CMで考えること

 テレビをみるときには、NHK以外は当然CMがはいる。時間帯によって、はいるCMの性格が異なるのだが、特に昼間の若者向けのCMは、何を宣伝しているのかわからないものが多い。私の年齢のせいとも思えない。むしろ、今はCMの手法が変ってきているのだろう。とにかく会社名を連呼するだけのCMがある。何を作っている企業なのかもわからない。また、製品名をいうが、何の製品なのかもわからない。ずいぶん前の話だが、「なんである、アイデアル」ということをいうだけの宣伝があった。ある程度の年齢以上のひとなら、だれでも記憶しているだろう。若いひとには、まったく通じないだろうが、この宣伝はすごく話題になり、アイデアルという商品がもの爆発的に売れたといわれている。アイデアルというのは、傘の商品名だ。傘を買おうと思って、何にしますかと聞かれて、ついついアイデアルと答えてしまい、売れ行きが伸びたというのだ。「愛である」とも聞こえて印象的なのだ。テレビCMで売り上げが伸びた、ということは、以前はよくあったが、今ではどうなのだろうか。むしろ、CMの形態が変っているのか。

 
 今の名前連呼型CMは、アイデアルとは違う。アイデアルが傘だというのは、そのCMでは明確になっていた。ところが、会社名だけ何度も言って、なんの会社かわからないというのは、CMの受け取られ方がまったく違ってきたということなのだろうと、今は思っている。名前が頭にはいり、なんの会社?と思ったら、すぐにスマホで検索できる。そこで、詳しいことがわかる。考えてみると、ずいぶん合理的だ。テレビのCMは15秒ですべてを語るしかないが、詳しく宣伝するのは不可能だ。だから、とにかく、名称を覚えてもらって、ネットで検索してもらえれば、ずっと詳しい情報を伝えることができるわけだ。そう思ってCMをみていると、比較的若者向けのCMは、ほとんどそうした意図で作られているのかもしれないと感じた。ネットでの広告が主流になっているのは、ネットだけではなく、さまざまなメディアとの連携した形になっているのだろう。
 
 ただ、別の意味で非常に気になっていることがある。それは、テレビでもラジオでも多いのだが、借金の過払い金を取り戻せるという宣伝だ。いくつもの事務所や、かなりの時間帯で流れる宣伝だ。あれだけの宣伝をうてるということは、よほどそのことで儲かっているということなのだろう。しかも、過払い金が実際に戻ってきたときだけ、報酬が発生するので、単なる調査やだめだったときには、無報酬だ。気になるのは、そのことではない。私は、そうした借金はしたことがないので、過払い金はまったくないと思うが、宣伝によれば、どんなカードを使ったかわからなくても、5分ほどで、過払い金があるかどうかがわかるというのだ。なんでわかるのだろうか、ということだ。
 過払い金があるかどうかがわかるというのは、ある特定の個人が、過去、どれだけの借金(あるいは高い利子がつくローン、リボ払い等)をしているか、そして、どれだけの利子を支払っているかを把握できるということだ。しかも、それがあれば、確実に過払い部分が返金されるということは、その情報が正確であり、貸したほうも、返さなければならないものだと自覚していることになる。ということは、そもそも裏社会での高利の金融ではないということだ。だから、不思議なことは、そうした情報がただちに、弁護士たちにはアクセスできるということと、表社会の金融機関が、法定利子以上の利子をとっているということだ。クレジットカードでの支払いでも、過払い金が発生する、と言っているのだから。法律が変わったから過払い金が発生したというような説明が、ウェブ上であったが、それなら、とっくに、過払い金支払い分がかなり減少しているはずなのに、宣伝はかえって増えているような気がする。
 
 5分でわかるということは、弁護士事務所が、あれこれのデータベースにアクセスして、いろいろ調べた結果わかるというものではない。ちゃんと、こうしたデータが揃っているデータベースがあるということだ。試しにChatGPTに聞いてみた。すると、いくつかの弁護士事務所などは、金融機関のデータベースにアクセスできる契約を結んでいるが、それには、しかるべき認証が必要で、すべての事務所ができるわけではない。5分でわかるというのは、初期のスクリーニングで、正確な過払い金を確認するには、詳細で調査が必要であると答えていた。また、事務所によっては、特別の解析ソフトをもっているという。
 ChatGPTの回答だから、本当かどうかはわからないが、とにかく、宣伝している弁護士事務所に電話すると、事務所が個人の借金の状態や過払い金の状態を調べられるということが、非常に怖い気もするのである。過払い金がある場合だけわかるわけではなく、当然ない場合もそうした確認ができるのだろうから、国民すべての金融機関との係わりが、あるひとたち(弁護士等)には、把握可能な状態になっているのかということも、推測されてくるわけだ。
 また、過払い金を扱っている事務所のホームページが、グーグル検索でたくさんでてくるが、ある事務所をクリックしたら、セキュリティ・ソフトが起動して、ここは危険なサイトです、などという警告がでた。これにもびっくりした。他の事務所はでなかったが、こちらが知りたいようなことは書いていなかった。
 いろいろと、不可解な状況だと思う。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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