榛名風か ネットでの誹謗中傷との戦い ネットは匿名空間ではない

 NEWSポストセブン2020.3.29に「春名風花、ネットでの誹謗中傷被害との10年戦争を語る」という記事が出ている。芸能界にはまったく疎いので、春名風花というタレントを知らなかったが、子どものころから、ネットで論陣を張っていたという存在だが、誹謗中傷を受けて、それとの戦いの10年を紹介した記事である。(元記事は女性セブン2020.4.9号)
 私自身、パソコン通信時代にこの問題と格闘した経験があるが、まだパソコン通信の時代には、誹謗中傷の発言があっても、拡散の度合いが限られていた。しかし、インターネットの時代になって、拡散の度合いが比較しようがないほどに拡大している。しかも、ツイッターやフェイスブックでは、拡散させる手段が整備すらされているから、まったく無自覚、あるいは歪んだ正義感でどんどん拡散させていく人がいる。手動で行わなくても、ソフトに拡散させることもできる。だから、一旦誹謗中傷されたときの被害は、計り知れないほどである。春名氏は、弁護士に依頼して、書き込みをした人物、拡散させた人物を特定するための訴訟を起こし、現在も戦い続けている。ぜひ戦いに勝利してほしいものだ。残念なことに、警察の非協力的な態度なども、戦いを阻害している部分がある。
 最近、あまり話題にならないが、学校でインターネットでのトラブルが起きないように、ネット利用の教育が必要となっていた。私も、そうしたことが話題になったときに、学生たちとずいぶん話し合ったし、将来教師になるべく勉強している学生の考えなどを聞いたりしていたが、私の知る限り、インターネット教育を正しく理解している者は少ないし、また、パンフレットなどでも、不十分であると感じていた。
 いまでも誤解されている傾向があるが、一番の間違いは、インターネットは匿名空間だと思われていることである。このことは、今でも多くの人によって間違った認識がなされているのである。だれかを誹謗中傷する、あるいは脅迫しようと思い、なんらかの手段をつかって、ある人にそれを伝えるとする。電話、郵便、葉書、メール、SNSを比較して、どれが、最終的に発信者を突き止められるか。郵便や葉書などは、まず完全な細工をすれば、特定は無理だろう。電話は、かなり特定されやすいが、公衆電話を使えば、かなり匿名化の可能性が高まる。メールやSNSのインターネットツールは、表面的には匿名だが、IPアドレスなどで特定はかなりの確度で可能である。もちろん、特別な技術をもっているか、あるいはIPアドレスを隠すソフトを、正確に使うことができる技術をもっていれば、かなりの程度匿名性を保つことは可能である。私が、パソコン通信をやっているときに、ある有名企業の技術者が、自分の知識を駆使して、パソコン通信をしている別の会議室の会員に、メールを送ったのだが、どのようにやっても、誰が送ったか特定できなかったので、会議室の責任者であった私に抗議がきたことがある。誰がメールをしたのかは、私たちは知らされていたのだが、IPアドレスを伝達しない中継地点をいくつも指定して、メールが届くようにプログラム化して送ったようだ。しかし、それは、かなり高度な技術と知識がなければできないので、通常は、やはり、プロバイダなどで把握されてしまうのである。
 インターネットでの犯罪的行為に、子どもでも出会うことがある。被害者だけではなく、加害者にもなりうる。加害者になるような、ひどいことを書いてはいけません、とか、被害者にならないように注意しましょう、などというレベルでの教育では、単なる「道徳教育」になってしまう。インターネットが匿名であると思っていると、そうした指導に留まってしまい、あまり効果がない。
 しかし、インターネットは匿名空間ではないことを知っていれば、加害者になってしまえば、だれがやったかわかってしまい、被害者が警察に告訴すれば、犯罪者として裁かれる可能性があると認識させることができる。また、被害にあったときにも、誰が書いたのかを調べて、法的に対応できると分かる。そういう認識をもつか否かで、インターネットの利用に対する心構えは、かなり違うはずである。
 春名風花氏の追求は、そういう意味で非常に意義深いものがある。ただし、もし、誹謗中傷されてすぐに、弁護士に依頼して、プロバイダーに情報開示を求め、埒があかない場合には、提訴する手段をとっていれば、時効の壁に阻まれることはなかっただろう。
 迅速に対応したために、被害の拡大をぎりぎりのところで防ぐことができた事例として、あおり運転をした上で、被害男性に殴りつけた事件で、映像をとっていた女性に間違われた人が、適切な対応とった例がある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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