悠仁親王「東大進学反対書名」騒動について

 8月30日に「週刊ポスト」の記事がウェブ上にアップされた。「「あまりに悪質」悠仁さまの「東大進学に反対署名1万人超」運営サイトが署名ストップさせた理由」という記事である。25日に秋篠宮夫妻とともに「国際昆虫学会議」に出席したあと、同会議のポスター発表をすることを報じたあとに、以下のように書いている。
 
 「一方で、悠仁さまをめぐっては看過できない問題が起きている。この開会式前日まで「悠仁さまの東大進学に反対する署名活動」がオンライン上で2週間にわたって続いていたのだ。8月24日を境に署名ができないようになっているが、何が起きたのか。署名活動が展開されていたオンライン署名サイト「Change.org」の広報チームに問い合わせるとこう回答があった。」

 
 そして大学ジャーナリストの石渡嶺司という人の以下の言葉を紹介している。
「1万人以上が署名して物議を醸しています。悠仁さまに限らず誰であれ、どの大学に挑戦するかはまず本人の意思が尊重されるべき。仮に報道のとおり悠仁さまが東大への推薦入学を希望されているとして、名門校の学内では推薦を受けるのも高いハードルがあり、そのために論文執筆など努力を重ねて何が悪いのか。ネット上で匿名参加できるのをいいことに騒ぎ立てる行為はあまりに悪質ではないか」
 
 最後に、受験生にとっては「勝負の夏」であるから、雑音に惑わされない環境が望まれると結んでいる。
 この記事を書いた人や石渡氏は、書名に付された文章を読んだのだろうかという疑念がわく。もし読んでいれば、「高校3年生の悠仁さまが「トンボ論文」で国際デビューを果たしたことは、「来春に推薦入試制度を利用して東京大学への進学の可能性が報じられるなか、推薦入試で求められる活動実績として高く評価される可能性がある」(皇室ジャーナリスト)と見られている。」などと簡単に書けるはずがないと思われるからである。
 
 署名は、噂される悠仁親王の東大推薦入学に反対するひとたちがネット上で行ったものである。1万人を超えたところで、批判などがあり、署名サイト(Change.org)が中止させたようだ。しかし、文章そのものはまだ残っているので読めた。私自身は、この署名について知っていたが、趣旨に賛成でもこうした署名やアンケートには一切回答しないことにしているので、署名をしないでいたが、こういう状況になってみると、署名しておけばよかったという気持もある。
 まずこの記事(ポスト)のおかしさを指摘しておこう。
 石渡氏は、どの大学に挑戦するかは本人の意思が尊重されるべき、と書いている。もちろん、そのことは正しい。しかし、問題となっているのは、そもそも本人が東大を望んでいるかどうか、究めて疑問である点だ。もし、本人が望んでいるのだとしたら、この夏にはかなりの受験勉強に励んでいるはずである。いくら推薦入学でも、東大の場合には、共通テストで800点以上をとることが条件となっているといわれている。800点というのは、そんなにやさしいものではない。本人の高校での成績は、文春が暴露したことが、ほぼ正しいと思われるから、800点はほぼ無理だろう。しかし、本人の意思で東大進学したいのであれば、それを突破すべく猛勉強しているはずであるが、そのようにはみえない。これは、志望も含めて、まわりがお膳立てしているからだろう。
 また、学会誌に掲載されたという論文の研究を、ほんとうに親王自身が中心的に行い、論文を執筆したと考えている人は、実際に学問をしている人の間では、ほとんどいないと断言してもよいほどだ。推薦入試のハードルは、共通テスト以外はクリアしているなどとも報道されているが、推薦わくにはいるための「成績」にしても、この論文にしても、筑付や東大で、もしそう評価されているのならば、それは不当な皇室特権・権力によってなされていると考えのるが自然であろう。
 
 さて、以上のような疑問は、署名に付された詳細な長文の文章によって説明されている。
https://www.change.org/p/%E6%82%A0%E4%BB%81%E6%A7%98%E3%81%8C%E6%9D%B1%E5%A4%A7%E3%81%AE%E6%8E%A8%E8%96%A6%E5%85%A5%E8%A9%A6%E3%82%92%E6%82%AA%E7%94%A8%E3%81%97-%E5%B0%86%E6%9D%A5%E3%81%AE%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6-%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%89%B1%E3%81%84-%E3%81%A7%E5%85%A5%E5%AD%A6%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AF-%E8%B1%A1%E5%BE%B4%E5%A4%A9%E7%9A%87%E5%88%B6%E3%82%92%E6%A0%B9%E5%BA%95%E3%81%8B%E3%82%89%E6%8F%BA%E3%82%8B%E3%81%8C%E3%81%99%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81%E5%8F%8D%E5%AF%BE%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99
 
 ぜひ実際にこの文章を読んでほしいが、石渡氏のようなムード的な見解を、完膚なきまでに論破している。
 象徴天皇制の意味と、その観点からの考察、筑付推薦入学の問題、中学時代の作文コンクールにおける剽窃問題(海外で大々的に報道されていることの紹介)、学会論文作成にみる欠陥、現代の教育制度的にみて、親王の筑付・東大入学の公正上の問題、等々が詳細に指摘されている。私自身、学会論文の問題について、教えられるところが多かった。
 それで、この署名活動の説明文で指摘されていない点について、考えておきたい。
 
 おそらく、この署名活動に反対する人の多くは、個人の進学に「反対する」などということが許されない人権侵害ではないか、というものだろう。もし、これが一般人に対するものだったら、たしかにとんでもない犯罪行為ともいえるものである。しかし、悠仁親王は、一般人ではない。そして、進学に関わって行われてきたことが、ほとんどすべて、一般人では決して実現できないような、特権の行使によって実現している。公人の行為に関して、それが批判されるべきことであれば、強い批判を公表することは、むしろ公益上必要なことである。
 それに加えて悠仁親王は、かなり高い確率で将来、日本の天皇になる存在である。そして、日本国憲法には、天皇は国民の「総意」によってなりたつことが書かれている。つまり、国民が、程度の差はあれ、多くのものが尊敬することによって成立するのである。「総意」がどのように証明されるかは、議論のあるところだろうが、すくなくとも、国民から、特別強い疑念が生じない状況と考えることができる。そして、たしかに、戦後の昭和、平成、令和の天皇は、国民からの支持があったし、あるように感じられる。しかし、次期天皇の可能性が高い秋篠宮については、国民の一部とはいえ、疑念がさまざまに表明されている。そして、親王の進学問題も疑念のひとつである。
 もうひとつ、今回の署名運動に対する非難は、まるで皇室批判は許されない、という「菊タブー」を思わせるようなところがある。昭和の時代には、まだ「菊タブー」はあったと思われるが、平成になって、皇室批判が雑誌などに堂々と書かれるようになり、特に、秋篠宮家の結婚騒動は、皇室批判が自由になったような一面があった。もっとも、それはインターネットの普及が促進したものであり、大手メディアにおいては、いまだに菊タブーに呪縛されているのだが。
 いずれにせよ、皇室批判が自由にできることこそ、「総意」を実感させるために必要な前提条件である。天皇が真に国民の「総意」として成立するためには、国民の間に強い疑念があれば、それを自由に表明できることが保障されており、そのうえで、そうした疑念がほとんど生じていない状況が実現していることが必要だと考えられる。そして、国民から強い疑念が表明されているような状況になったら、「総意」をえていないのだから、天皇が退位するか、天皇制というシステムが終了することになるのだろう。
 以上のことから、今回のような署名は、決して非難されるものではなく、むしろ大いに認められるものでなければならない。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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