大阪の病院で新型コロナウィルスに感染している看護師に夜勤をさせていたということが、大きな問題になっている。知事はあってはならないことだと非難しているし、保健所の検査も入ったようだが、好ましいことではないし、避ける必要があったのだろうが、この病院を非難することには疑問を感じる。ではどうすればよかったのかということだ。夜勤は必要であり、人を手配しようとしたがいなかった。だから、感染した患者が入っている病棟で仕事をさせたということだが、既に感染している人なのだから、仕方ないと考えたのだろう。
おそらく、こうした事例は他にもあるし、今後どんどん起こってくるのではないかと考えられることだ。そして、そうした事態は、政府の方針によって引き起こされた面が強いことを考えなければならないし、方針が根本的に転換しない限り、今後もどんどん起きてくると予想されるのである。病院だっていいことだと思ってやっていたわけではないだろう。
そこで、メディアによって既に何度も報道されていることだが、政府の方針を確認するために、専門家会議の文書を読んでみた。目新しいことはないのだが、改めてその矛盾に驚く。既に多くの人によって指摘されていることだが、自分なりに、改めて整理しておきたい。
何が矛盾しているかといえば、クラスター対策と重点的なPCR検査との両立である。
クラスター対策とは、感染者のうちで、他の人に感染させている人の追跡をして、クラスターを潰すということである。そして、その前提には、感染者のうち、他の人に二次感染させる人は20%程度しかいないという認識がある。そして、その後改められたが、感染者は軽症、重症、重篤という段階があるという認識もあった。しばらくはこの認識で対策が進んでいたと考えられる。
クラスターが発生したと認識するには、明確に発症した患者が出て初めて検査が行われる。そして、濃厚接触者を追跡して、検査をして陽性なら入院させる。そうしてクラスターを潰していけば、感染は押さえ込むことができるという手法と認識である。
しかし、ここには致命的な問題がある。
まず第一に、他人に感染させる感染者は、20%で、他の感染者は二次感染させないということが、本当に正しいという証明はなされていない。しかも、ここに感染しても無症状という人がかなりたくさんいることを考えれば、最初の検査で、この人は感染しているが、二次感染を起こさない人だと認識されれば、その後追跡が行われないはずだ。しかし、その時点では他に感染させるほどではなかったにしても、放置されている間に感染させている可能性もあるし、また、接触した人を全員追跡することなどはできないのだから、実際には感染させていたが、追跡対象になっていなかったために、二次感染させていないという判断になった可能性もある。そうして、実際に無症状の感染者を大量に生んでいた可能性だった否定できないはずである。
そうして、大量に無症状の感染者がいるとしよう。そういうひとたちは、クラスター追跡の対象にはならない。そして、どんどん感染がひろがっているが、無症状のままであれば、感染者としてカウントすらされない。
そして、PCR検査について、2月24日の専門家会議の文書は次のように書いている。
(3)PCR検査について
PCR検査は、現状では、新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合に適切に実施する必要があります。
国内で感染が進行している現在、感染症を予防する政策の観点からは、全ての人にPCR検査をすることは、このウイルスの対策として有効ではありません。また、既に産官学が懸命に努力していますが、設備や人員の制約のため、全ての人にPCR検査をすることはできません。急激な感染拡大に備え、限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要があると考えます。
なお、迅速診断キットの開発も、現在、鋭意、進められています。
第二に、PCR検査をすべての人に実施することは有効ではないということと、設備と人員の制約があるので可能でないという二点が書かれている。しかし、有効でない理由は書かれていない。制約があることは、有効性を否定することにはならない。そして、既にこの時期でも、多くの医療関係者から、PCR検査を民間で行うことが可能であり、かなり大量に実施することは難しくないという見解が繰り返しだされていた。制約は勝手に政府が行っていたものであり、人員と設備の問題ではなかったはずである。もちろん、だれも国民全員に検査などと主張していたわけではなく、医師が必要とした場合だったわけで、それは充分に可能だったと考えられる。昨日も書いたように、陽性者は全員入院などという無茶なルールがあったからそうなった面もあるが、それを早急に撤回させることこそ、専門家会議の役割だったはずである。
第三に、クラスター対策とセットになって出てきたのが、外出の自粛である。もちろん、外出自粛は正しい方針であって、私も最大限自粛している。別に政府に協力するためではなく、自分を守るためである。自分を守る意識が強い人であれば、何も政府からいわれなくても、自発的に自粛しているだろう。しかし、クラスター対策とセットになったPCR検査の制限と結びついて、自粛が求められると、実は検査もされず、無症状の感染者を家庭に閉じ込めることになる。3密の家庭もたくさんあるはずで、しかも、軽傷者は自宅となると、ますます家庭内感染の危険が高まる。これは誰でもわかることだが、このことに対する対策は、実に遅いし、とられていない自治体もあるだろう。前にも書いたが、この点の指摘は、羽鳥モーニングショーでは2カ月も前から何度も指摘されていた。(言葉では、何度か厚労省は、軽症者や無症状者は、病院ではなく、自宅か施設という方針を出しているが、実行は極めてのろかったし、今でも確実に移行してはいない。)
しかし、日本では感染が少なく、死者も少ないから、こうしたやり方が功を奏していたといえるではないかという見解もありうる。部分的にはそうだろう。しかし、日本での感染が少ないのは、日本人の習慣によるものが大きいと私は考えている。手洗い、マスクを普段からしていること、ハグや握手をしない作法、家で靴を脱ぐ習慣、そして、水をふんだんに使えるので、手洗いがしっかりできる、などである。もちろん、多くの人たちは、感染を恐れて外出を控えてきたこともあるだろう。こうした日本人の生活がなければ、もっと早く感染は広まっていたと考えられるのだ。クラスター追跡という手法は、やはり間違っていたと考えざるをえない。ごく初期の間に、感染者全員把握して治療するという方針をとっていれば、まったく違う事態の変化だったと思われてならない。ごく初期なら、それは十分に可能だったし、初期に押さえ込めば、拡大は抑えられたはずなのである。しかし、クラスターにこだわり、見逃す感染者を作ってしまったことになる。
以上から、政府と専門家会議がとっている対策は、それ自体が矛盾している内容から成り立っていて、このままいけば、本当に深刻な事態になる。というより、大阪の病院の例は、地域によっては、既にそうなっているということを示している。