教師の休暇 アイドルの公演をみにいくことは?

 教師たちが、過重労働を強いられているというとき、労働時間や労働内容の過重であることももちろんだが、休みをとりたいときにとれないことも、過重労働感を増幅しているといえる。教師は、子どもの授業を絶対に休んではならないというような感覚があり、それが、休みをとることを躊躇させる。
 もちろん教師にも、法律で定められた「有給休暇」が認められているが、それを自由に、法律通りに取得できる学校は、まずないといえるだろう。文科省ですら、教師の過重労働を軽減するための一方策として、有給休暇を夏休みに集中的にとらせて、労働時間と休暇の辻褄をあわせ、その分、学期中の労働量を増やすような政策を打ち出している。普段の労働は、少しも改善しないにもかかわらず、別にとる必要がない時期に、有給休暇をとらせて、ちゃんと休みがとれているという、はっきりいえば、ごまかしの政策である。

 
 松尾英明氏が「教員が「アイドルのコンサートに行くので授業を休みます」はありか…現役小学校教員の痛快な答え」という文章を載せた。(URLは文末)確かに、痛快な文章である。松尾氏の主張は以下の通りだ。
・家の都合で学校を休ませる。例えば、旅行に行くなど。授業が遅れた分、補充してくれなどと言わず、家庭で責任をもって補うということであれば、認めるべき。
・学校の「皆勤文化」(松尾氏がその言葉を使っているわけではない)は、見直すべきであり、インフルエンザやコロナにかかると「出席停止」となり、欠席扱いにならない。体調が悪いときに、皆勤賞をとるために無理して出席するなどは、まわりに迷惑をかけることすらある。コロナで休んでも、皆勤となる現在、皆勤にそれほど価値があるとはいえない。
・教師が休むことは。例えばアイドルの公演を見にいくために。それを「迷惑」と考えるのではなく、年休とって自習させることを許容するような意識改革が必要。
・学校も保護者は、「休み」に寛容になるべき。
 
 3番目以外は、すべて松尾氏に賛成である。3番が全面的には賛成できないのは、体制づくりに関して、意見が異なるからであって、教師が自由に休める体制にすることは、賛成であるだけではなく、必要不可欠である。
 一般企業でも、正当な使用が認められていない場合も少なくないようだが、有給休暇は、理由の如何を問わないのであって、厳密にいえば、休暇をとる理由を尋ねることすら、不当な圧力なのである。学校では、企業よりも更に有給休暇をとることは、極めて難しいし、教師自身が、自由にとるべきものではないと考える傾向がある。それは、子どもに対する義務を放棄することになるからである。現状では、教師が、アイドルの公演を見にいくために、有給休暇をとって、授業を行わなければ、子どもの教育を受ける権利を侵害することになる。だからといって、有給休暇を自由にとれないのは、教師の場合には仕方ないと考えるのは、行政の責任を放棄していることに他ならない。どうすればよいか。それは簡単である。
 休暇をとる教師の代替授業を行う教師を、行政が確保しておくことである。アイドル公演といえば、問題が極端になって、反発する人もいるだろうが、コロナに罹患したら、強制的に休まされるのである。それは子どもと同じだ。その場合には、代替教員が必要になることは明らかである。産休に入る教師がいれば、産休代替教師が配属される。病欠についても、きちんと対応すべきであるのに、自習や空きの教師が対応するような体制にしている。それは行政の怠慢というべきだ。病欠は、比較的頻繁にあるはずだから、十分な代替教師が地区に配置されていれば、安心して病気で休める。そして、その延長で、自由な年休をとることができるのである。
 休みをとることを、「怠け」のように考えるのは、教育的に間違っている。教師に限らず、あらゆる仕事をする人にとって、リフレッシュは仕事を効果的に遂行する上で、必要な条件なのである。休みもとらず、ずっと過重労働を強いられた上での授業を受けるより、リフレッシュしてきた教師の授業を受けたほうが、子どもにとっても明らかによい授業を受けたという感覚になるだろう。そして、とりたい休暇をとることができ、そのために、アイドルの公演を見ることができたならば、多少の過重労働でも、積極的に取り組めるようになる。
 
 大人の休暇の取得については、以前オランダのことがよく話題になった。日本企業のオランダ支店に、支店長として日本人が赴任して、ほぼすべての支店長が驚くのは、オランダ人雇用者の休暇申請の理由だという。それは、子どもの誕生日だから休む、というものだ。日本では、勤め人が、子どもの誕生日を理由に休暇をとるなどということは、ほとんど考えられないからショックを受けるわけだ。しかし、オランダでは、それは当たり前のことになっている。とにかく、誕生日を盛大に祝うのが、オランダ文化なのである。仕事を休むことなど当然という雰囲気だ。
 もちろん、それが正常なあり方だなどというつもりはない。しかし、オランダでは、過重労働で精神疾患を患うような人は、非常にめずらしいことはじじつである。もちろん、誕生日以外でも、正当な有給休暇を取得することに、とやかくいうことはないだろう。他人の価値観に対しては、非常に寛容な社会だから。教師がアイドルの公演にいくために休暇をとるというのも、ひとつの価値観である。また、それは、決して授業のためにマイナスなだけではない。
 教師にとって、もちろん、子どもにとっても、授業を安心して休めることは、教育にとって、不可欠のことである。そうした感覚を、教師も行政ももたなければならないと思う。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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