統一教会がテレビ局と出演の弁護士を名誉毀損で提訴した。何かオウムを彷彿とさせる動きだ。オウムは、青山弁護士という信者がいて、たくさんの訴訟を起こしていた。後に青山弁護士も逮捕されてしまったので、オウムが提訴するという案件は少なくなったが、それでも、住民登録や義務教育学校への入学を拒否されたときには、躊躇なく訴訟戦術をとり、けっこう勝訴していたことを忘れるべきではない。
しかし、今回の提訴は、かなり無理筋というべきだろう。
朝日新聞(2022.9.29)によると、提訴理由は
・信者に売春させていたと発言
・布教自体が違法と認定されたと発言
売春の件については、この記事では、「分派についての指摘だった」という説明を受けたが、分派のことなのか教団本体のことなの、わかりにくい表現だ」と主張したという。これは実に奇妙なやり取りだ。このやり取りが本当であれば、(つまり新聞社による恣意的な歪曲でなければ)教団は、事実上売春を認めていると解釈できる。そもそも、分派がやったのならば、教団本体は関係ない、責任を負わない、などといういいわけは通用しない。少なくとも分派が売春をやっていたのだとしたら、教団が売春をさせていたという発言は、なんら不自然ではない。分派だって教団ではないか。暴力団の下部がやっても、暴力団指導者たちの責任が問われることになっている。それと同じだろう。まして、そのように説明するのが、社会的名誉を毀損するなどということにはならない。もし、そういうことが通用するのなら、違法なことは、すべて下部組織や分派を作って、分派がやったことで、本体は関係ないといえることになる。
尤も、分派が対立的に分かれた団体であるとしたら、本体の責任はないといえるだろうが、それなら、記事の表現とは違うように受け取られる。
2番目も同じようなことがいえるだろう。信徒の個別の伝導行為が違法だと認定されていれば、それが教団にも責任があるわけで、先の暴力団の組長と下部の団員との関係と同じような関係になるだろう。個別の信徒の活動が違法だと、裁判で認定された以上、一般市民は、教団の活動の違法性と理解するのが普通であり、教団が、そうした活動をしている信徒に、厳しい処分をしたというのならば別だが、そうでない限り、個別の事例から教団の活動を解釈することは、自然なことだ。
ということで、私自身は、このような訴訟を弁護士たちは、徹底的に論破してほしいと思う。
ただし、統一教会が狙っているのは、テレビ局に対して、脅しをかけ、あまり放送するなという圧力をかけていることだろう。これに屈して、テレビ局が放送を控えるようになったら、事実上統一教会の圧力に屈したことになる。
もうひとつ考えねばならないことは、現時点では宗教法人は公益法人ということになっている。つまり、公の性質をもっているわけで、それは課税を免除されるという特権に結びついている。こうした公的性質をもった人や団体は、当然国民の批判を受けとめる必要がある。アメリカでは「公人」に対しては、表現の自由を最大限に認め、その裏返しとして、名誉毀損などの認定は最小限になっている。日本では、アメリカほどの原則が確立していないが、一般の私人への名誉毀損とはあきからに区別されている。公人は、多くの公費が提供され、社会への影響力が大きいが故に、社会からの監視も必要だからである。
そうした措置は、当然宗教法人に対しても適用される必要があるし、課税免除という特権を付与されている限り、宗教法人への監視、批判は許容されるべきである。よほど悪質な、事実に基づかない誹謗中傷でない限り、逆にいえば、事実と推定される合理的な理由があり、それを指摘することが公益に適う限り、名誉毀損などは成立させるべきではない。宗教法人は、当然のことながら発進力をもっているのだから、不当な批判と思われるものには、事実に基づいて反論すればよいのである。それを、統一教会のような巨大な、しかも、実際に反社会的な行為をしている宗教法人が、上記のようなことで裁判に訴えるなどということ自体が、厳しく批判される必要かある。