都民ファーストが罰則付きコロナ対策を発表 効果は疑問

産経新聞2020.10.27に「ルール違反の感染拡大には過料!都民ファの新型コロナ都条例案が波紋」という記事が出ている。都民ファーストの会が、療養中の感染者が外出して感染を拡大させた場合などに金銭的な罰則を科す都条例案を都議会に提出する準備をしているという内容だ。罰則の対象とするのは
・陽性者が就業制限・外出自粛に従わず一定人数以上に感染させた場合
・事業者が特別措置法に基づく休業要請・時短要請に従わず業界の感染対策ガイドラインを守らずに一定人数以上に感染させた場合
・感染がうたがわれる人に対する検査命令を創設し、正当な理由なく命令を拒否した場合
ということだ。都は、10月に、「外出しないことを求めることを可能にする」条例を可決したが、罰則がないので、罰則を盛り込んで実効性をもたせたいという意向だとされている。
 他党の反応といえば、どうやらほとんどが反対のようだ。
 「誰が原因で感染したか特定できないし、罰則を設けるのは無理ではないか」(共産党)
 「首都圏からの出入りが激しい都内だけで協力要請に従わない人に罰則を設けるのはおかしい。議論する必要もない」(自民党)
 都民ファーストと協力関係にある公明党からも疑問が出ているということだ。パブリクコメントを都が求めたところ、賛否両方の意見が多数寄せられたとされる。

 この問題は様々に議論されてきたことだ。ヨーロッパでは、罰則付きの外出禁止令が出されていたし、再び部分的ではあるが、出されている都市もある。スペインでは、来年5月まで夜間の外出禁止令がだされたそうだ。また、ヨーロッパでは、店に対しても、罰則付き、かつ保障付きの閉店命令などもだされていた。こうした措置が日本ではできないので、それをなんとか可能にするための法律あるいは条例をつくるべきだという意見が一方であり、それは個人の権利を制限するし、また、罰則付きの法令にしなくても、日本人はかなりの程度自粛するから、不要だという意見も強い。
 また別の側面として、感染者が他人に感染させた場合の罰や損害賠償なども、検討されてきた。発症者がわざわざ密な店にいって、俺は感染者だと叫びつつ、歩き回るという事件が愛知県であり、さすがにその場合、刑事罰や損害賠償(感染させられた被害者)が必要ではないかという意見が多くだされたように思う。この事例がどのように処理されたかは、正確にはわからないが、判例上は、最高裁の判例があるので有罪になるはずである。自分が感染症であることを自覚していることと、実際に相手に感染させたことが有罪の条件であるが、愛知の場合は、実際にその店にいて、濃厚接触したひとが感染したら、当然損害賠償を認められるし、また、刑事罰を課せられる。
 とするならば、上の条例案は、法的には可能な罰則の手続きを迅速にできるようにするという意図があるのだろうか。また、罰則付きの検査命令は、設置されたら新しい制度である。
 最高裁の判例は、あくまでも裁判になった場合が想定されるから、警察が捜査して、検察が起訴しなければならない。しかし、それではあまりに煩雑であり、実効性が伴わない。交通ルールの違反を、現場で警官が見つけて、手続きすれば、その場で罰金を科すことができる。そのような措置を可能にすることを意図していると解釈できる。ただし、記事を読む限りは、感染させられたひとが出たときだから、感染経路を特定するという、かなり面倒な手間がかかることになる。従って、手続きを簡略化するという目的からすれば、若干ましになる程度ではないだろうか。もし、本当に、実効性をあげ、かつ、比較的簡略に処理できるようにするためには、「一定数以上に感染させた場合」というのを除く必要があるだろう。つまり、「陽性者が、就業制限・自粛制限に従わずに外出した」だけで、罰金を科すことができるようにするわけである。ヨーロッパで行っている制限措置は、もっと厳しいものだ。陽性者ではなくても、とにかく、外出したら罰金なのだから。それなら、警察が見回って、見つけたら尋問して、罰金を科すことができるから、効果はあがるかも知れない。

 検査命令はどうだろうか。
 検査を拒否した者に、罰金を科して、罰金を払ったら放免するのだろうか。それなら、罰金の意味がない。拘束するという規定は盛り込まないし、また、検査を強制することは難しいだろう。無理矢理押さえつけて、鼻に綿棒をつっこむのだろうか。検査は、本当に必要なら、やはり説得以外にはないように思われる。もちろん、規則上義務としても、日本によくある倫理規定のようなものにせざるをえないのではないだろうか。
 では、感染させた場合の罰則案をどう考えるべきか。
 これは、感染経路を特定する作業が必要で、かつ厳密でなければならないから、事実上コストパフォーマンスが悪いだろうし、あまり効果があるとは思えない。そもそも、外出してはいけない、就業してはいけないというルールの下での違反行為をするのだから、そのこと自体を罰する、罰金を科すということで、論理的には成立するし、するならば、違反行為自体を対象にすべきだろう。つまり、結果としての感染が起きたかどうかに関わりなく、就業制限・外出自粛に従わなかったことだけで罰するということだ。しかし、それは、おそらく日本人の国民性にあわないし、容認されないと、提案者自身が考えているに違いない。だから、より納得できるように、「感染者が出た場合」に限定したのではないだろうか。しかし、そうすれば、先述したように、明らかに、実効性のない規定になってしまう可能性が大である。つまり、こうした規定を設けることには、無理があるということではないだろうか。
 私自身、自粛等については、日本人特有の「同調圧力」があるので、罰則など設定しなくても、ほとんどの場合は、行政が自粛要請をだせば、自粛がなされると思う。むしろ、自粛警察などのほうがより大きな問題をもっている。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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