討がなされていない。例えば、入学年齢が高くなる、就職活動や私立大学の学費問題など。
そして、今求められているのは、緊急の教育の保証である。
以上の3点が論拠になっている。
さて、第一の今起きている問題について考えてみる。現在、予定されている再開後のスケジュールは、夏休みや冬休みを返上し、土曜日も授業をして、授業時数を確保する。また、行事などは可能な限り削って、やる場合でも短縮する。こういう方針が、多くの学校に説明されているという。教育学会は、この方針を支持し、夏休みなどをなくして授業をすることが、学力保障になると考えているのだろうか。切実な声があると認めながら、実際に採用されようとしている(それも時期によっては不可能になるのだが)方法に関して、何も説明せずに、9月入学は拙速だというのは、説得力に欠けている。今の遅れをもっとも無理なく取り戻すとしたら、9月再出発にして、それを制度的には9月入学に変更していくことが、もっとも合理的ではないだろうか。だから、世論も半分以上が支持しているのではないのか。
第二の9月入学のメリット・デメリット論であるが、私は、不勉強のせいか、教育学会が9月入学について、制度的な検討をしたということを知らない。過去の検討をこれからチェックしてみるつもりであるが、現時点では、学会として検討したことがあるのか疑問である。そして、メリットはたくさんあるが、デメリットは、単純に9月と4月を比較すれば、9月のほうには、ほとんどないと考えている。もちろん、移行に伴うかなり大きな問題が生じることは明らかだから、それをデメリットと考えれば大きなデメリットがある。だからこそ、現在のような全社会が停止を余儀なくされているときだからこそ、移行のデメリットを最小限にしながら可能になるのである。
今年から9月に移行した場合に、もっとも大きな問題になるのは、授業料に依存している部分をどうするかだろう。私立の学校は、実際には、半年分授業料をとれなくなり、経営上極めて危険になる。私自身は、既に退職しているので、責任をもっていえないのだが、これは、政府の援助、経費の切り詰め等によって、乗り切るとしかいいようがない。
第三の、現在子どもたちの置かれた状況の改善は、もちろん、必要であり、オンライン、分散登校、メディアを使った学習など、さまざまなことが試みられている。それを充実することが必要だろう。しかし、そのことに集中して、制度論の議論をおろそかにしてよいということにはならない。コロナ後の社会生活の変化が言われているが、学校のあり方も変化のチャンスなのである。そうした積極的な思考をもこずに、現状の打開などできるはずがないのである。