パチンコ店問題を考える

 このところパチンコ店に関する話題が多い。私が住んでいる隣の県が、まだ緊急事態宣言が発せられていない時期には、他県から多数の客が、パチンコ店に押し寄せていた。実際に車で側を通って確認している。その後、全国に緊急事態宣言が拡大してからは、パチンコ店も自粛対象となったために、おそらく多くの店は自粛するようになったが、いくつかの店が、営業しているし、更に都内でこれまで自粛していた店のなかで、再開するところも出てきたという。
 元々パチンコ店は、自粛の対象になるかどうかで、都と国とがかなりのさや当てがあった。3密を防ぐという方針が正しいとしたら、パチンコ店は明らかに相当するのだから、自粛要請するのが自然なのに、どういうわけか国は一時含めなかった。業界のロビー活動や、自民党議員のなかに、パチンコ業界と関係の深い人がいるのではないかとか、いろいろと噂があった。その後調整が進んで、自粛要請の対象となったが、宣言対象外の県に大量の客が流れる→対象になっても店をあけるところがある→東京でも再開する店が出てきた。こんな感じで今に至っている。 
 私自身は、パチンコをやったことがないので、その楽しさはわからないが、通勤途中の駅前に店があり、朝早くから並んでまっているひとたちがいるので、やるひとたちにとっては楽しいのだろうと思う。明らかにギャンブルだから、違法のはずなのだが、違法の網をかいくぐる仕掛けをつくって、とりあえず合法のエンターテイメントとして盛んなわけだ。
 店をあけている店主の話などが、メディアで紹介されているが、要するに生活がかかっているからあけざるをえない。補償してくれるなら締めるという理屈だ。現在の要請には強制力がないから、罰することはできない。
 ある自治体の首長は、自粛要請に従わないのならば、名前を公表すると脅しているが、私には効果があるとは思えない。開けている店が繁盛していることは、店も客も完全にわかってやっているのだから、名前の公表は、宣伝になるだけではないだろうか。非難されることだってわかっているはずである。自粛で店が閉まっていくなかで、名前が公表されれば、あそこはやっているということで、他県からも大勢やってくるに違いない。
 店としては、可能な対策はとってやっているというだろう。
 もちろん、私は、感染拡大の原因になると思うから、ぜひ自粛してほしいと思う。しかし、強制力はない。また、本当にパチンコ店が感染クラスターになっているのか、これまでの報道をみている限り、はっきりしているのだろうか。最近のクラスターは、報道では、病院や高齢者施設や保育園、家庭のほうが目立つ。実際には、市中感染の調査をしていないのだから、ラッシュの電車や、混雑しているスーパーや、こうした娯楽施設などで、どの程度感染しているかわからないのだ。東京などでは、感染経路不明という数字が多くなっているが、おそらく、そのなかに含まれているのだろう。パチンコが思い当たるとしても、感染者がそれを申告する可能性は低いような気がする。
 結局、強制力のない自粛要請では、わかってやっているひとたちの行動を抑制することは難しい。そうすると、強制力をもたせるか、あるいは、著しい不利益の覚悟をせざるをえない状況を作り出すか、どちらかなのかも知れない。
 強制力をもたせるためには、もちろん法令の改正が必要だ。現在の内閣は、閣議決定で重要な法改正ができると思っているようだから、やろうと思えば迅速にできるだろう。しかし、やらないに違いない。それは、そんな憲法問題にかかわることを安易にして、人権を侵害すべきではないと、政府が考えているからでは決してなく、強制的に止めさせるためには、補償の義務が国家に生じるから、それが嫌なだけだ。
 強制力をもたせることができず、しかし、実効性のあることとは何か。もちろん、いろいろあるだろう。それをするのが妥当かどうかは別として、考えてみよう。
 私が考えつくのは、個人に対しては、威力業務妨害を問う、店に対しては、感染者が出た場合、損害賠償を自治体が提訴することだ。ドライブスルー検査が始まったので、パチンコ店の前でそれを実施し、検査をすることを求める。店に対して、それを条件に認めさせることは、今の状況であれば、拒まないだろう。PCR検査をして、これからパチンコをして、あとでもし陽性であることが判明したときには、感染させたということで、業務妨害を問う。(店が被害届けを出すかという問題はある。)そういうことを検査の際に説明する。店に対しては、店内感染が起こった場合には、自治体や国に医療費の負担が生じるのだから、その一部を賠償させる訴訟を起こすことを、予め通達する。
 そうすれば、ある程度、いやかなり店は閉まるのではないかと思う。もちろん、細かいところで難しいところはあるだろうが、何の対応をしないとすれば、パチンコ店から次第に自粛が崩れていく恐れもある。(もっとも、自粛のあり方に全面的に賛成なわけではないが。)
 韓国や中国が本当に克服したのかどうかは、完全にはわかっていないが、しかし、かなり効果をあげたことは事実だろう。だが、その手法は、今のころ日本では、あまり支持されていないように見える。都市全体の完全封鎖や行動規制(中国)、あるいは、感染者の位置確認システムの導入(韓国)など、典型的な管理国家のあり方で克服したとされている。このようなやり方をしなくても克服できるのが望ましいことはいうまでもない。
 また、現在感染が広がって、特に医療現場が深刻な事態になっているのは、賢明な識者の指摘を実行してこなかった政府・行政の無策が多いに影響している。どうしたらいいのか、しっかり考えていく必要がある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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