川村学園女子大閉学の可能性

 川村学園女子大が、医療創生大学に譲渡する協議を始めたと報道されている。川村学園女子大は、千葉県の我孫子市と東京豊島区にキャンパスがあるが、すでに教育学部は募集を停止しており、文学部と生活創造学部、大学院人文科学研究科が残っている。そして、譲渡が実現すると、残っている教育学部の全学生が卒業した段階で閉学するということだ。残った学部や研究科がどうなるのかは、協議の対象となるのだろう。
 少子化の進展によって、高校の閉鎖は既に以前から進行しており、大学もじわじわと閉学に追い込まれたり、あるいは合併することで生き残りをはかっている大学が話題になっている。youtubeでは、危ない大学などのランキングを提示するところがけっこうあるが、川村学園女子大は、常に名前があがっている大学だった。したがって、このニュースに驚きはないのだが、やはり、大学に務めていた人間としては、考えさせられる事態だ。

 豊島キャンパスについてはほとんど知らないが、我孫子キャンパスは、何度もその前を車でとおったことがある。校舎は立派だし、田園地帯にあるので、純粋に教育的環境はとてもいいところだ。しかし、学生が求める環境が充分かといえば、ここに通いたいと思う女子学生は、あまりいないのではないかといつも感じていた。なにしろまわりはほぼ畑で、住宅はあるが、商業施設はすぐにいける場所にはない。また、駅からも近いとはいえないし、駅そのものが、かなり小さな駅だ。常磐線沿線では、取手、我孫子、柏、松戸などが、それなりの商業施設のある市街地だが、それらに比較して、小さな市街地だ。
 大学は、高度成長期のあと、東京以外のキャンパスをもとめて、首都圏に新キャンパスをつくったり、また移転したりしたが、少子化が顕著になると、学生は東京か地元志向となり、その圏外である首都圏の大学は厳しい状況になった。それは現在でも続いており、今後ますます経営破綻する大学が出てくることは間違いない。おそらく、大学人は誰でもそのことを認識しているといえる。
 問題は、どうやれば学生がきてくれるのか、名案がなかなかでないということなのだ。
 地元優先と東京流入には、理由があることなので、そこから外れる大学としては、受験生を集める手段は、そう簡単にでてこないのである。
 高校であれば、比較的とりやすい手段がある。野球やサッカーなどの人気スポーツの全国大会で優勝準優勝をして、全国的な知名度をあげる。あるいは、東大合格者などをだす。もちろん、そのために、いろいろな方法がある。優秀なスポーツ選手を集めるための奨学金や寮・施設を充実させる、そして、スカウト活動をする。甲子園に出場する野球部員は、こうして全国から集められた選手が多いことは、広く知られている。
 東大合格できるような偏差値の高い中学生にきてもらうにも、いろいろな方法があるようだ。私がかつて実際に聞いた話では、高校にとてもいけそうにないような低学力の生徒を数名とるかわりに、優秀な生徒を推薦で入るように、中学の進路指導担当と手配する。もちろん、その優秀な生徒は、授業料免除、特別進学クラスなどで、徹底した進学指導をするので、進んでそうした要請に応じる場合も少なくないわけである。そうして、特別進学クラスとスポーツクラスが、まったく別のクラスとして機能し、両方で成果をだすような高校がいくつかあるわけである。そして、そうした学校では、受験生の応募が確実に増えていくのである。
 だが、大学ではそれは極めてやりにくい。大学では、歴史的に、スポーツでも就職実績でも、だいたいは伝統的な大学、あるいはマンモス大学がそうした力をつけており、地方や首都圏の小規模な大学では、高校のような対応を、新たにとることはほとんど不可能なのである。箱根駅伝に出場すると、大きな宣伝になるので、受験生が増えるといわれているが、それも簡単ではない。
 そうしたスポーツで知名度をあげるためには、有望選手を集めるために、かなりの資金が必要となる。そもそも経営の苦しい大学に、そのようなことは不可能に近い。
 では、卒業生の実績づくりという点ではどうか。就職実績ということになるだろうが、大学ではそれも難しい。それまで実績のなかった高校から東大合格者が1名でもでれば、その地域ではかなりの話題になり、受験生へのアピールとなるだろうが、そうした話題となる対象そのものが、大学卒業生の場合にはないといえる。国家公務員のⅠ種に合格者をだしたからといって、それが受験生への大きなアピールになるとも思えない。大量にだせばアピールになるだろうが、そうした大学は既に確固たる地位を確立していて、存亡の危機にある大学ではない。

 結局、一発で効果があるような方法は、ないと考えたほうがよさそうだ。社会の変化に即した教育内容の変更と、丁寧な授業をすることによる学生の満足度を高め、学生から発せられる高評価が少しずつ後輩たちに浸透していくというのが、まずは実行すべき努力なのだろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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