「中1ギャップを軽減する学級づくり」ー春学期ー

1 はじめに 

私は昨年の人間科学基礎演習で「中学生の不登校」の実態を理解するため研究をしていたが以下のことが明らかになった。文部科学省による2011年度の「児童生徒の問題行動調査」では、「不登校の数は小学6年では7522人なのに対し、中学1年では2万1895人と約3倍に跳ね上がる。これが中3になると更に増え、4万人弱に達すると予測できる」と示されていた。また同様に平成22年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」では不登校になったきっかけに注目し、小学生では上位3位に「不安など情緒的混乱」、「無気力」、「親子関係をめぐる問題」が挙げられる。本人や家庭に関わる問題が多いのに対し、中学生では「不安など情緒的混乱」、「無気力」の他に「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が上位3位に含まれる。その他にも「学業の不振」や「教師との関係をめぐる問題」等も報告されている。よって、中学生になると学校に関する問題が不登校と関係していることから、不登校とは特定の子ども達に特定の問題があって起こるのではなく、どの子供にも起こる可能性があるものとして注目しなければならないのではないか。同様に子ども達の小学校から中学校への環境変化に対する不安・悩みを理解し迅速に対処することで生徒がより快適に学校生活を送ることや不登校・いじめを未然に防ぐことが可能となるのではないか。

 

2 研究の動機 

そこで今回は「中1ギャップ」に視点を当て、その特徴や学生の心理に理解を深めることでよりよい学級づくりを考察していきたい。「中1ギャップ」とは小学生が新中1生となった際に学校生活や授業のやり方が今までとまったく違うため、新しい環境になじめないことから不登校となったり、いじめが急増したりするなど、様々な問題が出てくる現象のことである(Benesse教育サイトより参照)。学級担任制から教科担任制への移行に伴う学習面でのつまずき、部活動が始まることによる生活リズムの変化や先輩後輩といった上下関係の難しさが原因となってくるのではないか。その他にも心身共に成長する子ども自身のとまどい、違う学校から集まってきた子ども達との間で為される友人関係の不安等も挙げられる。このような新しい環境のもとで学校生活を送る子ども達は不安や悩みを抱え、大きなギャップに苦しんでいると考えられる。このような多様な生徒に対して柔軟に対応が行き届いていない現代の学校教育に問題がある。そのため、このような問題に対して教員は個に応じてどのような支援が求められるのか、また教師の働きかけにより学級全体でどう改善していくべきか考える必要がある。今回は、友人関係・学習面・部活動の3点に絞って研究していこうと思う。

 

 

3 研究方法 

中1ギャップをテーマとして調べるにあたり、主に大学生(10人前後)を対象に当時を振り返ってもらいインタビュー調査をしたいと考えている。インタビューの内容としては、「中1ギャップを感じていたか否か」、「原因は何か(友人関係・学習・部活動等)」、「どのようなクラス環境を望んでいたか」等を伺いたいと思う。また今年度中学へ入学した知人の子どもも数人いるため今の学級の印象についても話を聞きたいと思う。可能であれば母校の中学校の教員にも調査を協力してもらい、対応策や考えを伺いしたいとも思う。他にも現代における教育の問題や青少年の心理を扱うため2000年以降の文献を対象とし研究を進めていく。

 

※現在の状況 

春学期においては『教室内カースト』(鈴木翔 公文社2013,4,5)と『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ 集英社 2012,4,25)の2つの文献を中心に扱い、グループで現代における小中学生の友人関係を討論して情報を共有した。以下は、中学生の友人関係についてまとめたものである。クラス内の友人関係を理解するためスクールカーストを取り上げた。鈴木翔の『教室内カースト』の文献と映画『桐島、部活やめるってよ』から次のことがわかった。先ず始めに生徒間の格差は、体育会系部活が上位に、文化部系部活は下位に位置することである。映画ではバレー部が上位のカーストとして取り上げられ、グループ内の討論でも野球部やサッカー部、バスケ部等といった体育会系の部活が上位であり、結果を残している部活であることがわかった。(しかし吹奏部といった文化部系部活動の方が上位に位置する場合も考えられるため、部活動だけで判断するのではなくその学校の特徴も踏まえることが必要である。)次に、部活以外にもイケメンや運動のできる者・面白い者は上位カーストで、地味で目立たない者は下位カーストを占めることがわかった。つまり中学生の人間関係には外見やその人が持つ雰囲気・キャラクターが非常に重要であることが伺える。ある女子のトップグループ(カースト上位)は制服に着方や髪型、持ち物、歩き方、喋り方等見た目から一瞬でわかる。また学生はその格差(カースト)を前提にコミュニケーションをとり、カーストが上位な者同士・下位な者同士でまとまる。このようにして上位の物と下位の者が直接的にコミュニケーションをとっている様子はみられないことも特徴的だ。最後に、カースト上位の者は学校生活を生き生きと過ごし、下位の者は対抗心自体はあるが直接的に言えず葛藤を抱えるとされている。しかし実際は下位の者は勿論上位の者も不満やコンプレックスを感じているため、同じ学校生活や出来事でも学生一人一人によって見え方も感じ方も異なることがわかる。

これらのことから学生は容姿や対人能力、ファッションセンス、運動能力、学力等で学校内における身分が決まってしまうことがわかった。また各登場人物はそれぞれ悩みを抱え、友人にさえも隠したまま互いに表面的に関わることも伺えた。このスクールカーストという考え方は中学生にも当てはまり、中1の時点である程度一人一人の立ち位置が確立してしまうのではないか。つまり中1の第一印象や入部した部活動によって友人関係や学級内での役割が決まってしまうと考える。小学校には存在しなかった人気ヒエラルキーに加え中学校での生活の変化や学習面での悩みを一気に抱え込むことで「中1ギャップ」をひきおこしてしまうと予測できる。

 

以上が春学期に行ったことである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。