同性婚の親の記入法– フランスで大激論

 フランスで新しい学校法が承認されたというが、かなりの激論が交わされたという。最も大きな論点になったのが、生徒の保護者名を記入するときに、どのようにするのかということ。これまでは、ごく当たり前のように、「父」と「母」という欄があって、そこに名前を記入するというものだった。日本でも同様だ。
 ところが、ヨーロッパでは、同性婚あるいは同性のカップルを、容認している国が多い。法的に同性婚を認めていなくても、結婚しないまま同性している二人を「カップル」という概念で認め、様々な法的な便宜を図っている国が多いのである。LGBTの権利を認める方向に進んでいる国では、当然同性婚が容認され、子どもがいて(多くは養子)、学校に通っている。そこで、書類にどう書くかという問題が生じるわけである。
 ル・モンドの2月19日の記事« Parent 1, parent 2 » : vie et mort d’une idée controversée du projet de « loi Blanquer »によれば、学校法の議論の過程で、女性議員のValérie Petitによって、「父と母」ではなく、「親1と親2」という概念にすべきであるという提案がなされ、大論争になったようだ。


 確かに、同性婚の親であれば、これまでのように、保護者の氏名を書く欄がふたつあって、それぞれ「父」と「母」では具合が悪いことは間違いない。男性のカップルだとしても、二人とも「父」なのか、あるいは、一人だけ「父」で、他の一人は、別の存在なのか、カップルによっても考え方が違っているだろう。そもそも、そのような事態のなかで、「父」とは何なのか、「母」とは何なのかというのは、かなりやっかいな問題である。もちろん、動物としてのヒトである以上、生物学的な男の親と女の親が一人ずつ存在するはずである。日本では、出生届けの段階で、法的な夫婦であろうが、そうでなかろうが、出生届けは、父親(男)と母親(女)とで、厳密になされるはずであり、また、戸籍はそれに応じて作成される。日本では、法的に同性婚が現時点では認められていないから、この枠組みが適応しないということにはなっていないといえる。そして、男女の夫婦でなければ、養子を迎えることはできないことになっているから、法的には、同性の親とその子どもという関係は存在しないわけである。
 しかし、同性婚が正式に認められれば、当然養子が認められることになり、同性の親とその子どもという家族が当たり前の存在になる。同性婚のカップルが子どもをもつ経緯は、養子、代理出産、あるいは、以前の異性婚での子どもを引き取る、など様々なケースがあるだろう。ただ、ここでは、議論のある同性婚そのものではなく、実際に容認されている国での呼称問題なので、そこに限って考えてみる。

 当初の提案は、「父・母」という用語をとりやめて、すべてを「親1・親2」と書き込むような書類様式にすべきだという提案だったようで、それで保守派から猛反対が起きたようだ。同性婚が認めらているといっても、圧倒的多数は、異性婚で、父と母の組み合わせだから、少数の立場を前提にして、多数の立場を表現しないような提案に猛反対が起きたのも、自然なことだといえるだろう。結局、妥協案で、要するにどちらもありということになったようだ。実際の書類の様式が書かれていないのでわからないが、具体的な欄の項目名はわからない。どのような項目名にすると、どちらも可能なのだろうか。

 
父  or  親1    
母  or  親2    

 こんな感じなのだろうか。親1親2の場合、別に性別を書く欄を設けるのだろうか。いろいろと想像してみるが、ある意味どうでもいいことのようにも思えるが、しかし、当人として見れば、自分が該当しない形式であれば、確かにこまるだろう。
 将来、日本も同性婚が法的に認められる日が来ることは、充分に予想されるわけだから、みなさんも、様式について考えてみてほしい。
 多少話題がそれるが、日本の学校では、児童・生徒の名簿をどうするかが、よく議論になる。以前は男女別で、最初に男が五十音順に並び、次に女がくる。それは、男女不平等の現れだというので、混合名簿なるものが提起され、何女のべつなく、五十音順に名簿が作成されている学校もある。男女混合名簿の場合、男女の別が記入されているかどうかも、学校によって異なるだろう。大学は、おそらくほぼ混合名簿で、男女の区別はないのではなかろうか。少なくとも私の勤務校ではそうだ。
 日本語では、児童も生徒も男女の区別はなく、両方さすが、ドイツ語は区別されているので、生徒という場合には、かならず Schulerin und Schuler という書き方をして、必ず女子生徒を先に書く。以前は Schuler で両方を指していたと思われるが、Schuler は男性だということになって、分けて書くようになったときに、女性を先に書くというところが、ドイツ人らしいのかもしれない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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