スポーツ庁が部活の地域移管を提言

 スポーツ庁の有識者会議が、中学の部活をとりあえず土日の分を地域に委託し、将来的には平日もそのようにするという報告をだした。悪いことではないが、不徹底だという感じがする。詳細はまだわからないし、また、実施の段階で変更があるだろうが、不徹底さを指摘しておきたい。
 
 記事としては、以下があるが、スポーツ庁のホームページには、詳細な議事録も掲載されている。
「中学校の部活動 休日はスポーツクラブで 3年間で“地域移行”提言を提出 少子化・教員負担で方針転換」https://news.yahoo.co.jp/articles/d919aeda0e3247ad84c2cdf241a096b51082801f
 報道によって、提言を整理しておくと
・3年かけて休日の部活を地域に移行する。
・その後平日も移行していく。
 その理由は
・少子化の影響で、中学校だけで、運動部の活動を維持していくのは困難
・教員の負担増と教員不足の深刻化

 課題として
・保護者の指導料の負担がこれまではなかったが、今後指導料や会費の支払いがでてきて、困窮家庭にとって、大きな負担となる
・指導者の確保
 
 この間部活については、社会的にも大きな論議になっているから、スポーツ庁の会議の議事録をみても、様々な論点について言及されている。また、当然利害関係もあるから、スムーズに運ぶかどうかはわからないが、地域移管ということは正しいし、できるだけ早く実行すべきであろう。
 
 まず、学校における部活という形を廃止することが肝要である。部活というスタイルは、これまで何度も書いてきたように、時代の要請に合わない。時代遅れのシステムなのだ。また、それに似た状況として、学校の体育も大きな変更が必要となってくる。
 基本的に、学校教育は、特に義務教育は、国民にとって共通に必要な能力や資質を形成するためにある。また、そうでなければならない。国民にとって共通ではない、つまり個々人によって当然違ってよい内容は、義務教育の対象からはずすべきなのである。その典型的な例がスポーツ、特に競技スポーツである。どのスポーツを好むか、あるいはスポーツそのものが好きではない者もいるわけだから、義務教育で、特定のスポーツを全員が学ぶことは、そもそも義務教育の趣旨に反するのである。だから、学校では、健康のための体力維持を目的とした体育を中心にすべきであって、競技スポーツは、社会のクラブに任せるのがよいのである。そうすれば、各人がやりたいスポーツを選んでクラブに入ればよい。また、同じスポーツをやる者にとっても、将来プロ選手になりたい者もいるだろうし、ただ楽しみとしてやりたい人もいるだろう。両者の練習方法は、かなり異なるはずである。ところが、部活は一種目一部活だから、そうした多様なレベルにあわせることができない。地域のクラブであれば、それを予め決めたり、あるいは複数のチームを形成することで対応できる。
 
 また、部活というシステムは、指導者の無償労働を前提にしていたという重大な問題があった。最近は、ごく一部に手当てを支給する場合もあるが、それは当然十分なものではない。日本社会は、「専門家を軽視する」風潮があると、私は常々思っているが、部活はその典型である。スポーツの指導は、専門的な仕事だと思うが、何も知らない教師が顧問になっていることが珍しくない。また、本来の業務ではないにもかかわらず、教師は、超過勤務手当てが支給されないために、無償労働が当たり前になっていた。
 つまり、適切な指導の保障がない、その代わり、指導費用も発生せず、指導しても無償だという、実に専門性無視のシステムなのである。そして、その結果、きちんとした指導に対して、当然支払うべき対価を払わない、無償で指導を受けて当然というような風潮を生み出していた。科学的な指導もできないから、精神主義的指導、しごきなどが横行することになっていた。また、どんなにひどい指導(体罰横行)になっていても、学校での活動だから、生徒はその部を辞めることも難しい。
 
 指導者の養成が今後必要となることは、当然のことだろう。大学にそうした課程が設置されたり、あるいは専門学校などが、人材養成をすることなるだろう。逆にいえば、これまでの部活では、指導者がいないまま、スポーツ指導が行われており、それがかなりの長い間放置されてきたことにもなる。科学的指導と、楽しくなる指導ができる指導者たちをたくさん養成してほしいものだ。
 
 部活でなくなれば、当然会費が発生し、困窮家庭ではこまることになるというのは、確かにそうだろう。ただ、社会教育の領域になり、当面は学校の施設を使うことになるだろうから、かなり低い料金設定にすることは可能だろう。実は部活だって、けっして無料なわけではなく、ユニフォームや道具は、当然自分で用意するのであり、部費をとることも珍しくはない。そういう意味では、これまでより高額の会費が求められることはないような気がする。そして、指導を受ける以上、ある程度の対価を払うことは、当然のことでもあり、補助などの制度をつくるべきではあるが、これまでのような無償で指導を受けるようなあり方は、改めるべきなのである。
 
 学校の施設を使って、そうしたクラブが練習をすることが多くなると思うので、学校の管理体制と地域クラブが使うときの、学校施設の管理システムを、変更する必要がある。地域クラブが使う時間帯の、部分的管理は、社会教育関係で行い、校長や教師が関与しないようにする必要がある。結局部活を廃止したのに、管理労働が残ったというようになってしまう。
 もちろん、将来的には、地域のなかに体育施設が建設されて、そこで地域クラブや、大人も活用でき、昼間は学校の体育の授業をするような体制のほうが、望ましい。そうすると、学校を卒業して、スポーツを縁がなくなるような、日本の大人のスポーツの貧困が解決されることになる。そうすることによって、生涯スポーツの実現に可能になる。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です