Cowconspiracyを見て 温暖化と畜産を考える

 次回国際社会論で「アグリビジネス」を扱う。その準備のために、酪農問題を扱ったCowconspiracyというドキュメント映画を見た。
 それを書く前に、渡辺正氏の「温暖化対策100兆円をドブに、日本はバカなのか?」という文章について簡単に。https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58217?utm_source=editor&utm_medium=mail&utm_campaign=link&utm_content=top
 氏によれば、地球温暖化の主張は「オカルト」のようなものなのだそうだが、世界の科学者の多数が肯定している主張を、オカルトというのは、なんとも逆のオカルト的感じがしてしまう。温暖化否定のひと達は、たいてい、外国の「有力」な科学者のなかで、温暖化に否定的な主張をしているひと達の書いていることを引用して、それが当然正しいのだという主張をするのだが、温暖化の主張をしている「有力」な科学者の言説を丁寧に批判することは、あまりない。それに、最近の異常気象などを否定するのは困難なので、温暖化的な現象は肯定する。例えば、次のように書く。

 「人為的CO2の寄与はその一部である。IPCCの報告書によると、過去100年で地球の気温は1℃ほど上がったと言われるが、その半分(半分以上)は数百年前からつづいてきた自然変動や20世紀後半から進んだ都市化のせいであろう。人間活動から出るCO2の効果はせいぜい0.5℃と推定できる。0.2~0.3℃や0.1℃くらいとみる研究者もいる。」

 私は、温暖化の原因が、CO2だけであるという主張は、まだ見たことがなく、CO2はその主な一部であるというのが、ほとんどの主張であるし、また、人間活動をどこまで含めるかという問題もある。氏は、「都市化」によって気温の上昇が起きていることは認めているが、では、その「都市化」が気温上昇をもたらす「要因」は何なのか、説明すべきであろう。温暖化が起きているとするひと達が、都市化を見るとき、都市では、温暖化が起きる原因が集約的に存在していると理解するはずである。それこそ、CO2をたくさんだすはずであるし、また人間の活動が集中しているわけである。また、上記の氏の文章だけでは書かれていないが、「自然変動」とは何か。自然変動にせよ、温暖化の傾向があるのならば、何らかの対策が必要であろう。いくら地球上の温度が上がっても、人類の生活になんら問題は生じないという立場ならば、氏の巨額な対策費は馬鹿げているという主張も頷けるが、そこはあいまいである。近年の異常気象が、温暖化によって生じている部分があるとするひと達は多いわけだからは、その点も説明しなければ説得力がないというべきだ。
 これから紹介するCowconspiracyは、温暖化に畜産が大きく影響しているという主張に基づいたドキュメンタリーである。Netflixで見ることができる。Youtubeにもあるそうだ。畜産といっても、多くは牛に関する事実が扱われている。そして、渡辺氏の書くように、co2だけではなく、牛のだすメタンガスが大きな要因となっているとも主張している。だから、狭い意味での人間の活動に限定しているわけではない。
 さて、主人公の青年は、アル・ゴアの「不都合な真実」を見てショックをうけ、ライフスタイルを変えてみる。例えば、移動は自転車にという具合。しかし、国連の報告に、温暖化の主要な原因は畜産にあると書かれていることを知り、ゴアや環境保護団体に質問してみるが、みんな答えない。グリンピースは質問にすら応じない。ちなみに、グリンピースは、この映画がきっかけであったかはわからないが、昨年みたホームページには、畜産問題がかなり詳細に論じられていた。いろいろな団体に聞き回って、あるときアマゾンの森林破壊問題に取り組んでいるアマゾン・ウォッチに出かけて、質問をするが、煮え切らない。そこで、青年が、何故アマゾンの破壊の要因が畜産だと認めないのかと、切り込むと、反対した人が多数殺されたという事実を知らされる。有名なDotothy Stangを含めて、1100人が畜産に反対して殺害されたのだそうだ。それを恐れているということがわかったが、他方、畜産業界の恐ろしさを認識することになる。つまり、映画のスポンサーが降りてしまうのである。報復の恐ろしさと、スポンサー問題で、映画制作を続けるべきかどうか迷うが、続けることになり、小規模で酪農をしている農家や、牧場で飼育しているひと達を取材する。しかし、どうしたらいいかという点で、結局は、菜食主義、それもビーガンの勧めというように進んで終わる。
 ビーガンの団体が制作した映画なのかどうかは、わからないか、ビーガンの団体の援助で制作されたことは間違いないだろう。終盤になると、ビーガンが何人か登場して、肉を食べることをやめれば、世界の食料問題が解決するし、環境問題も改善されると述べる。これは、アメリカでの取材に限定されているので、あまり話題として出てこないが、世界の食料問題という切り口では、一方における飽食と他方における飢餓が、同時に世界には存在するという問題がある。飽食の結果として、大量の食料が廃棄される問題もあるが、この映画の視点でいえば、作付けされる農産物のかなりの部分が、動物用の飼料であることが、飢餓問題のひとつの原因であることがわかる。
 
 この映画の影響かどうかはわからないが、特にヨーロッパでは、牛肉を食べる割合が非常に低下していると聞いたことがある。どの程度かはわからない。今年の夏、ドイツにいったとき、レストランのメニューに牛肉料理はでていたし、食べている人も多かったから、極端な傾向ではないだろうと思うが、しかし、逆に、植物性タンパクを利用した「牛肉」もどきの料理が多数でてきており、専用のレストランも増えているという。日本にもそうした企業が進出しているはずである。断念ながら、私はまだ食べたことがないのだが。
 こドキュメンタリーを見ると、確かに牛肉を食べることは、地球温暖化に加担し、後ろめたい気持ちにさせられるかも知れない。私自身は、牛肉はあまり食べないのだが、肉は食べる。乳製品も好きだ。ただ、ビーガンになる気持ちには、まだ慣れない。人間の生物的な進化が、動物性タンパク質を摂取するようになったことが、大きな要因のひとつであることは間違いないことだから、動物性食品をとらない場合、単に植物性タンパクで補うことはできず、栄養に関する正確な知識が必要なようだ。ただ、やはり、全体として肉の消費を減らしていく必要はある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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