「タイパ」はZ世代の専売ではない

 「あなたも言ってない?「タイパ」重視のZ世代が嫌う、あの“おじさん常套句”」という記事があった。
 今の学生が、中高年おじさんの「自分の若いころは・・・・」という語りを時間の無駄だと思って嫌っているが、これは、若い世代、Z世代がタイパ意識が強くなっているからだ、という趣旨の文章である。非常にわかりにくい文章で、言いたいことが整理されていないが、面白いと思ったことがいくつかあった。
 
 「自分の若いころは・・・」という中高年の嘆きは、今に始まったことではなく、「近頃の若い者は・・・」というおじさんの愚痴は、エジプトの古代文書からも見つかったそうで、人類普遍の愚痴らしいから、Z世代と絡めるのは、適切とはいえない。タイパ意識も、Z世代特有のことではないはずである。
 「タイパ」とは、この文章で始めて知ったのだが、ストリーミングサービスなどで、ドラマを見るときに、倍速視聴をする若者が多く、若者は当然視しているが、おじさん世代は「そんなことでドラマをきちんと味わうことはできない」と批判が巻き起こり、論争になったのだそうだ。

 そういう整理に違和感を感じるのは、後期高齢者に今年中に手が届く私自身が、youtubeは、ほとんど1.5倍速でみているからだ。タイパなどという言葉は知らなかったが、かなり前から、実行していた。ドラマはほとんどみないので、情報収集のためのyoutubeだが、最近改めて見始めた鬼平犯科帳も、1.3倍速で見たが、別に問題があるとは感じなかった。むしろ、台詞の切迫感が強まった感じになって、悪くない。ひとつひとつの話は頭に入っているし、定型的なパターンがしっかりしているドラマだから、味わうというよりは、内容の確認てあり、倍速視聴は、目的に適っている。ずっと、この速度でみるつもりだ。もちろん、音楽は、youtubeでも標準速度で視聴している。倍速にしたら、まったく違う演奏になり、音の高さも変わってしまうからだ。
 
 こういう視聴をしているから、逆に現在の機器に大いに不満をもっている。私は、NHKのBSで放映されている国内外のドキュメンタリー番組を自動録音して、随時ブルーレイに焼いている。そして、暇なときに見るのだが、ディスクは倍速で見ることができない。ソニーのブルーレイ・レコーダーは、内蔵ハード・ディスクに録画されているものは、1.3倍速くらいで見ることができるのだが、ディスクに焼いてしまうと、それができなくなる。それで、ブルーレイディスクを倍速再生できる機種をずっと探しているのだが、どうも見当たらないのだ。量販店にいって、チェックしても、どれも倍速再生できるようには書いていないし、店員に聞いても判然としない。製品のホームページで確認するのだが、やはりはっきり可能と書いてある機種に出会ったことがない。購入して、実はできなかった、というのではこまるから、今のところ購入していない。
 要するに、ディスクを倍速で視聴する客というのは、ほとんどいないのだろう。若者が倍速視聴するといっても、ほとんどはyoutubeとかnetflixなどのストリーミングを利用しているから、ディスクをプレイヤーで視聴するなどということはないのだろう。音楽だって、CDで聴く若者は、あまりいなくなっているようだ。
 
 ところで、情報をたくさん扱う人は、スピードを重視するのは、昔からではないだろうか。本をたくさん読む人が、速読術を駆使するように、短時間でたくさんの情報を処理することができれば、他に秀でることができるとか、たくさん読めるとか、プラスになる。だから、古来情報処理のスピードを速くする技術を求めてきたのだ。決して、最近のことではない。コンピューターが重視されているのも、短時間に圧倒的な量の情報処理を行なえるからである。だから、倍速で視聴できる技術が開発され、それが多数活用されることは当たり前のことである。
 逆に、私からみれば、ストリーミングや内蔵ハードディスクでは可能な倍速機能が、なぜディスク再生ではできないのか、この方が大きな疑問である。それは技術的な問題ではなく、求める人の多寡であるにちがいない。倍速を欲するひとたちの多くが若者で、彼らはディスクをデッキで再生することなどしない、だから、デッキには求めないということに違いない。
 確かにこうした機器の進歩は速いのと、情報はじっくり処理してこそ正確である、というような点を重視するひとたちからすれば、倍速再生など邪道なのかも知れない。そういうひとたちは、倍速再生を活用しなければよいだけだ。欲するひともいるのだから、ぜひつけてほしいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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