ロシアの傭兵組織であるワグネルの創設者であり、指導者のプリゴジンが、砲弾が充分に供給されていないことを、以前から述べ、国防相等を非難してきたが、ついに、このままでは闘いを継続することができないといいだし、砲弾の供給がなければ、5月10日にバフムトを撤退する、と公言した。バフムトの戦場近くであると称する場所で、死体が転がっている状況を背景に、彼らは少し前の戦闘で死んだ、弾薬がないからだ、と激怒している映像がネットで出回っている。テレビでも放映されているということだ。
もちろん、この映像をそのまま受け取るわけにはいかない。バフムトの戦場で撮影しているといっても、本当かどうかはわからない。それに本当の死体かどうかも、確証があるわけでもない。
プーチンは、5月9日の対独戦勝記念日までに、バフムトを落とせ、と厳命したというが、その種の「厳命」は、これまで何種類も、また様々な時期を指定して出されたと報道されており、その真偽も不明だが、他方では、5月9日までのバフムト陥落というのは、無理だとわかってきたから、ロシア正規軍としても、バフムト占領にそれほど大きな意味をもたなくなり、撤退準備をしているという情報もある。ただし、再びバフムトを大規模に攻撃しているという報道もある。
これとは別に、モスクワのクレムリンの上空で、ドローンが爆発した映像も流れた。そして、早速プーチンは、ウクライナの攻撃と決めつけて、大々的に反撃する権利があるなどといっている。もし、あれがウクライナの放ったドローンであり、それが、ウクライナをロシアが大々的に反撃する権利を生じさせるならば、ウクライナが、ロシアに大々的に反撃する何千倍もの権利があるだろう。しかし、これまでのところ、ウクライナはロシアの民間施設は、攻撃していない。攻撃しているのは、兵站や軍事施設のみである。プーチンとその側近以外は、あれがウクライナによる攻撃だと本気で思っている人はいないと思われるが、しかし、誰がやったかについては、諸説分かれている。信憑性は低いと思われるが、そのなかに、筑波大名誉教授の中村氏のプリゴジンの指示で行われたという説がある。そのようにテレビで解説していた。プリゴジンの「撤退声明」と「クレムリン攻撃」という、ふたつの信憑性の低い情報は、少なくとも、ロシア政府、プーチンが、状況を完全に把握して、人びとを統率していることを疑わせるには、充分だ。
プリゴジンの映像そのものが、プリゴジンの偽物が登場して、まったくのでたらめな創作映像である可能性もあるが、さすがに、顔が世界的に知られた存在だから、とりあえず、あの映像のプリゴジンは本人だと考えておこう。
そうすると、いかに、プーチン本人は非難せず、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を中心に非難している。中村教授によると、プリゴジンは、プーチン政権の中枢からは、かなり冷遇されており、その恨みがだんだん募っているというのだが、別のひとたちは、プーチンの後釜を狙っているともいう。いずれにせよ、プーチンそのものは攻撃していないのだから、プーチン後を、スムーズに権力掌握を狙っているという可能性は充分にある。プーチンを倒そうとは思っていないだろうが。
そして、5月7日のニュースによると、ワグネルは、短期制圧が可能とみて、バフムトに大規模攻撃をかけているという。大規模攻撃ができるほど、砲弾はあるらしい。あるいは、あの映像のあと、供給があったのだろうか。
元々、ワグネルは、砲弾は大量にもっていたという主張する者もいる。ソ連がバフムトの地下に残した厖大な砲弾を入手したからだというのだ。だが、無理な肉弾戦の攻撃を繰り返して、多大な死傷者を出し、軍隊として殲滅の危機にあるので、とにかく撤退したがっており、その口実つくりとして、防弾が供給されないと叫んでいるだけだ、という説である。この情報だと、ワグネルが大規模攻撃をしかけ始めたということの説明がつく。やることはやったとして、完全制圧に成功しないまま、10日に撤退する、あるいは、制圧が官僚したならば、そのまま居座り、手柄にするという目論見だ。
いずれにせよ、5月9日の戦勝パレード(モスクワ)がどのように行われるのか、プリゴジンの撤回声明は実行されるのか、そして、間近と言われるウクライナの大攻勢がどうなるのか、見守る必要がある。