夏休みに行ったこと「いじめ発生における加害者の家庭環境的要因」

春学期から継続してインタビューと文献調査を行った。夏休み中に同級生には4人、そのうち1人は保護者の方にもインタビューすることが出来た。春学期に行ったインタビューも合わせて、同級生6人、保護者2人となった。まずその内容をまとめることとする。また、当インタビューを行うにあたって、私自身いじめられたことに対して、恨みや怒り等の感情は今では一切持ち合わせていないことを念頭に置いて頂きたいと思う。

 

まず同級生に行ったインタビューからまとめる。質問内容として、

①家族構成

②当時の家庭状況

  1. 帰ってどのように過ごしていたか
  2. 食事は誰ととっていたか
  3. 家族とどのような会話をしていたか
  4. 自分以外の家族間の様子はどうだったか

③学校と家ではどちらがよかったか

④いじめの加害者とその家庭環境は関係があると思うか

これらについて大まかに聞くことにした。

 

[1人目A]

①両親と1つ下の弟、2つ下の妹がいる5人家族

②1.学校が終わって受験勉強のためにそのまま塾に向かっていたので帰りはいつも21時過ぎだった。すぐに夕飯を食べて風呂に入って、勉強して寝ていた。

2.塾で帰りが遅かったので夕飯はいつも1人だけ遅れて食べていた。朝食は起きたら勝手にパンを焼くなどして食べていた。

3.親とは受験勉強の話しか殆どしなかった。弟や妹は勉強で分からないところを聞きにくることがよくあったので、その都度教えながら何気ない雑談などはしていた。

4.いつも自室に籠っていたのであまり分からないが、仲良しだったと思う。

③友だちと話せるので学校の方が楽しかった。家にいてもつまらない。

④家でストレスが溜まって、それが学校で爆発しちゃうとかはあると思う。そうじゃなくても、全然会話がなかったりしたら寂しくなったり情緒不安定になったりするのでは。自分の場合、知らずのうちにストレスが溜まっていたのかもしれない。

[2人目 B]

①両親と一人っ子の3人家族

②1.学校が終わったら家に帰って、自分の部屋で受験勉強に励んでいた。たまに息抜きでテレビを観たりするがそれも自分の部屋で観ていた。

2.朝は家族全員で食べていた。夜は父親の帰りが遅いので、大体母親と一緒に食べていた。

3.母親は世間話などしてきたが、当時の自分は受験に手一杯で1分1秒も惜しかったため自分からは滅多に話さなかった。父親は朝家を出るときに「いってきます」と声をかける程度。朝食時は母親と父親がずっとしゃべっている。

4.両親はとても仲良しだった。喧嘩するところも今まで全く見た事が無い。

③学校に行けば友だちがいてワイワイ楽しく過ごせるし、勉強の息抜きにもなったから学校の方がよかった。

④家族と全く会話がなかったり喧嘩したりとかで、家にいて心が休まらない人は荒れるんじゃないか。あとは自分以外の家族の仲が悪かったりとか。自分の両親は仲がいいから分からないが、これでもし毎日夫婦喧嘩していたら聞いてるこっちのメンタルがぼろぼろになったりしそう。

[3人目 C]

①両親と3つ上の姉、母方の祖父母の3世代同居6人家族

②1.帰ったらリビングで大学の受験勉強をしている姉と一緒に勉強していた。週2日で塾に通っていたので、その日は帰ったらすぐ塾に向かっていた。

2.両親が共働きで朝早く夜遅いので祖父母と姉と4人で食べることが多かった。塾がある日は終わってから1人で食べていた。休日はみんなで食べていた。

3.両親とは家でもあまり顔を合わせないので全く話してなかった。祖父母はそれを気にしてかよく学校のことや勉強のことを聞いてきたり、よくリンゴを剥いたりしてくれた。姉とはお互い勉強の邪魔をしないように、あまり話さないようにしていた。

4.両親は分からないが、祖父母の話を聞く限り仲は悪くなかったと思う。姉も祖父母とは仲がよかったが両親とはどうだったかよくわからない。

③どっちも同じくらい。

④一般的にどうかは分からないけど、自分の場合は両親と殆ど話さなかったことに関して不快というか、「なんでいつもいないんだ」っていう不満はあった。やっぱり家族はみんな揃ってこそ家族だし、自分の本当の居場所だと思うから、そこで負の感情とか生まれてはいけないと思う。

[4人目 D]

①母親と母方の祖父母の4人暮らし、父親は別居

②1.スポーツ推薦で高校が決まっていたため、クラブチームの練習がある日は学校から直接そちらに向かって練習、ない日は家でだらだら過ごしていた。

2.クラブチームの練習後は帰りが遅いので1人で食べていた。それ以外は大体家族全員で食べていた。

3.あまり家族とは話していなかった。だらだらしているところを母親に見られると「みんな受験勉強してるんだし、あんたも少しは勉強しとかないと高校から大変よ」と何度も言われた。

4.仲良しだったと思う。たまに祖父母が喧嘩してたけどすぐ仲直りしてた。

③友だちと話している方が楽しいので学校の方がよかった。家に帰ってもゴロゴロしてるだけで退屈だった。

④いじめなんてほんの些細なきっかけで始まっちゃうものだし、具体的にこれが関わってるとかは無い気がする。でもいじめをすること自体間違っているし、そこで倫理観とか人間性を持ち出すなら、育ってきた環境は関係してくると思う。

[5人目 E]

①両親と2つ下の妹の4人家族

②1.家に帰ったらすぐに塾に行って受験に備えて勉強していた。終わったら帰ってご飯食べて風呂に入ってまた勉強して寝てた。

2.朝は家を出るタイミングが近い妹と一緒に食べていた。夜は塾に行かない日曜日以外はいつも1人。

3.自分からはほとんど話はしていない。よく両親に「勉強はちゃんとしているのか」と言われたがそのたびにイライラしていた。

4.妹と両親は普通に仲良しだと思う。その様子すらあまり見ていなかったので実際は分からないが多分そう。

③学校の方がよかった。家にいても楽しいことが殆どなかったし、そもそも家にいる時間が短かった。

④人によると思う。ただ自分は親に勉強の心配をされることでストレスが溜まりまくっていたし、それを発散する場を求めていた節もあった。家にいる時間の方が短いというのは、誰であろうとあまり好ましいことではないのでは。

[6人目 F]

①両親と4つ下の弟の4人家族

②1.家では大体勉強、たまに息抜きでジョギングしに行っていた。両親の帰りが遅かったので、よく夕飯を作っていた。

2.朝も夜もだいたい弟と一緒に食べていた。テレビを見ながらだったりアニメやゲームの話をしながらだったり。両親は夜は遅めに食べていた。

3.弟とはご飯を食べるとき以外もたわいない話はよくしていた。両親とはあまり話していなかった。

4.両親と弟が話している様子もあまり見なかったため分からないが、喧嘩している様子はなかったから仲は悪くないはず

③どちらも同じくらいの居心地。あまり学校の友だちに好きな人はいなかったし、家に親がいないことが多いのは寂しかった。

④自分が本当にリラックス出来るのは家のはずだし、辛いことや嫌なことがあったらそれを聞いてくれるのが親、家族だと思う。その自分を守ってくれる環境が壊れてたら、どんどん自分もぼろぼろになっていく気がする。荒れた畑じゃ美味しい野菜は出来ないし、いい環境があってこそいい人間も育つと思う。

 

同級生へのインタビューを行った感想として、高校受験のための勉強で忙しかったことも要因だと思われるが、家族との会話が総じて少ないように感じられた。特にB、D、Eの3者の回答が顕著であり、ことEに関しては親からの言葉掛けにストレスすら感じていた。会話は人間関係を構築するにあたって必要なコミュニケーションツールのひとつであるが、その会話が最も心が落ち着く場であるはずの家庭で全く為されていない。あまつさえストレスすら感じてしまっては、とても心が落ち着く場とは言えないだろう。また、学校と家では、家の方が居心地がいいというような回答はなく、家で過ごすことに対してあまり肯定的なイメージがあるようには感じ取れなかった。確かに学校に行けば気心しれた友人が大勢いるかもしれないが、衣食住を全て行うのは紛れもなく自分の家であり、拠り所と言っても過言ではない。そうした場の居心地が良いとハッキリ言えない実状があったことも、やはり家庭環境として、彼らの心理に何らかの影響を与えていたものと考えることができる。家族構成も様々にあったが、この家族人数だからという因果関係ではなく、家庭内で日常的に接している人数や時間によるものが大きいのではないかと考える。

 

保護者に対して行ったインタビューでは、当時の同級生の様子について、また保護者から見て家庭の様子はどうだったかについて伺った。今回は、Aの母親とBの母親の2人に話を聞く事が出来たので、それぞれその内容をまとめる。

[Aの母親]

いつも塾で帰りが遅く、夕飯も1人で食べることばかりだったので寂しい思いをしていないか心配していた。しかし長男で、私にとっても子どもが受験と戦うのは初めてのことなので、ついついそのことばかり気にしてしまい、会話も勉強の内容ばかりになってしまっていた。自室に籠りっぱなしで彼から口を開いてくれることもあまりなかったので、母親である私が、もっと精神的にフォロー出来るような存在であるべきだったと後悔している。他の子どもたちはいつもと変わらない様子だったので、家庭内の様子としては平和だったと思っていた。本人が余裕がない中で、私自身が余裕を持って接してあげるべきだったと思い、次男や長女の受験のときには同じ過ちを繰り返さないようにした。もっと早くから、本人の立場に立って考えるべきだったと思う。

[Bの母親]

私自身受験を経験したことがないため、息子が受験勉強しっかり出来ているか毎日気がかりだった。本人もご飯を食べながら単語帳を見ていたり、風呂に暗記シートを持ち込んだりと、常に受験と睨めっこしていた状態だった。さすがにパンクしないか心配だったので何気ない話でもしてみようかと声をかけても、あまり聞く耳は持ってくれていない感じだった。家族3人が揃うことがあまりなかったため、まとまりのある家族という感じがしていなかった気がする。夫も息子の受験が心配でピリピリしている様子を時折見せていたため、そういう姿が息子によりプレッシャーをかけていたのではないかと思う部分もある。息子から口を開いてくれることはあまりなかったが、こっちから「見守ってるよ」という気持ちが伝わるようにもう少し出来ることがあったのではないかと反省している。

 

保護者にインタビューを行った感想として、受験に対して本人だけでなくやはり保護者も不安を抱くのだと分かり、そうした互いに緊迫するが故にゆとりの無い家庭環境が形成されてしまうのではないかと感じた。Bの母親は特に息子の様子を心配して様々な言葉かけをしたようだったが、これは環境的には非常に良い環境なのではないだろうか。しかしそれを感受出来るか否かによって心持ちも変わってしまうし、環境自体も変えてしまうのかもしれない。このインタビューで、家庭環境とは家族のみが形成するものではなく、その環境を感じる本人も形成の一員になっているのだと考えることが出来た。何度も繰り返している「家庭環境」という言葉だが、その定義等、今一度見直す必要性を確認することとなった。

秋学期以降、これらのインタビューを参考にしながら研究を進めると共に、必要に応じて更にインタビューを行っていきたい。

 

また、夏休み中に参考文献として『非行といじめの行動科学』(小田晋 著)を読んだ。その結果分かった内容を箇条で簡略化してまとめる。

・いじめや万引きなどの少年犯罪は、倫理による抑制が利かず、人間としての自然の情、即ち人間が生き物として本来持っている情動、欲望に従って引き起こされた犯罪である。

・アメリカの心理学者A・ベイリーの古態心理学によれば、攻撃行動は哺乳動物の種に内在する行為であり、攻撃すること自体に快感があるとされている。動物としての人間の本性の中には、他人を攻撃する仕組みが組み込まれている。

・生物学的に見れば、いじめは人間に本能としてある攻撃性の発現であり、いじめの加害者はそれを「遊び」即ち楽しみとして捉えている。

・人間には攻撃行動を中止させる仕組みのひとつとして、「同情」あるいは「愛」を備えている。

・アメリカの心理学社ボールビーによる「母親剥奪理論」では、幼児期に泣いても目で追っても母親が側にきてくれない状況で育った子どもは、成長しても対人関係がうまくとれなくなるとされている。故に子育てをする母親役は同一人物であることが望まれる。

・精神面での発達から見て、成長のプロセスにおいて重要だと思われる親の関わり方が、生物学的な生育のプログラムとして存在する。乳児期には「愛する」、幼児期には「しつける」、少年期には「教える」、思春期には「考えさせる」というものである。これにより子どもの望ましい成長を促すことになる。

・子どもの健全な成長のためには、子どもと実母との接触時間を長くすることが必要である。働くことと子育ての両立は、ただ乳児院を作ればいいという問題ではない。

「行動科学」という著書名から想像していた内容よりは、いくらか生物学に近いような内容だった。しかしそれは、人間の多様な行動はそうした既に本能的に刷り込まれているメカニズムに沿った部分もあることを認識する必要性を示唆している。昨年履修した乳幼児発達論の授業内でも、母親のスキンシップ等学んだ点があったので、それらの領域とも准えながら再度読み直しまとめることにしたい。

秋学期はこれまで行ったインタビューを参考にしながら、家族療法、行動心理学、社会心理学等の領域からまとめるべく、より多くの文献を読み進めることを主な活動指針として定めたい。また、学内でそれぞれの領域について扱っている教師の方々に、可能な限りお話を伺いたいと思う。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。