少々古い記事になってしまったが、毎日新聞の10月22日付けで「 肉は好きなだけ食べていい? 新食事指針に批判続々」という大西睦子氏の文章が掲載さている。栄養学者らの国際研究チームが、こういう結論の研究を発表し、批判も出ているという内容だ。これまでの見解は、「 「赤い肉」と呼ばれる牛、豚、羊、馬などの獣肉や、「加工肉」と呼ばれるハムやソーセージは、食べ過ぎると、2型糖尿病や心血管系疾患、がんにかかるリスクや、早死にするリスクを高めることが、これまでの多くの研究で示されてきました。」という見解がほぼ常識的なものだった。しかし、この研究では、減らす必要はなく、多く食べる人と少なく食べる人の健康上の問題は、ごくわずかしか違わないという結論になっているのだそうだ。面白いのは、研究方法で、栄養学は、自然科学的な手法で実験をするのかと思いきや、完全に文献調査なのだそうだ。さまざまな研究調査の結果を精査したということなのだろう。
ただ、常識的にいって、どのような食べ物でも、食べ過ぎがよくないことは明らかで、肉の食べ過ぎだけが悪いわけでもないだろうし、必要な栄養価やカロリーを考慮して、適当量を食べれば、いいのではないかと単純に考える。大部前の知り合いだが、毎日ビフテキを1キロ食べていて、すっかり健康を害した人がいた。健康維持、あるいは病気にならないようにするためには、食事だけではなく、運動やストレスなど多様な要因があるわけだから、食事だけを切り取って考察しても、あまり意味はない。
ただこの記事を読んで、多少違和感をもった。書いた人が内科医だから当然ともいえるが、肉を食べることの是非については、私は栄養面よりも環境問題として考えている。昨日、講義で「アグリビジネス」について扱い、特に畜産業の問題について考察した。特に牛に関わる畜産業は、環境負荷が大きく、また、飼育のために使う栄養と、生産される栄養との比較でいえば、全くの無駄といえる。膨大な飼料を与えて、わずかな肉をとっているのが実状だ。これは、大きな魚の養殖にもいえる。おいしいブリを食べるために、イワシを大量に消費させるわけだが、イワシをそのまま食べていれば、ずっと多く食べることができる。確かに牛肉はおいしいし、また、ブリはイワシよりおいしい。豊かになれば、おいしいものだ食べたくなるのが、人間の欲望である。
欲望を抑えず、たくさんの肉や食べれば、健康が害される。だから、少量にしましょうというのが、医学的な立場だ。それはそれとして、意味のあることだが、食料の問題は、環境と更に飢餓の問題もある。現代社会は、飽食と飢餓が並立しているわけだが、飢餓問題を解決するために、より安く肉を食べられるように、畜産を拡大していくという方向をとれば、今でも畜産業が環境悪化の大きな要因となっているのに、更に、破壊的な状況になるだろう。やはり、畜産の規模そのものをかなり小さくして、飼料として作る農産物を人間用に転換していく必要があるのではないか。
私自身は、食に対する欲求があまりなく、なんでもおいしく食べるのがよいのだと考えているから、イワシで全然構わないが、ただ、やはりおいしいものを食べたいという欲求をもっている人が多いことは、充分にわかる。日本にも、植物性タンパク質をもちいて、ビフテキもどきの調理品が売られるようになっているようだが、まだ試したことがない。一度食べてみたいと思っている。そうした調理食品が、普及していけば、食に関するさまざまな問題が、改善されていくように思うがどうだろうか。食は健康、環境、格差という3つの領域で総合的に考える必要がある。