春学期の調査まとめ「インクルーシブ教育」

春学期行った調査のまとめ

 

1.はじめに

今年度のゼミの共通テーマは「環境としての人間」というものである。まず、環境について考える。環境は、生物を取り巻く家庭・社会・自然などの外的な事の総体であり、狭義においてはその中で人や生物に何らかの影響を与えるものだけを指す場合もある。特に限定しない場合、人間を中心とする生物に関するおおざっぱな環境のことである場合が多い。環境は我々を取り巻き、我々に対して存在するだけでなく、我々やその生活と関わって、安息や仕事の条件となる。では、人間に適した環境とはどのようなものなのだろうか。私は、特別支援教育の視点から、障害を持った児童が快適に過ごせる環境について考えたい。

私は現在特別支援学校の教員になることを目指している。私の弟は自閉症という発達障害であり、弟のような障害を持った子どもたちが楽しく充実した学校生活を過ごすためにできることはないか、と考えたことが教員を目指すきっかけとなった。さらに、障害をもった子どもたちが快適な学校生活を送るための環境を作る1つの方法として、私は「インクルーシブ教育」が望ましいと考える。インクルーシブ教育(訳:包容する教育)とは、人間の多様性の尊重等の強化や、障害者が精神的および身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者とない者が共に学ぶ仕組みのことだ。2012年に文部科学省の初等中等教育文科会から「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」が発表されており、以下のような考え方にもとづいて、特別支援教育を発展させる必要があるとされている。

  1. 医療、保健、福祉、労働等との連携を強化し、障害のある子どもの教育の充実を図ること。
  2. 障害のある子どもが、地域の同世代の子どもや人々の交流等により、可能な限り共に学ぶよう配慮すること。
  3. 次代を担う子どもに対し、学校において障害者理解を推進すること。

「インクルーシブ教育」について興味をもつきっかけとなったのは、あるデイサービス施設の合宿に参加したとき、施設の職員の方が健常の子どもと障害をもった子どもが生活をともにすると、障害をもつ子供は健常児の真似をして、生活力が上がると仰っていたのを聞いて、健常児も障害児も可能な限り関わる機会を増やしたほうがいいのではないか、と考えるようになったことだ。インクルージョン教育は今までに多く議論されてきたテーマであり、それだけメリットもデメリットも存在する。さきほどは、障害者側からのメリットを述べたが、健常児側からの視点でのメリットやデメリットも存在する。健常児と障害児が共に学校生活を過ごすことによって、健常児は障害に対して理解を深めることができ、思いやりや優しさが育つことが期待される。障害に対する偏見も減るのではないかと考えられる。逆に、障害児と生活を共にしたことによって差別的な考えが生まれてしまう児童もいる。障害児のお世話係りを任されたりなどしたことが負担になってしまい、障害に対して良い印象を持てなくなってしまったという例もある。

今までに述べたようにインクルーシブ教育は、メリット・デメリットが存在するため、良い結果だけを残すものではない。様々なメリット・デメリットを比較検討し、障害児・健常児にとって良いインクルーシブ教育の形とは何か、良い学校環境とは何かについて考え、研究していきたい。

 

2.インクルーシブ教育の成功例について

DINF(障碍者保健福祉研究情報システム)による国際調査から得られた重要な3つの所見。

インクルーシブ教育は有効であるが、その成功は依然としてその場限りのものである。

インクルーシブ教育は、重度の児童に対しても有効だ。親が子どもに期待を抱いて多様性を受容する教育や学校にアプローチしたとき、子どもが学校で個別のニーズと能力に応じた支援を受けるとき、教師が多様な生徒を指導できるようサポートされるとき、すべての子どもは学習し、成長することができる。多くの課題、問題がある中多くの事例がインクルーシブ教育の成功を実証してきた。しかし、学級および学校、地域社会、教育制度、そしてマクロな計画と政策が、インクルーシブ教育を全体的に推し進めるために一丸となって取り組んでいる例はごくわずかだ。「その場限り」というのは「事例だけ」という意味である。リソースや教育制度からの支援がないまま、インクルージョンを実現しようとする一人の教師や学校長の純然たる意志と献身によって達成されたものであることが多い。結果的に、必要な支援を受けながら普通教育を受けることができる障害児は少ない。

《成功例と言える事例》

◎武壮隆志・北村佳那子著「最重度・重複障害児 かなこちゃんの暮らし」明石書店

この本の中心人物である佳那子さんは、胎児期ウイルス感染による脳・脊髄膜炎の後遺症で、脳性まひ、小頭症、ノンレックス症候群(てんかん)などといった病名をあわせもっています。全面介助ですが、明るくおちゃめな女の子です。佳那子さんと触れ合うことを通じて子どもたちはいろいろなことを感じます。「障害って個性なんじゃないかなあ。」「障害っていう言葉がなくなったらいいのに。」「私は今まで障害についてよく理解しないまま差別していた。佳那子ちゃんと出会えてよかった。」「佳那子ちゃんへの見方を変えれば、佳那子ちゃんの気持ちも変わる。」「障害者だから、とか関係なく怒ったり笑ったり遊んだりするのが本当の友達」以上に述べたように佳那子さんに対するプラスの面での子どもたちの変化がわかります。きっと他の生徒には佳那子さんと接しても、障害に対してうまく関わりが持てない子もいるかと思います。しかし、障害に対して理解を深めた児童がいることも事実です。何と言っても、佳那子さん自身が通常学級での暮らしが充実していて楽しいということが本書から伝わってきます。読みやすいのでぜひ読んでみてください。

 

  1. ニュージーランドの障害児教育

ニュージーランドでは、特別な教育的ニーズのある子ども、健常の子どもなどすべての子どもたちが個人に適した環境で、ひとりひとりにあった教育を受けることを保障しようとしている。その結果、ニュージーランドにおいては、障害のある子どもたちの約96%が通常の学校で教育を受けており、インクルーシブ教育が進んでいる国の一つだといえる。(内訳 85%:通常学級、9%:特別学級と通常の学級、2%特別学級)ニュージーランドではSEN(Special Education Needs)のある子ども、健常な子どもなどすべての子どもたちが個人に適した環境下でひとりひとりにあった教育を受けることを保障しようとしている。ニュージーランド政府は、特別な教育的ニーズのある子どもたちに年間約283億円を投じている。このような政府によって保障された環境がひとりひとりの子どもたちが完全なインクルーシブ教育を受けることができる方向性を明示している。ニュージーランドのインクルーシブ教育は、障害のある子どもだけではなく、少数民族や、宗教的な違い、亡命者や難民、病弱の子どもたち、虐待を受けた子どもたち、他にも社会的に不利な立場にある子どもたちなど、非常に多様な背景にある子どもたちが置かれている不利な状況を改善することに焦点を当てているといえる。

 

 

4.理想的なインクルーシブ教育とは

まずは、インクルーシブ教育の定義について考える。先ほども述べたように、インクルーシブ教育とは、人間の多様性の尊重等の強化や、障害者が精神的および身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者とない者が共に学ぶ仕組みのことである。インクルーシブ教育は、多様性を尊重し、バリアを克服しようとする人々と社会にかかわるものである。機会均等の考えに基づいているが、単にみんなを等しく扱うものではなく、前もってある違いを補強するにすぎない。最大限にする等しい機会をもつようにすることだ。

定義が広いため、様々な教育システムをインクルーシブと称することができる。つまり、常に同じ学級で学習や学校生活をともにすることだけをインクルーシブとするのではなく、通級や交流も意味に含まれる。障害をもったこどもの中には、聴覚障害など、専門的に学習を行わなくてはならない場合などは通常学級で生活することは難しい。しかし、そのような場合でも、普段は聴覚障害に応じた特別な教育を受け、健常児との交流の時間を設けるなどの工夫が大切だと考える。

障害をもつ児童のような特別なニーズをもつ子どもへの支援だけではなく、「教師の目から隠れてしまいがちな子」「教師に要求が伝えられない消極的な子ども」もたくさんいるため、そのような子どもに対しての支援も考えたい。

インクルーシブ教育における効果の1つとして、子どもたち同士の助け合いが期待される。たとえば、机の配置がグループの形にするという考えである。これによって、友達同士の学習援助の機会が増える(アメリカに比べ日本は少ないといわれている)、支援者の役割の縮小にもつながる(フェードアウト論)、子ども同士をつないできく働きかけが重要。支援者に求められるなどの効果が得られると考える。

展望としては、障害をもった子ども、不登校など排除の圧力にさらされる子どもたいちが参加、達成、出席することが目標だといえる。

 

 

《参考》

・荒川 智「インクルーシブ教育入門」クリエイツかもがわ

・武壮隆志・北村佳那子著「最重度・重複障害児 かなこちゃんの暮らし」明石書店

・愛甲 悠二、池本喜代正「ニュージーランドにおけるインクルーシブ教育の支援体制及び基金に関する研究」宇都宮大学教育学部

 

〚秋学期の課題〛

・春学期は様々な現在あるインクルーシブ教育について調べたため、それを踏まえ理想的なインクルーシブ教育を追及し、どのような方法をとれば実現できるかを考える。

・小学校の先生方にインタビューを行う。