春学期に行ったこと 「障害児のきょうだい児について」

私はゼミテーマ『環境としての人間』から、「特別支援教育」に関して、さらにその中の「きょうだい児」についてを自分のテーマとし、研究を行っている。

 

きょうだい児とは、障害を持った人物の兄、姉、弟、妹といった、障害児と兄弟関係にある人物のことを指す。まだまだ十分ではないとはいえ障害に関して理解が進み、障害者支援なども進んできている現代ではあるが、その支援の対象は主に障害者本人か、療育の中心である母親に焦点があてられており、そのきょうだいには目が向けられることが少ない。しかしながら、きょうだい児は一生のうちの大部分を障害者とともにすごさなければならないだろうし、きょうだい児特有の悩みや不安もあるだろうと考えられる。特別支援というとどうしても障害者本人のことを思い浮かべてしまいがちだが、その陰に隠れた人たちがどのように感じているかや、よりサポートしていくためはどのようなことができるか関心を抱いた。また私の知人の中にもきょうだい児が数人おり、そのほかにも部活動できょうだい児である児童と関わる機会もある。障害児が兄弟姉妹にいるという環境から受ける影響はどのようなものか知りたいと思い、またそういった人たちの理解につながると思ったためにこのテーマを選んだ。ほかにもきょうだい児支援を行うことで、家庭環境の改善につながり、障害者本人の環境の改善にもつながるとも考える。

 

春学期の間では主に参考になる文献を探し、またきょうだい児である人物3名にインタビューを行った。

まず以下に参考文献から得られたことをまとめる。

 

現在、障害児・者当人(以下、同胞と記す)の支援とともに家族の支援にも目が向けられている。しかしながら障害児・者の家族に関する研究は、母親の障害受容プロセスやストレス、負担についての研究が中心であり、障害児・者のきょうだいであることによる体験や、その影響に関する研究は少ない(三原.2000)。だが、そのきょうだいは障害を持つ同胞と人生の大半を過ごすという環境にある為に、その同胞から多大な影響を受けると考えられる。

きょうだいへの支援の必要性を最初に指摘したのは英国のHolt(1958)であり、わが国できょうだいに対する支援の必要性が指摘され始めたのは、1963年に設立された「全国心身障害者を持つ兄弟姉妹の会」が、1995年に名称を「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会を変更した翌年からであるとされる(柳澤.2007)。

この問題に関しては、同胞自身から受ける影響以外にも、同胞に手がかかるため両親(特に母親)と十分な関わりが持てないといったような親の対応による影響などがある。柳澤(2007)は、きょうだいが家族の中で時に親の代わりとなるような役割を求められ、親が障害児・者に対して抱いている感情やストレスのあり方が、きょうだいに影響することが多くあると指摘している。今井・佐野.2010)は、親が、きょうだいが感じている孤独感を認識することが必要であるとしている。

受ける影響として、肯定的影響のものと否定的影響のもの、両方があるだろう。例えば肯定的影響のものであれば、「障害のある人への理解が深まる」といったようなことや「忍耐力がつく」といったようなことが考えられる。反対に否定的影響のものであれば「将来に対する不安」や「介護負担」等考えられる。さらに、障害児・者の世話をするのが年下のきょうだいである場合には、そのことできょうだいの役割の逆転が生じてしまい、不適応を引き起こしやすくなることも指摘されている(Stoneman,Brody,Davis,Crapps,&Malone,1991)。

柳澤(2007)によると、きょうだいへの支援活動を支えているのは、国内外ともにまずあげられるのが、すでに成人となったきょうだいであり、それに加えて、障害児教育の教員、ソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、心理学や障害児教育学の専門家など多様な支援者が関わっており、また自発的な活動にとどまっている傾向にある。大瀧(2011)は、障害児・者をきょうだいにもつことの影響とその心理社会的発達について丁寧に捉えた研究が必要とされており、併せて、きょうだい自身のための支援とは何か、その充実を図るために求められることについて検討することが重要であると指摘している。

 

上記のことより、障害者のきょうだいは、障害者とともに生活する環境にいることで障害児のいない環境で育った児童とは少し違う心理社会的発達をしてきていると考えられる。また、障害者からの影響だけでなく、親からの影響も大きいということが示唆される。この環境で受ける影響は肯定的影響と否定的影響があり、障害者が身近にいるという環境が、一概に良い・悪いと言えるものではないことがわかる。他には、きょうだいへの支援活動をしているのは成人となったきょうだいが中心であり、いまだ支援は自活的な活動に留まっている。

 

 

次に、インタビューから得られたことをまとめる。

春学期のインタビューでは、上記にあるように3人のきょうだい児の方にご協力いただきお話を伺わせていただいた。協力者は筆者の大学の知人である。

1人目(Aさんとする)は弟が知的障害(県の分類では発達障害?)であり、現在はAさんが一人暮らしのため離れて暮らしている。女性。

2人目(Bさんとする)は妹がダウン症であり、現在もともに生活している。女性。

3人目(Cさんとする)は弟が自閉症であり、彼女も一人暮らしのため離れて暮らしている。女性。

 

インタビューで質問した内容を大まかにまとめると、

  1. 障害を持つ弟(妹)に対してどう思っているか。良かったなと思うこと、嫌だなと思うこと、困ったこと等
  2. 親と障害への考え方や理解について違いはあるか

3.親からの期待はあるか、親にこうして欲しかったとかはあるか

4.将来や結婚について

等聞かせていただいた。時間やその時の話の流れの都合上、インタビューをした相手によって聞いた内容は異なっている。

 

まず1.障害を持つ弟(妹)に対してどう思っているか。良かったなと思うこと、嫌だなと思うこと、困ったこと等についてだか、良かったことでは、許容範囲が広がることとか、他の障害者に対しても自分なりに理解できていることなどが挙げられた。また、AさんとCさんは現在特別支援の教諭をめざしそのための勉強をしているが、弟がそのきっかけになったと話していた。

嫌だなと思ったことでは、特にないという意見もあれば、その障害を持った兄弟の「お姉ちゃん」として家庭でも学校でも扱われることが苦痛であったという意見もあった。これはBさんの件だが、姉としてしっかりしていなければいけない、といったように、昔は気を張っていたという風に語っていた。他には、障害者に何か起きたときに行動ができない父親に対して不満を漏らす声もあった。障害者自身に対しての不満は、思ったことをそのまま言ってしまうことなどがあり、社会に出たときにやっていけるか危惧する声もあった。

 

  1. 親と障害への考え方や理解について違いはあるかでは、特にないという意見や考えたこともなかったという意見であった。他には、昔は親の意見がわからなかったけれど、最近ではそれも理解できるようになってきたという意見もあった。

 

  1. 親からの期待はあるか、親にこうして欲しかったとかはあるかについてだが、期待については特にされなかったという意見と、大変されたという意見に分かれた。期待をされなかったという意見では、親自身が、昔自分の親に期待されて嫌だったから好きなようにしなさいと言われる場合と、ただ単に期待されていない場合とがあった。また期待される場合では、障害を持った子にはどうしても限度があって、でもそうでないあなたは頑張ればそれだけ成果を出せるんだという様に期待されたと語っていた。特に勉強面での期待が大きかったという。

親にこうして欲しかったということについては、周りの人物が面倒を見てくれたから特になかったという意見もあれば、頑張っても障害を持った子が優先で見てくれないとか、苦労しているのは知っているので迷惑を掛けられないと感じていたという意見もあった。

 

  1. 将来や結婚についてでは、将来は自分が障害のある兄弟を面倒見ながら過ごすのも苦じゃないが親が施設とかに入れてもいいという風にいてくれているケースもあるが、まだ考えていないというケースもあった。結婚については、結婚した後一緒に暮らすのかどうかという問題や、理解のある人を見つけられるかどうかや、まずパートナーに障害のあるきょうだいのことを打ち明けられるかといった問題が挙げられた。打ち明けられるかという問題では、打ち明けたとして受け入れてもらえるかどうかが怖いという理由が挙げられていた。

 

上記のことより、インタビューとした人物の家庭環境や本人の気質、障害のあるきょうだいの特性などにより全く意見も多くあったが、障害児のきょうだいであるという環境から受ける影響について少し知ることができた。

 

 

以上が春学期の間に行ったことである。

秋学期の課題として、さらに文献を読み進めること、インタビューをより多くの人に行い、そこからきょうだいに対する支援の糸口を見つけること、きょうだい以外にも親、特に母親へのインタビューやアンケートの実施等を行いたいと考えている。

 

 

引用参考文献

・林隆(2008) 支援者の支援,発達障害研究 第30巻,第1号,30-38.

・今田真紗美・佐野秀樹(2010) 障害児・者のきょうだいが持つ感情のモデル化:感情のつながりに着目して 東京学芸大大学紀要.総合教育科学系.61(1):175-183.

・三原博光(2000) 障害者ときょうだい 学苑社

・大滝玲子(2012) 発達障害児・者のきょうだいに関する研究の概観 : きょうだいが担う役割の取得に注目して 東京大学大学院教育学研究科紀要. 51巻, 2012.3, pp. 235-243

・Stoneman,Z.Brody,G.H.Davis,C.H.Crapps,J.M&Malone,D.M,(1991)Ascribed role relations between children with mental retardation and their younger siblings. American Journal of Mental Retardation,95,537-550

・柳澤亜希子(2007) 障害児・者のきょうだいが抱える諸問題と支援のあり方 特殊教育学研究 45(1).13-23.2007

 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。