通常のサービスがされなかったときの対応を考える

 先日、昼食を食べにいったら、何度も食べたカレーライスが、通常はたくさんの野菜や肉の具が入っているのだが、ほとんど入っておらず、ルーだけのカレーだった。それは、そのときの鍋の最後の残りだったからで、おそらくその前に具をよそってしまっていたのだろう。直ぐに次の鍋がきたので、どうするか見ていたが、店員は知らんぷりしていた。クレームを付けようかとも思ったが、あまりクレーマーにはなりたくないので黙っていた。ちなみに、越谷市の「半田屋」という、自分ですでに並んでいる料理をとってきて、カレーなどはその場でよそってくれるという方式の店だ。
 2,3年前のことだが、もう少々悪質なこともあった。柏の「フォルクス」というレストランだが、夫婦で入って、それぞれ注文したのだが、私の注文が早くきた。そして、食べたら、肉が固く冷たいのだ。食べてしまってからわかるわけだから、まあ、そのときも我慢して食べた。もともと味にはあまりうるさくないほうなので、別にまずくて食べられないということはない。しかし、明らかに、何らかの理由で、前に注文した同じ品物が、出されなくなって、置いてあったものを使ったとしか考えられない。さすがにこのときには、「使いおきの料理を出しましたね。」と支払いのときに言ってみたが、「そんなことはありません」との回答だった。とすると、フォルクスは、冷たく固くなった肉料理を出すレストランなのか。もちろん、他のときには、そんなことはない。
 別に、ふたつの店のサービスの悪さをあげつらうために、書いているわけではない。実は、当初予定されているサービスが果たされないときに、どのように対応するのか、それが、けっこう多様なのだ。それを少し考えてみたいと思った。
 私は音楽好きなので、もちろん、コンサートにいくことがよくある。多くはオーケストラか、オペラ、あるいはバレーの公演だ。こういう音楽会は、もちろん、出演者は事前に発表されており、それを確認してチケットを購入する。私の聞いている限りでは、欧米では、主要な出演者がなんらかの理由で、当日になって出られなくなった場合、希望する者には、払い戻しが行われる。もちろん、代役をたてて演奏会が行われるのか普通だ。オペラやバレーは、万が一のことを考えて、たいてい控え(スタンバイ)を用意しておく。代役でも聴きたい人は、そのまま演奏会に入る。
 野村證券だったと思うが、コンサートを主催して、世界的な指揮者バーンスタインによるオーケストラ演奏会を企画した。ところが、当日、バーンスタインが病気とかで、全部を振ることができなくなったと記憶している。つまり、多くの部分を代役の人が指揮した。バーンスタインとその代役では、あまりにランクが違うのだが、そのまま払い戻しなどもせず、強行された。バーンスタインだから、高価なチケットを買ったひとたちは、かなり怒って、苦情を申したてたようだ。もちろん、ギャラも相当に違うわけだから、当然、出演しなかった分、バーンスタインへの支払いは減額されたはずで、主催者側は、むしろ予想しない利益があがったことになる。欧米では、こうしたときに、差額を払い戻しをする場合もあるそうだ。それまでは、日本でも、払い戻しをすることが多かったのである。音楽雑誌などでもさかんに取り上げられ、野村證券は批判された。
 それから大分たって、私が家族と一緒に、イギリスのロイヤルバレーを見に行ったときのことだ。チャイコフスキー「白鳥の湖」で、我々の目当てはコジョカルだった。「白鳥の湖」はもともと3人のオデット・オディール役が用意されていて、日によって違うバレリーナが踊ることになっていたのだが、コジョカルのときだけ、チケットがあっというまに完売になった。それだけ、特別の人気ダンサーだ。しかし、コジョカルが来日後、練習中にけがをしたという情報が流れていたのだが、不安は的中し、当日会場にいったら、代役が貼りだされていた。すると、代役の代役であることがわかった。チケットをみると、「代役になっても、払い戻しはしません」と、ちゃんと事前の断りが入っているのである。これは、先の野村證券主催演奏会からの、主催者たちの「知恵」なのかも知れないが、私は納得できない。とにかく、人気の公演なので、たとえコジョカルがでなくてもいいという、当日券待ちのひとたちが列をつくっているから、彼らに売るという手もあった。私一人だったら、そうしたかも知れないが、家族一緒で、まあいいじないかというので、入場した。もちろん、さすがに、世界トップレベルのバレー団だけあって、代役の代役でも、素晴らしかったのだが。
 しかし、考えてみると、このやり方は悪用可能だ。実際に、そうした事例もあった。
 NHKのイタリアオペラのときだったと思うが、「トスカ」でホセ・カレラスが歌うことになっていた。しかし、カレラスはたしか一回しか歌わず、あとをキャンセルして、ベルリンに飛んだのだ。そして、カラヤンの指揮する「トスカ」のレコーディングに参加したことがわかっている。当然、そういう予定が当初から組まれていたことになる。厳格にいえば、これは一種の詐欺だともいえる。そのときに、払い戻しなどが行われたかどうかは、わからない。
 私は、少なくともスター音楽家が出演することで、チケットが事前に発売されるならば、その音楽家を目当てに購入することは当然なので、その人が出演できなくなった場合には、やはり、払い戻しの選択が可能なようにするべきであろうと思う。もちろん、それは、大きな損失を伴うことになるわけだが、それは、興行に伴うリスクとして引き受けるべきではないのだろうか。ただ、私は、代役が出る以上、会場までいけば、ほとんどの人は、払い戻しの選択はしないと思っているが。
 交通機関で考えてみよう。
 JRの特急は、たぶん予定よりも2時間以上遅れると、特急券の払い戻しがあるはずである。だから、きわどいときには、特急はかなり飛ばしたりする。早く着くから、特別な料金を支払うわけだから、これは、非常に良心的な措置といえるだろう。遅れの原因は、客にはないわけだから。
 それに対して、高速道路は、どんなに遅れても、高速料金の払い戻しなどはしない。これは、不当なのだろうか。あるいは、仕方ないことなのか。まず方法的に無理な気がする。特急はチケットがあるから、乗っていたことがわかるが、高速はETCなので、当人には証明することが、簡単ではない。それから、遅れの原因は、多くが渋滞であり、車が多すぎることによるわけだから、利用者が原因を作っている、ということを考えると、払い戻しというのは、理屈にあわないと考えざるをえない。
 スポーツにも、払い戻しが問題になることがある。例えば野球だ。プロ野球は、5回を経過すると、試合が成立したということになるが、試合が始まっても、5回終了前に雨などで中止になると、試合が成立しなかったことになる。つまり、試合がなかったことになり、選手にとっては、いい結果を残していても、それが消えてしまうので、残念だろう。観客は、チケット代を返してもらえる。年間シート購入の場合には、適用されないが。他のスポーツの場合には、よほどのことがない、試合が開始されたあとに、途中で中止になることは、あまり聞いたことがないので、プロ野球のようなことはないのだろうか。
 種類によって、さまざまなケースがあるということだが、少なくとも、食べ物屋さんでは、きちんとした料理をだしてほしいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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