ウクライナは優勢なのか?

    ウクライナ情勢は、かなりの進展があり、一般的な報道では、おおげさではないが、ウクライナ側に勢いがあることを伝えている。ウクライナを応援するyoutubeでは、もっとウクライナ優勢が誇張されており、ロシア軍はどんどん崩壊しつつあるような主張だ。しかし、それは本当なのだろうか。
 他方では、以下のような記事もある。
 「国土割譲もやむなし、ウクライナに必要な早期和平協定」 横山恭三 2022.12.2
がそのひとつだ。
 表題の通り、欧米では停戦を望む声が大きくなっているというものだ。その理由として、横山氏は、ヨーロッパのウクライナ支援疲れと、バイデンのアルマゲドン発言(核戦争の危険)がアメリカ国民に恐怖感を与え、厭戦気分が生じているというのだ。

 ウクライナ支援疲れは、程度の差はあれ、事実だろう。欧米は、2月以来、莫大な費用をかけてウクライナを支援している。まだまだ戦争が続けば、やがてもう支援はできないという意識が、国民のなかに強くなることは避けられない。ゼレンスキーは、意図していなくても、支援側からみると、支援して当然、というような雰囲気を醸しだしていることもある。
 しかし、欧米からすれば、かなり疲れたとしても、ウクライナを支援せざるをえないと立場にある。ウクライナは、欧米からの支援なしに、ロシアと闘うことはできないのだから、欧米の支援がなくなることは、ウクライナの敗北を意味する。これは分かりきったことだ。そして、欧米の立場からすれは、ウクライナを敗北させ、ロシアを勝たせることは、絶対に避けなければならないと考えるだろう。これだけロシアに経済制裁を課し、ウクライナに武器援助を行い、そして、ロシアをテロ支援国家と認定し、更に、NATOは、ロシアを明確に敵国として認定した。これだけのことをやって、ロシアが勝利したら、西側の敗北感の大きさは、想像もできない。だから、痛み分けとしての停戦をめざすというのが、横山氏の見解となっている。
 ロシアは、最低ふたつの州、承認したことになっているふたつの共和国をロシア領として編入することを認めることで、妥協するのではないかという仮定の案である。もちろん、ウクライナは、それすら、認めないことを明確にしている。ウクライナに停戦を受け入れさせる条件として、西側が提供するのは、NATOの加盟承認というのだ。
 ただ、ウクライナとロシアが、それぞれ認めそうな条件になっているかといえば、私には、双方が拒否するような気がする。まず、ウクライナのNATO加盟は、そもそもロシアが戦争を始めた理由が、ウクライナのNATO加盟阻止だったはずだ。また、ウクライナにとっては、領土の割譲を認めることは、国民への裏切りとなると考えているだろう。
 
 更に、ウクライナにとって悲観的な見方としては、ロシアがウクライナを完全に滅ぼす可能性を指摘するものだ。
「プーチンの2段階作戦でウクライナ軍全滅の危険性も」 堀田佳男 2022.11.30
 この文章が依拠しているデータや見解は、アメリカの軍事専門家によるものだとしているが、第一段階は、徹底的にインフラを攻撃して、電気などの供給能力を奪う。つまり、電気のない生活をウクライナ全体に強制し、そして、第二段階として、50万以上の軍隊をウクライナに侵攻させて、ウクライナ軍を壊滅させるというわけだ。既に、ポーランドからの補給が不十分になっており、ウクライナは弱っているという認識がある。そして、ウクライナ軍を殲滅させるための武器なども十分にロシアは保持しているというのだ。
 
 youtubeなどで溢れているロシア軍の崩壊しつつある姿が正しいのか、上記ふたつのような、実際にはウクライナに不利な事態が進行しているのか。もちろん、どれが真実であるかは、現在では、誰にもわからないのだろう。そして、実際に政策決定をしているひとたちの思惑によっても、変わってくる。
 もし、バイデンが本気で、かつ早期にウクライナを勝利させようと思っているなら、それをかなりの程度で実行できるはずである。ロシア軍を徹底的に叩くことができる兵器を、早急に供給すればよい。射程の短いハイマースを提供しただけで、あれだけの戦況の変化を生んだのだから、射程の長いミサイルを発射可能にすれば、もっと多く戦況を変化させることができるし、戦闘機なども提供すれば、現在のロシア軍を追い込むことは可能だろう。
 そして、これまでのところ、プーチンの核の脅しに対して、思い止まらせる圧力をかけているのだから、同様な圧力で、ロシア軍を撤退させることもできるはずである。
 ウクライナ軍が窮地に陥ったら、そうした手段をとるかも知れないが、現在までのバイデンの姿勢は、ウクライナを有利にはさせるが、圧倒的にロシア軍を打ち負かせるような支援は控える、というように感じられる。
 
 もうひとつ気になっている点がある。ドニプロ川西岸にいるロシア軍への補給をたつために、補給路を爆撃して、ロシア軍を兵糧攻めにしていた。そして、撤退する場合、渡河地点に砲撃を加え、撤退するロシア軍を殲滅させるという作戦をたてていたはずである。しかし、兵糧攻めは、貫徹しなかったし、また、詳細はわからないが、かなりの数(2万とも言われる)西岸にいたロシア軍が撤退したとされている。無事に渡河させてしまったのだろうか。あるいは、ヘルソン住民を楯にされたので、砲撃できなかったのだろうか。
 とにかく、ウクライナ側の意図がくじかれたらしいことは、間違いない。つまり、うまくいけばかなりの戦果となった作戦を、遂行することかできなかったということだ。
 プーチンの運命も、状況を大きく変化させる。
 冷静に注目していきたい。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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