卒業生インタビュー(鈴木静さん)2

イギリスで日本の幼稚園教育の講演 学問に目覚める

す そうなんです。でも活動だけはしていて、イギリスのジャパンソサイティから、日本の幼児教育についての講演をイギリスでしてほしいと言われてしてきました。ロンドンにあるジェントルマンズクラブのひとつのオリエンタルクラブというところで、日本の幼稚園や学校制度とか、認定子ども園の制度がスタートしていて、震災の年に、第一号でとったばかりだったので、エデゥケアについて、講演しました。イギリスでは幼稚園という概念がないんです。チャイルドケアというのはあるけど、キンダーガーデンはない。
お イギリスでは幼児学校だからね
す そうなんですよ。だから、ちゃんとケアはあっても、ナーサリはあっても、日本のような幼稚園の感覚はない。またそこで、論文のような文章を書いて、翻訳はジャパンソサイティでやってもらったんですけど、英語でスピーチをしたので、勉強したいという気持ちがますます強くなって、埼玉大学なら、車ででも行ける今年から修士の一年生です。いましごかれています。週3でいってます。
お テーマは
す 修論に関しては、「子ども暮らし」をメインにしています。幼稚園の保育って何かというと、子どもたちの生活なんです。普通、子どもに教える、自分たちは何かしなくてはいけないと思うんですけど、逆に私たちは、子どもたちの生活にはいっている一人なんだということを自覚する。「子ども暮らし」を知らないと、子どもと一緒に学ぶことはできないだろうということですね。保育指針などに書かれているんですけど、ぼんやりなんですよね。子どもによりそうってどういうことなんだ、ということがとても大切ですが、うちの先生たちは、毎日保育日誌を書いているので、それを分析することろから読み解いていく。保育者の「ねばならない」ではなく、それをどう打ち破るかということです。

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お 従来の保育理論との関連は。双方があるの、ねばならない派の理論だけがあるの
す ねばならない派の理論はないです。
お 感覚的にということ?
す 理論というか、
お 研究だと、先行研究とかを調べるけど。
す 先行研究を調べなさいとはいわれているんですけど、こういう保育の研究って、なかなかみつけづらくて、ランゲフェルトとかをみています。コルチャックとか。
でも、修論に関しての授業が一度もないんです。先生お忙しくて、付属の校長なんですよ。ずっと休講で、夏休みに時間をとってやろうということになっています。
お 子ども暮らしといえば、子どもをビデオに撮って研究するとかは。

牛乳プロジェクト

鈴 イギリスやフィンランドの子どもも撮って、比較するというのは、研究方法としてだしてはいます。プロジェクト活動という、うちの独自の教育法があるんですけど、子どもに寄り添う活動を考えていこうと思っていたので、研究の柱のひとつになります。私も関わっていた一昨年「牛乳プロジェクト」という大きなプロジェクトがあったんです。
お どういう活動?
鈴 不可思議なタイトルなんですけど、「なんで牛乳は白いんだろう」という疑問を子どもたちに、ぽんと投げかけて、2年間にわたって研究していく活動をしたんです。
お 幼稚園の子どもが研究するの?
鈴 はい。年少さんのときに、近くの聾学校にいって、牛さんと触れ合って、乳しぼりをしたんですが、「でてくる乳は白いね、その白い乳を牛さんは、飲んでいるね」というところから始まって、農業大学校が近くにあるので、牛さんのお世話をしている先生や学生さんから、牛はどうやって育つのかとか、どうやって食べるのかを教えてもらったり。でもそれで牛乳が白い理由が分かるわけでもないし、どうしようという先生たちの葛藤がそ生まれて、そのなかで、どうしようとなって、じゃ、白い飲み物他にないか、牛乳以外にないか探そう。そうすると、カルピスとか、飲むヨーグルトとか、いろいろでてきて、水となにかが混ざったものだよね、と子どもたちが気づいていく。それじゃ、水と何かが混ざったものがものかも知れない、それなら子どもたちは、作れるっていうから、じゃ、つくってみようということになる。白い牛乳をつくるために、水に何をいれたらいいだろうという実験をすることになり、塩、白い絵の具、牛乳、ヨーグルト、なんかをいろいろ実際に混ぜてみて、色を比較してみたけど、結局できなくて、どうしようということになった。とにかく、水と何かをまぜるんなら、牛乳を分離させたらどうなるのかってなって、分離実験が始まる。それも分離の仕方もわからないから、東大で、研究している虫博士が知り合いでいたんで、虫博士に聞いてみようということで、メール送ったら、レモンとかオスをいれて、あっためるといいかも知れないという。それをみんなでやって、一回失敗したんですけど、二回目には、分離させて白いものと半透明のものがでてきた。じゃこの白い固形の何かが白い素だね、というところにもっていって、子どもたちに食べてもらったんです。白いこれ何だったといったら、バターかチーズかも知れないという話で終わったんですけど。
お テーマを決めたときに、それを決めたひとたちはわかっていたの?
鈴 いないです。そこが、みそだったんです。わたしがテーマをだしたんですけど、わたしも知らないし、その知らないことが大事だったんですね。知っていると、どこかで、先生は教えてしまって、それにあわせてしまうんです。でも、知らないからこそ、子どもたちは、分離実験までいったんですよ。年中さんです。4、5歳で、そこまでいくのは、かなり驚異的だったです。なんでもかんでも、答えだしたがる先生はどうなのという問いかけをしたんです。最後に、虫博士は、答えがでなくていいんだよ、分からないことがいっぱいあるから、僕らみたいな研究者がいるんだよ、という言葉を、子どもたちに残してくれたんですね。これが牛乳プロジェクトです。これが修論の、子どもに寄り添うとか、子ども暮らしにはいっていくシンボル的な活動になります。
お でも、さっき幼稚園をまわったときに、けっこう教えているよね。そうでもないの。
鈴 結果的にそう見えるんですけど、実際には、うちの教育方針のなかで、先生は答えをいってはいけないんですよ。

子どもたちが自分たちで学ぶ生活

お たとえば、字を書くとか。教えることはたくさんあるでしょう?
鈴 ベースに関してはそうなんですけど。
お その区分、構造はどうなっているのかな?
鈴 書き方については、年長さんからは教えていますけど、実際にその前に子どもたちは、字を書けるようになっているんですね。調べるときに、「書いて」と言うと、子どもたちの経験のなかで文字に触れているんですよ。シンボルとしてできているんです。だから読むことはできる。先生がやるのは、この文章を書くときに、こうやって書くんだよといって、見せるのではなく、あいうえおの五十音順の一覧をラミネーかけたカードをいくつか置いて、あと書いてというだけでやっているので、ワークシートのようなもので教えることはやっていないです。
お なるほど。
鈴 5歳からやるのは、書き順なんです。小学校にあがるときに、書き順を知っていることが必要なので。
お 家で教えるとかは。
鈴 それは、そこの家庭までみていないんですけど、絵本を読んだりとか、本との触れ合いとか、ちょっとしたサポートで、子どもたちが拾っていくという形はあると思います。生活のルールはこうしなさいと教えますけど、活動に関しては、答えをだしたり、こうだからというのは、ベースとしてないです。
お 知識としては?
鈴 臨機応変にはなるでしょうけど、ベースないです。何かをしているときに、先生がここは必要だと考えたら、子どもたちにその答えを導き出すために、話し合いをしてもらいます。こども同士で、子ども会議という形なんですけど。
お 会議らしくなるの?
鈴 はい。この前ビデオを撮って発表させていただいたんですけど、一対一、二人一組、三人一組になって、話し合いをしてもらうというのも、年中さんからやれるようになっています。年少は2学期くらいからできるようになるので、徐々にやっているんですけど、その答えを、導きだすように、先生がストーリーづくりとか、環境づくりというようなベース作りをして、先生がこうとダイレクトに言うのではなく、そこにもっていくために、先生がまわりから、外堀から埋めていくという方式でやっています。たまに、それが思ったようにいかないこともあります、でも、いかないから、先生が「こっち」というのではなく、いかなかったことを逆に楽しめるように、先生たちには、園長が指導しているので、別のことで盛り上がるように、こっちでいこうという感じでやっています。
お 先生もけっこう勉強が必要だよね。
鈴 はい。園内研究と、日々の職員会議です。
お 頻度と時間は?
鈴 園内研修は、園長の忙しさにもよるんですけど、年間で4、5回くらいで、職員会議は週1です。そのときには、各クラスの気になる子の状況とか、現在のクラスの状況を報告しあって、お互いに分析しあって討論をやっているので、それも研修みたいなものです。この間は、一年目の先生のだめなところを書きなさいって言って、一年目の先生には、なりたい理想の先生を書きなさいって言って、メモ書き書かせたんです。一年目これがだめ、これがだめ、読み上げて、それを分析するという、過酷なことをやっていました。
お 当人は?
鈴 何人かは、泣いていましたけど、なあなあでいくよりは、ここはできていないから、こうしてほしいという積極的なアドバイスとか、自分ならどうするというような分析もあるので、恨みつらみがあったりはしないですね。逆にそこからリセットされていく。ハードみたいですけど、そのあとすっきり、脱落者もなく、一般的には、そういうことをやると脱落する先生も多いかも知れないんですけど、うちでは、何か逆に明るくやっています。園長がうまくコントロールしてまわしたなって感じですけど。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。