検察への違法な政府の介入


 黒川東京高検検事長の定年延長を閣議決定した件が、法曹界で大問題になっている。多数のコメントが出ているので、特に新しい見解をだすことではないが、批判の数を増やす意味もあるだろうと、考えをまとめてみる。
 安倍内閣に関わる不祥事を、検察がもみ消したと思われる事実は少なくない。どこまで黒川氏が関与していたかは、もちろんわからないが、報道によれば、安倍内閣に極めて近く、逮捕起訴されてもおかしくない事件で、緩い対応だった事例がいくつかあるそうだ。そして、定年延長は、明後日の2月7日に定年退職する黒川氏を、本年8月に定年退職する稲田検事総長の後任にするためであると、多くの報道機関によって伝えられている。もちろん、先に定年退職している人を検事総長に昇格させることはできないからとった措置であろう。
 報道によれば、同期の林真琴名古屋高検検事長と黒川氏が長年のライバルで、どちらかが検事総長になると、前から予想されていた関係なのだそうだ。しかし、定年の関係で、黒川氏はなることができず、自然に林氏になると考えられていた。黒川氏が安倍寄りのスタンスであるのに対して、林氏はニュートラールな姿勢だということで、法曹界では、その点でも林氏を支持する声が多いという。安倍内閣は、稲田検事総長を、定年前に辞めさて、黒川氏にバトンタッチさせたかったが、稲田氏が自発的な辞任を拒んだために、黒川氏の定年延長という、違法行為にでたということだ。
 さて、基礎的な確認だが、検事の定年は検察庁法で決まっている。

検察庁法
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

 「達した時」というのは、誕生日になった日と通常されている。だから、黒川氏は、2月7日に定年退職しなければならない。では、閣議決定は、どの法律に依拠したのかというと国家公務員法である。

国家公務員法
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

 国家公務員は、特別な事情で退職により支障がでる場合には、定年を一年以内で延長することができることを規定している。もちろん、一般法である国家公務員法に対して検察庁法は、特別法になる。法律学の常識であるが、一般法に対して特別法が優先する。したがって、同趣旨の規定、つまり、ここでは定年の規定が両方にある場合には、検察官に関しては、特別法の規定が適用されることになる。検察関係国家公務員は、国家公務違法ではなく、検察庁法に従うわけである。検察庁法には、特別な事情による延長規定は存在しない。
 この点を国会で質問された森法相は珍妙な答弁をしている。

 「この検察庁法と国家公務員法との関係が検察庁法32の2に書いてございまして、そこには22条が特別だというふうに書いてございまして、そうしますと勤務延長については国家公務員法が適用されることになります」

 森法相は、弁護士だから、この説明が間違っていることは充分に承知だろう。あるいは、ゴーン逃亡事件での思わず間違ってしまったことから考えられるように、思い込みの激しい人なのだろうか。そうではあるまい。わかっていて、閣議決定を説明するために、強引な論理を用いている。しかし、検察庁法22条が特別だと書いてあるわけではないが、特別法であることは間違いなく、だから、国家公務員法ではなく、検察庁法が適用されるというのが、法律学の常識である。
 また、国家公務員法に定年の延長特別規定があるのに、特別法である検察庁法には例外規定がないのは、検察官に関しては、定年延長の例外がないことを意味するのである。
 もしこのめちゃくちゃな人事が、内閣の不祥事を隠蔽するための措置であるとすれば、この内閣は、完全に法令無視の政府であり、彼らが非難してやまない文政権と同じことをやっているといわざるをえないだろう。
 このことがまかり通れば、内閣は閣議で決めれば、違法行為も平然と行うことになり、そして、この内容は、政府にマイナスとなるような犯罪は、検察がもみ消す可能性が高くなるということだ。与党の議員が汚職をしても、見逃される。既に、山口記者の事例に典型的であるように、既にその徴候はいくつもでているわけだが、今後はもっと増えることになるのだろうか。検事総長人事は、原則辞める総長の指名、つまりは、検察の独立した判断が慣行として尊重されてきたとされるが、それすらも、覆そうとしている、その第一歩を意味する。
 新聞が社説でどのように取り上げているかみたところ、ほとんどの新聞が取り上げていない。報道はしているとしても、社説で取り上げるべき重要な問題ではないだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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