・夏休みに進めたこと
まずは「遊び」とは何かということについて考えることにした。はじめに、遊びの定義を唱えているとして有名な、ホイジンガとカイヨワの学説を整理してみた。
ヨハン・ホイジンガは、著書の『ホモ・ルーデンス』の中で、「遊びとは、あるはっきり定められた時間、空間の範囲内で行われる自発的な行為もしくは活動である。それは自発的に受け入れた規則に従っている。その規則はいったん受け入れられた以上は絶対的拘束力をもっている。遊びの目的は行為そのもののなかにある。それは緊張と歓びの感情を伴い、またこれは『日常生活』とは『別のもの』をという意識に裏づけられている。」と述べている。
一方でロジェ・カイヨワも、その著書である『遊びと人間』において、ヨハン・ホイジンガとほぼ同様に、遊びについて以下の6つの特徴を挙げている。
1.自由な活動;すなわち、遊戯者が強制されないこと。もし強制されれば、遊びはたちまち魅力的な愉快な楽しみという性質を失ってしまう。
2. 隔離された活動;あらかじめ決められた明確な空間と時間の範囲内に制限されていること。
3.未確定の活動;ゲーム展開が決定されていたり、先に結果がわかっていたりしてはならない。創意の必要があるのだから、ある種の自由が必ず遊戯者側に残されていなくてはならない。
4.非生産的活動;財産も富も、いかなる種類の新要素も作り出さないこと。遊戯者間での所有権の移動をのぞいて、勝負開始時と同じ状態に帰着する。
5.規則のある活動;約束事に従う活動。この約束事は通常法規を停止し、一時的に新しい法を確立する。そしてこの法だけが通用する。
6.虚構の活動;日常生活と対比した場合、二次的な現実、または明白に非現実であるという特殊な意識を伴っていること。
ホイジンガの定義からは、遊びはやはり特定の時間、空間の範囲内で行われるということ、自発的な行為であること、遊びの中には規則があるということ、遊びの目的は行為そのものにあり、緊張と歓びの感情を伴うということがわかる。カイヨワの定義からは、自由・隔離・未確定・非生産的・規則的・虚構という特徴を示していることがわかる。カイヨワが挙げている6つの特徴のうち、自由と未確定・隔離・規則的・虚構の5つはホイジンガの定義とも一致する点があり、残りの非生産的という条件はカイヨワが新たに述べたものであるとわかった。
次に、遊びの種類・分類について考えた。ホイジンガは、遊びを競争と演技(表現)に分けたことに対し、カイヨワはアゴン(競争)、アレア(運)、ミミクリ(模擬)、イリンクス(めまい)の4つに分類した。ホイジンガについて、競争とはかけっこや球技遊全般を指し、演技(表現)とは工作やダンス、楽器演奏などを指す。カイヨワは、それに付け加えるように分類を増やしている。アゴン(競争)は取っ組み合いやかけっこ・おにごっこ、剣玉・こま回し・お手玉・腕相撲、サッカー、野球、バスケなどの球技、将棋、チェス、囲碁などのボードゲームを指す。アレア(運)は、じゃんけん、すごろく、パチンコ、宝くじなどを指す。ミミクリ(模擬)は、まねっこ遊びを指し、ままごと・学校ごっこ、人形遊び、仮面・仮装・演劇などが含まれる。イリンクス(めまい)は、ぐるぐるまい、ブランコ、シーソー、メリーゴーランド、ダンス、スキー、スケート、バイクなどを指す。なお、実際の遊びでは、少なからず要素の複合がありうるとしている。例えばトランプ、麻雀などはアゴンとアレアの2つの側面があるということである。また現代社会では、イリンクスとミミクリは徐々に減退させ、アゴンとアレアの要素を優先させる必要があるとしている。それは、現代の社会が競争と運で動く社会であるからだ。さらにカイヨワは、遊びの発達水準の観点から、パイディア(即興的で気まぐれな遊び)とルドゥス(秩序の明確な遊び)の二極を設けた。これによると、カイヨワの4つの分類の1つ1つが、さらにこのパイディアとルドゥスに分けられる。
パイディア ルドゥス
アゴン けんか、取っ組み合い サッカー・野球
アレア (存在しない?) パチンコ
ミミクリ ごっこ遊び・演劇 工作・組み立て遊び
イリンクス サーカス (存在しない?)
そのほかに遊びを分類する基準として考えられるのは、遊びをする人数、空間、性別などであると考えられる。人数による分類は、一人遊び、平行遊び、役割遊び、集団遊びなどである。空間による分類は、外遊び、室内遊び、辻遊びである。性別による分類としては、例えば女の子が好きな遊びはおはじきやお手玉、男の子が好きな遊びはこま回しなどに分類される。しかし、これらの分類はどれも年齢が関係しているおり、年齢による変化も考慮する必要があると考えられる。
※平行遊び・・・同じ場所で同じ遊びをしていながらも、相互のかかわりを持たない状況のこと
※辻遊び・・・若者が夜、外に出て遊ぶこと
次に、ビューラー、パーテン、ピアジェによる遊びの分類について見ていきたい。まず、カール・ビューラーは遊びを、機能遊戯・想像遊戯・受容遊戯・構成遊戯の4つに分類した。
ビューラーの4分類
機能遊戯 感覚遊び、運動遊び
想像遊戯 ママゴト、ごっこ遊び
受容遊戯 絵本を読む、音楽を聴く、おとぎ話を聞く
構成遊戯 積み木、砂遊び、描画
機能遊戯とは、感覚遊びや運動遊びを指す。手や足で物に触れた時の重量感や平衡感覚、質感などの様々な感覚を楽しむものや、走る、飛ぶ、つかむなどのように自分の体の機能を使って楽しむものである。日本の幼稚園や小学校では、室内の遊具よりも園庭・校庭遊具が充実しているというスタイルが多いが、どちらも子どもの成長には重要であり、感覚遊びでは小さな筋肉(手先の器用さ)を、運動遊びでは大きな筋肉をバランスよく育むことができると考えられる。想像遊戯は、いわゆるごっこ遊びを指す。ごっこ遊びとはすなわち、ロールプレイであるため自分以外の人物や動物などのほかの生き物、物などの気持ちを理解することにつながると考えられる。特に子どもが、自分の親や様々な職業人といった役割を演じ、他人を疑似体験することによって自分とは別の視点で見方を理解しにつながる。また、友人や家族と一緒にごっこ遊びをすると、リアルな人間関係を通じて他人と玩具を分け合ったり、自分の要望を相手に伝えたり、逆に他人の要望を理解して優先させてあげたりするといった高度な社会性を育むことができ、コミュニケーション能力や問題解決能力の向上にもつながると考えられる。受容遊戯は手足や全身を使って積極的に遊ぶのではなく、絵本やテレビを見る、話しや音楽を聴くなど、受け身的なの遊びを指す。この遊びは、子どもの間接経験が豊かになり、自然に知識を身につけるという効果があると考えられる。構成遊戯とは、 何かを作る、組み立てる、壊すといった遊び指す。いろいろなものを組み立てたり、作り出したりするところに楽しみを感じ、積み木、絵をかく、ねんど細工、折り紙などの遊びを通し、創造的能力を養うことが出来ると考えられる。
ミルドレッド・パーテンは、子どもの遊びを専念しない行動、傍観者遊び、ひとり遊び、平行遊び、連合遊び、協同遊びというように、社会的参加度に着目して遊びを分類している。
パーテンの6分類
専念しない行動 何もせずにぶらぶらしている状態。ぼーっとしている状態。
傍観者遊び 他の子供の遊びを見ているだけの傍観の状態。観察する状態。
ひとり遊び 友だちと関わらずに一人だけで遊ぶ状態。
平行遊び 他の子供のそばで、友だちと関わらないが、友だちと同じように遊ぶ状態。互いがかかわり合わない。
連合遊び 他の子供とおもちゃのやりとりをして、同じようなおもちゃで遊ぶ状態。
協同遊び 共通の目標に向けて仲間関係が組織され、役割をそれぞれが持っている状態。力や知恵を合わせて協力をする。
そしてジャン・ピアジェは、認知発達理論に基づいて子どもの遊びを、実践的な遊び、シンボル的な遊び、規則遊びの3つに分類し、発達段階の中で順序に従った出現の仕方をすることを指摘した。
ピアジェの3分類
感覚運動遊び(実践的遊び) 感覚や運動の機能を働かせること自体に喜びを見出す。(感覚運動期)
象徴遊び(シンボル的な遊び) 現実を離れた想像による遊び。ごっこ遊び、空想遊び、模倣遊びなど。(前操作期)
規則遊び ルールのある遊びで、社会的遊びである。(具体的操作期以降) 競争遊びへの発展。象徴遊びと違い、必然的に社会的あるいは相互個人的関係を意味する。
参考文献
深谷昌志・深谷和子 『遊びと勉強 子どもはどう変わったか』 1976 中央公論社
深谷昌志・深谷和子 『子ども世界の遊びと流行』 1990 大日本図書
・インタビューについて
当初は夏休み中に遊びに関するインタビューを行うはずだった。しかし、春学期に行っていた調査について見方を修正しなければならなくなったため、それに応じてインタビューで何を調査すべきかを再度考え直したのだが、現時点ではインタビュー内容を決定するまでに至らなかった。よって、夏休み中はインタビューをしなかったので、もう少し研究を進め、再度内容を吟味してから改めてインタビューを行いたい。