大学入学共通テスト民間検定採用問題と萩生田文科相の発言

 安倍内閣の改造で、萩生田氏が文科相になると発表になったとき、絶対にそうした地位に就いてはいけない人がなったと思わざるをえなかった。何故か。それは、萩生田氏が、極めて権力志向が強く、男尊女卑の思想をもち、そして、利権的発想をする人物だからである。そもそも、政治家として好ましくないが、特に教育行政に関わってほしくない人だ。核武装を容認し、女系天皇否定論、カジノ推進論の立場である。そして、教育行政に関していえば、議員の落選時代に、千葉科学大学の客員教授を務めている。これは、詳細はわからないが、おそらく安倍晋三氏の口利きに違いない。千葉科学大学は、獣医学部の創設で大問題となった加計学園に属している。周知のように、安倍首相と、加計孝太郎氏は、極めて親しいお友達である。萩生田氏が、加計学園問題の流れのなかで、加計孝太郎氏と会い、裏で重要な働きをしたことは、既に周知の事実になっている。この獣医学部の新設において、加計学園が認可を得ていく過程は、極めて不当に、教育行政を歪めたものであることは、否定のしようがない。つまり、獣医学部を新しく設置することに意味はあるとしても、それが、他の候補を排除して、加計学園に収斂していったのは、明らかに、利権がからんだ癒着構造があったからであり、その推進役の一人が萩生田氏だった。このような人物が、文科相に相応しくないことは、明らかだろう。
 今回の大学入学共通テストにおける民間の英語検定試験活用に関して、萩生田氏が、とんでもない失言をしたことは、決して偶然ではない。
 私は、大学入学試験で、民間の英語検定試験を活用することを、一般的な意味では反対しないし、むしろ、賛成でもある。しかし、それは、あくまでも、個別の大学が、大学の立場から適当であると判断した検定試験を採用することが、まず進められるべきであって、(既にそうした活用をしている大学もあると思われるが)センター試験にかわる、50万人もの受験生がいる試験で、8種類の団体(ひとつは抜けてしまったので、現在は7つになっている)を使うというのは、あまりに乱暴なやり方であって、高校側だけでなく、大学からも反対の意見が出ているのは当然である。団体が異なれば、当然検定試験の主な受験者、試験の目的、傾向など、かなりの相違がある。そして、採点基準も異なる。それをいきなり、全体として採用し、異なる試験を点数調整で合否に使うというのは、よほど試行が繰り返されなければ、混乱するのは当たり前であり、受験生が不安をもつのは、しごく当然である。
 日本の英語教育には大いに問題があり、改善されなければならない。そして、センター試験でリスニングテストが導入されて以来、私の感じでは、明らかに大学生の英語力は、実用的な面で改善されている。だから、英語の入試方法を改善することは、英語教育の改善に有益である。だが、それは、あくまでも、受験生や大学の納得のいくやり方で実施する必要がある。センター試験のリスニングテストの導入は、監督をする大学教員の間では大変なので、喜んでいたわけではないが、その意義は充分に認めていた。しかし、これまで明らかになっている民間検定試験の活用の方法には、杜撰なところがあまりに多い。だから、日本ではめずらしく、高校生の反対運動すら起こっているし、校長会もかなりまとまった見解として、延期を申し入れている。
 では、何故、文科省は、これほどの反対があるのに、強行姿勢を崩さないのか。何故、萩生田文科相が、「身の丈」発言などをするのか。
 文科省が強行するのは、民間検定の活用が、「利権がらみ」だからと考えるのが、最も近いだろう。
 参加が認められている検定試験の例年の受験数には、かなりのばらつきがあり、100万人以上の団体から、数万まであるが、子どもから大人までの受験者がいるから、高校生は、それほど多くないと考えられる。とくに、既に、どこかの大学で指定されていない限り、高校3年生はそれほど多くないはずである。そこに、毎年50万人の受験生が表れれば、極めて大きなビジネス機会となる。特に、一大教育産業になって、既に文科省との結びつきが強い団体は、かなり積極的に働きかけたと言われている。センター試験を、大学入学共通テストに変えていく方針は、安倍内閣によって設置された教育再生実行会議によって提言されたものであり、安倍内閣の教育改革の目玉である。提言の趣旨が、教育改善を意図したものであっても、それが実現段階になると、利権がらみになって、次第に歪められていくのは、安倍内閣の政策の特徴でもある。いよいよ、実行段階が近くなってきた段階で、萩生田文科相が登場し、何がなんでもやると宣言しているのは、利権が絡んでいるので、退くわけにはいかないのだろう。それは、加計問題の推移を見れば想像できる。萩生田氏は、こうした政策を押し進めるには、最も「有能」な人物として、選ばれたのだろう。「身の丈」発言は、萩生田氏の本性を顕している。
 高校側、それも生徒や教師、校長がこぞって拙速な実施に反対しているのは、それだけの理由があるからだ。利権など絡んでいないのであれば、問題点を改善してから実施するのがいいに決まっている。実際に、当面は共通試験の英語と民間テストを並行させるのだから、共通試験一本になっても、試験が不可能になるわけではない。その間、当然、検定試験を練習に受ける人もいるだろうから、そうした資料を提供してもらって、どの程度、団体間の開きがあるか、点数調整をどのようにすればいいか、など、共通試験の結果と比較することで、より実践的な試行が可能になる。
 毎日新聞によれば、萩生田文科相は、「制度としては、平等性は担保されている」と述べたようだが、担保されていないから、反対が沸き起こっているのではないか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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