学校の再開

 今日、3月24日、学校の再開に関する文科省のガイドラインが発表された。大学は、多くが新型コロナウィルスの感染が深刻になったころには、事実上の春休みにはいったところが多いと思うので、小中高のような突然の休校措置の影響は、さほどではなかったはずである。だから、休校措置になっているわけではないが、しかし、4月になれば、新学年度が始まる。近年の大学の日程は極めてきつきつなので、4月の最初からオリエンテーションなどが始まるわけである。私自身は、この3月で定年退職なので、まったく関係ないのだが、やはり、気になる。
 大学用の指針は、最初に、感染しやすい3つの条件、1換気の悪い密閉空間、2多くの人が近距離で集まっている、3近距離での会話等がないように配慮することが示されている。ところが、学校という場所は、この3つともが揃っている。このひとつですら、かなり難しいと思われる。それは大学でも同様だろう。大学で授業を開始すれば、この3つの条件はすべてが揃ってしまうことになるだろう。しかし、単位の認定などの問題があるから、いつもでも大学を再開しないわけにはいかない。
 もっとも、かつての大学ならば、かなりのウラトラC的な配慮をして、なんとか単位を揃えさせてしまうようなことをやってのけた。私は、団塊の世代で、大学紛争真っ只中に学生生活を送った。入学後2カ月で無期限ストライキを決行し、約一年間授業がなかった。結局、3年間しか在籍していないと同じだったが、なんとか、レポートなどで授業をしていない部分をやったことにした。従って、2年間ずつの教養課程と専門課程が、それぞれ1年半ずつしかなかったのである。多くの学生にとっては、通常の年数で卒業することができたが、私のように、研究者を目指していた者にとっては、やはり、教育活動そのものが減少してしまったことは、大きな痛手になったと思う。
 大学宛指針は、様々な点に及んでいるが、遠隔授業を推奨している部分については、私は多いに賛成である。むしろ、今回の新型コロナウィルスによる騒ぎになる前から、遠隔授業は、もっともっと活用されているべきだったのである。アメリカの大学は、新型コロナウィルスのために、授業が完全に遠隔授業になってしまったところも少なくないようだ。指針では、テレビ会議システムや、映像をとってのオンデマンドなどが参考例となっているが、私の知る者の報告では、アメリカのある大学では、授業をZOOMで行うように切り換えたという。私自身、それまでZOOMを知らなかったので、早速何人かで試してみた。日本でも、けっこう使われているソフトウェアで、確かに、遠隔授業に使えるのではないだろうか。大講義室での授業でも、また演習などにも使える。なんといっても、使いやすいのは、音声の質が高いことと、資料提示などが自由にできる点である。映像と音声を録画しておいて、オンデマンド的に利用することも可能である。そして、費用的に極めて安価である。大学のように、大人で構成される教育機関では、こうした遠隔授業は多いに役にたつし、実際の教室での授業が再開されたとしても、欠席せざるをえない学生のために、活用することは、大学教育の質を高める上でも有効だろう。また、一定の費用を徴収して、一般公開すれば、大学の経済的な支えにもなる。
 しかし、小中学校では、一時的にこうした遠隔授業をするにせよ、全面的にそれに切り換えることは難しいだろう。
 小中高用のガイドラインには、チェックリストなるものがついている。

  新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン
     <チェックリスト>
□ 児童生徒等及び教職員の毎朝の検温、風邪症状の有無等の確認を行う準備ができていますか?
□ 手洗いや咳エチケットの指導を行いましたか?
□ 学校医、学校薬剤師等と連携した保健管理体制を整え、清掃などによる環境衛生を良好に保っていますか?
□ 抵抗力を高めることが重要であることの指導を行いましたか?
□ 3つの条件(換気の悪い密閉空間、人の密集、近距離での会話や発生)が同時に重なる場を避けるため、(1)換気の徹底(2)近距離での会話や発生等の際にマスクの使用等を行うことを教職員の間で確認しましたか?
□ 一斉臨時休業に伴う学習の遅れに関する対応策について検討しましたか?
□ 入学式や始業式の実施方法を工夫しましたか?
□ 部活動の実施にあたり、実施内容や方法を工夫した上で、感染防止のための対応を行いましたか?
□ 学校給食の実施にあたり、感染防止のための工夫をしましたか?
□ 放課後児童クラブや放課後等デイサービスのための教室等の活用について検討しましたか?

 以上はインターネット版の新聞等にまだ出ていないので、載せておいた。
 学校再開については、国で一律にするのではなく、地域ごとの実情に応じて、地域の判断によって行うということである。もちろん、それは以前からそうで、そもそも国に一律に命じる法的権限はないわけなので、地域ごとに違っていた。ただ、ほぼ一斉休校に近い状態になったわけだが、これからは、その効果についてもきちんと検証されるべきだろう。
 ところで、3つの条件に重ならないように注意しながら、学校を再開するといっても、小中学校では、重ならないような工夫は、かなり困難ではないだろうか。休校中でも、家庭で面倒をみる保護者が在宅していない場合、学校を開放したところが多いが、その場合、座る机がかなり離れていて、確かに、近距離で話すことがないように工夫されていた。しかし、それは本来の人数からはかなり減らされた人数だから可能になったわけだ。おそらく、そうした教室からの感染はほとんどなかったのだろう。とすれば、学校にくる人数を減らすこともありうるのではないだろうか。
 たとえば、交互に一日おきに登校する。あるいは、インターネットの環境が整っている家庭では、学校での授業をライブ配信して、質問なども受け付けられる、あるいは、発言などもできるようにする。ZOOMを使えば、安価で簡単に実現できる。あるいは、最近の学校は、かなり空き教室がある。だから、空き教室をふるに活用して、クラスの人数を分散して、やはり、遠隔授業的に行う。戦後間もない時期には、特に新制中学で、二部授業が行われた。午前の授業と午後の授業にわけて、人を入れ換えるのである。それは、新制中学の校舎不足のためにとられた措置であるが、途上国では今でも行われている地域がある。
 大学では、学生が登校しなくても、かなり通常に近い授業を実施し、それを学生が受講するシステムを作り、それを運用することが可能だが、やはり、小中高では、ある程度登校して、教室で学ぶ必要があると思われる。しかし、3条件を回避するためには、教室の人数を減らす工夫が必要だろう。この際、できることを大胆に実行してみることが重要ではないだろうか。そして、そうした工夫を交流することも重要だろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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