タイピングの教育はいつから? 入力方式に無関心でいいのか

 いよいよ小学校まで含めた学校教育でのプログラミング教育が始まる。また既に外国語学習という形での英語教育が小学校3年生まで降りてきている。小学校のプログラミングは、コマンドを入力するようなものではなく、ビジュアル・プログラミングということになっているが、英語・ローマ字学習まで始まると、当然タイピングの問題が出てくる。実際に、タイピングの学習を進めている小学校も存在する。しかし、いわゆるブラインドタッチができる人は、まだまだ少ないに違いない。
 あるサイトは、小学校3年生くらいからタイピングの練習を始めるのがよい、と勧めているが、大人が必要から始める場合ではなく、子どもに教育、特に義務教育としてタイピングを学ばせる場合には、いくつかの検討課題が残っているように、私には思われる。それは入力方式である。
 多くの人は、日本語の入力をローマ字入力で行っているだろう。日本語の入力には、実は3つの方式がある。ひとつは、主流といえるローマ字入力、そして、かな入力だが、かな入力は2つあり、JIS方式と親指シフトに分かれる。それぞれに一長一短があるが、学校教育で教える対象とすると、そのひとつを選択して、子どもたちに使わせることになる。いわば強制力が働くわけだ。大学などで、それぞれソフトを使って学ばせる場合には、それを使わない者は履修しないことができる。ただ、大学でも事実上は、ほとんどがローマ字入力の練習ソフトがインストールされているとは思う。
 私自身は、若いころは、ローマ字入力で出発し、親指シフトを知って、両方を使うようになった。若いころは、すぐに切り換えることができたが、歳をとると、どうしても、切り換えに時間がかかるようになり、断然効率的な親指シフトにしぼることになった。JISのかな入力は使ったことがない。
 JISのかな入力を使っている人は、私は会ったことがない。そのくらい少ないと思われる。なんといっても、ブラインドタッチが困難であることが、大きな欠点だろう。そして、かなの配列もあまり合理的ではないそうだ。
 さて、圧倒的なローマ字入力は、使うキーが少なく、ブラインドタッチが比較的易しくできるという長所がある。そして、アルファベットの並びをそのまま使用できるので便利である。しかし、私が結局やめたのは、思考とタイピングが直結していないことが、文章を書く上で阻害要因になるからだ。たとえば、「学校」という文字をうつとして、かな入力なら、そのまま「がっこう」と入力すればよい。しかし、ローマ字入力だと、「が」→「ga」、「っこ」→「kko」、「う」→「u」と、いちいち転換しなければならない。つまり、思考作用に余計な要素が入り込むために、文章を作りながら、キーボードをうつ作業が、直結しないわけだ。これは、どんどん文章を思いついて、速く入力していく上では、大きなマイナスである。そういう難点を克服するために考案されたのが親指シフトだ。親指シフトは、日本語の音の順序がスムーズにうてるように、キーが並べられており、そして、親指を使うことで、ひとつのキーを二種類の文字に割り当てることができる。そのために、JISかな入力では困難だったブラインドタッチを実現している。最近は、コンクールそのものがなくなったようだが、かつてオペレーターによる入力コンテストがあり、その上位者はほとんどが親指シフト使用者だった。
 しかし、親指シフトには、大きな弱点がある。それは富士通が開発したシステムで、他の会社が採用していないということだ。最近は富士通のパソコンでも、ローマ字入力が標準で、親指シフトを使いたい人は、特別なキーボードを購入し、ソフトも買わなければならない。だから、親指シフトが盛んだった時期の人より、若い層では、ほとんど知る人すらいないということになっている。
 親指シフトが日本語入力として優れていることは、専門家ではほぼ認められていたし、他のコンピュータ会社でも同様だったので、とりあえず、親指シフトを普及する会が設立され、通常のキーボードでも入力ができる方式は考案されている。だが、やはり、普及はしていない。
 しかし、自国語の入力を、自国語に相応しい方式で入力できないというのは、非常におかしいのではないかと思うし、そのことに無神経であるのも、納得できない。そして、無自覚なローマ字入力しかないかのような体制にしていることが、国民の一般的なタイピング能力の低さをもたらしていると、私は考えている。
 韓国語のキーボードを調べてみると、ハングルは、3列におさまるために、ハングルを直接入力する方式になっている。だから、一端別の文字に頭で変換して入力するなどという、余計なプロセスは介在しない。おそらく、韓国人のほうがタイピング速度は速いのではないかと単純に予想できる。
 以上のような問題があるにもかかわらず、タイピングはローマ字入力が「当然」であるという前提で、学校教育がなされることに、私は大きな疑問を感じざるをえない。少なくとも、両方の練習ができるような環境を整えるべきではないかと思うのだ。同じような習熟度であれば、親指シフトのほうが、おそらく3~5割り程度はスピードが速まるはずである。日本人のタイピング能力を抑えるような方式を、学校で半ば強制することがいいとは思えない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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