林外相のG20欠席 委員会の拘束も問題

 現在開催されているG20の外相会議に、日本の林外相が欠席したことが問題となっている。開催中の国会予算委員会への出席が理由だという。しかし、林外相の答弁が53秒だったことも、話題性を増大させているようだ。
 維新の会から、この欠席について問われると、岸田首相は、総合的判断から、外務副大臣を派遣するのが最適と判断したと、答弁している。野党からも批判が出ているというが、立憲民主党のホームページをみると、昨年からはっきりしていたG20の日程を十分考慮しなかったのか、という「日程調整のミス」という形での談話がだされている。共産党のホームページでは、この点についての見解は見当たらなかった。
 専門家も含めて、多様な見解がコメントされていたが、いくつか考えるべき点があるようだ。

 まず、国会の予算委員会には、全閣僚が出席することになっているようだ。だから、首相が国外にでているときには、予算委員会は開かれないはずである。この原則に例外が認められないと、やはり閣僚は、予算委員会開催中には、国際会議には出られないことになる。正確なところはわからないが、日本の国会審議では、閣僚の出席義務がかなりきつく課せられているようだ。アメリカなどは、例外的かも知れないが、三権分立がかなり明瞭なので、議会の審議に閣僚が出席することのほうが例外的である。そういうニュースはほとんど接しない。もちろん、行政府が法の制定を求めることは、通常のことだから、行政の側から説明にいくことはあるだろうが、議会は基本的に議会メンバーで審議を積み重ね、必要に応じて、出席を求めていく形だろう。
 
 しかし、日本は議院内閣制であり、かつ、大臣のほぼ全員は国会議員であり、民間人が大臣になることは、極めて珍しい。だから、閣僚も議会中心に動いていくような雰囲気がある。閣僚全員が出席義務を課せられている委員会は、予算委員会だけだが、他の委員会でも、関係閣僚は出席する。
 今回の件については、おそらく、維新の会を除く野党は、全閣僚の出席を求めたのではないだろうか。だから、泉立憲民主党代表も、日程調整がまずかったのではないか、という批判をしているだけで、G20に欠席したのは、日本の国際的評価を下げることになるという、多くの批判には同調していない。
 国際社会が、様々な問題の噴出で、どんどん対立が深まっているときに、国際社会において、しっかりと必要なことを実行していくことが求められているときに、国内事情、それも、必ずしも適切とはいえないしばりで、実行を阻害することは、日常的にマイナスであろう。国会の委員会運営について、見直す必要がある。
 そもそも、大臣の出席が大事だといっても、多くの大臣は、官僚の作文を読んでいるだけであることは、国民の多くが知っている。それなら、重要な国際会議に日本を代表して、出席し、国会で必要な答弁な副大臣なり、担当官僚が行なえばよい。また、その領域に深い理解をもっている民間人の活用をもっとすべきであろう。
 ついでだが、国会議員は、まったく出席しないことを公約にして、その通りにしている議員がいるが、国会議員こそ、国会に出席することが義務であって、出席を公然と拒否するならば、歳費等を受けられないようにすべきであろう。
 
 この件が問題になったとき、私は、京都議定書が議論されていたとき、京都でのCOPの会議を思い出した。日本で開催されている重要会議であり、京都議定書という、日本にはほとんどない「日本の地名が付された重要国際条約」が締結されようとしているのに、日本の多くの国会議員か、国会の委員会があるからという理由で、京都を去って、東京に戻ってしまったという「事件」だ。当時は、大きな話題になった。国会議員ですら、国際感覚が、この程度なのだ、と嘆く人が多かったのだが、現在でも、対して変わらないのかも知れない。要するに、国会議員の目が内向きなのである。
 
 第二の理由として言われているのが、邪推とも取れるが、ロシアと中国の外相が出席する場には、出たくなかったのではないか、という書き込みも多数ある。確かに、岸田首相が出席したインドネシアでのG20首脳会議には、プーチンは来なかったので、会議の正規メンバーとして、ロシアと中国が揃って出席する場には、まだ岸田内閣の閣僚は出席していない。特に、林外相は、中国派として知られているので、本心出席したくなかったと考える人がいても、不思議ではない。しかし、そうは思いたくない。こうした局面で指導力を発揮すれば、当然政治家としての評価は高まるし、また、政治家として願ってもない状況のはずだ。それで林氏が意図的に回避したのだとしたら、時期首相はないと予想される。自民党内部からも、G20に出席しなかったことは、かなり強く批判がでているからだ。
 もちろん、真相はわからないし、おそらく当人たちの意図も、実は明確ではないのかも知れない。ただ、政治指導者は、国際社会において、しっかりとリーダーシップを発揮してほしいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です