大阪の青少年保護条例改正案 「真剣」とは何か

 読売新聞2020.2.2に、「18歳未満との交際、「真剣」以外はすべて違反に…大阪府が条例改正案」という記事が出ている。記事は以下のように報じている。
「大阪府が、2月議会に提出する府青少年健全育成条例の改正案の全容がわかった。条例は18歳未満とのわいせつ行為を禁じているが、現行では、脅したり、ウソをついたりしていなければ、処罰の対象外だった。改正案では、性的欲望を満たすことだけを目的としたわいせつ行為を禁じ、真剣交際以外はすべて違反となる。」
 インターネットで検索できる条例は、おそらく以下のものだろう。

第三十九条 何人も、次に掲げる行為を行ってはならない。
二 専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
三 性行為又はわいせつな行為を行うことの周旋を受け、青少年に対し当該周旋に係る性行為又はわいせつな行為を行うこと。

 この条文によれば、「威迫、欺き、困惑」させる行為が罰する必要要件になっているということだ。残念ながら、その改正案の条文を見つからなかったのだが、この3つの要件を削除するのだろう。もちろん「真剣な」ものである場合を除く、などという文章が入るはずがないので、実際に事件になったときには、「専ら」ではなく、「真剣」だったのだということで、違法性から除外されるということだろうか。
 そうした改正に反対するということで、この文章を書くのではなく、「真剣」とはどういうことをいうのだろうか、また、どうやって判断するのだろうか、また他の犯罪との整合性などはどうか等を考えたいと思ったわけだ。
 たとえば、殺人は、言葉は変だが、真剣であるほど罪が重くなる。真剣に計画し、いろいろと準備をして殺害に至ると、「計画性」があるということになる。突発的で無計画な殺人よりは、罪が重いと判断されるわけだ。しかし、この条例改正案では、「真剣」な場合には、罰せられない可能性がある。
 刑法理論は、法律学のなかで、最も「論理性」に裏付けられた「正義」が重視される。つまり、非常に理屈っぽい領域である。したがって、こうした反対の事例が出てくると、どう合理的な論理づけをするのだろうかと疑問が生じざるをえないのである。
 もちろん、その「真剣」さは、「性的欲望を満足」させることに対するものではなく、愛情とか交際に関する「真剣」さを意味することは明瞭である。しかし、当人は「欺き」であっても、相手には真剣であると装うことは可能であるし、「真剣だった」と断固として言い切れば、そうではないと外的に証明できるのだろうか。内面を明確な基準で測れるものだろうかという問題だ。
 更に、青少年のほうが真剣だった場合はどうなるのだろうか。もちろん、その場合でも、その真剣さを判定する問題が生じる。
 現在の日本の法では、13歳以下との性行為は、合意のあるなしにかかわらず、違法とされている。それは、13歳以下には、法的責任能力がないからである。14歳からは法的責任能力が認められるので、当人の意思が問題となる。18歳以上では、双方の合意があれば、違法ではないわけだが、14歳から18歳がおそらく、「青少年条例」によって規定され、自治体によって異なる運用がなされている。つまり、考えかたが、統一されていない。だから、今回のような大阪の条例変更があるわけだ。
 上の条例を、文理解釈すれば、青少年の法的意思は問わないという構造になる。つまり、大人の側が、威迫、欺き、困惑を手段として、性行為に及べば、罰せられることになる。しかし、よく考えてみると、それは成人だって同じことだろう。「威迫、欺き、困惑」を手段としたのならば、それは「合意」があったとは認められないはずである。いくら迫った側が、「合意があった」と主張しても、「脅迫」があれば、それは強いられた合意であったと主張されれば、合意は認められない。
 もし、報道のような意味で改正がなされるのならば、18歳未満の場合には、「真剣」さが必要であるが、18歳以上は、「真剣」でなくても、「合意」があればよいという、あまり意味があるとは思われない規定となる。
 だから、本当の問題は別のところにあるのではないかと、私は思うのである。欧米諸国のなかには、日本で13歳以下として規定されている年齢を、もっと上に規定している国がある。条文で確認してはいないのだが、オランダでは、16歳とされていると聞いたことがある。実際その年齢で切っているかは別として、一般的な法的能力の認定年齢とは別に、規定することのほうが論理的には合理性があるように思われるのである。16歳とすれば、15歳以下との性行為(もちろん一方が16歳以上)は、すべて違法となり、16歳以上は、合意があれば違法ではない、ということになる。真剣交際などという概念を持ち込む必要はなくなる。もちろん、その場合、何歳に設定するかという大きな問題が出てくるが、それはここでは検討課題ではない。
 「真剣交際以外はすべて違反となる」というのは、いかにも馬鹿げた「法」ではないだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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