音楽の国際化3 平均律

 今回は、グッドールの5大発明のなかの「平均律」である。もっとも、平均律よりは、そこに至る無数ともいえる音楽家たちの苦闘が主題ともいえる。
 最初から余談になってしまうが、確かニュートンが、宇宙のことを理解するようになればなるほど、この宇宙は神が創造したものだという畏敬の念が強くなる、神の存在を意識せざるをえなくなる、と言っていた。しかし、音律の問題を考えると、とても神など存在するはずがないという意識になる。もし神が存在するとしたら、全知全能などとはほど遠い無能な存在か、あるいは能力があるのだとしたら、相当にいじの悪い存在だと思う。
 さて、音楽が民族文化の相違を超えて、同質性がかなりの程度あるのは、音が自然現象だからだということを前に述べた。この音律の問題こそ、自然現象であることの特質が出てくる。そして、音律の実践的・理論的発展があったのは、ヨーロッパだけであるが、理論に限っていえば、かなり広い世界で同じことが論じられていたのだそうだ。いろいろな書物に、これから紹介することと、ほとんど同じことが、中国の古い文献に既に出てくるそうである。では、何故、音律はクラシック音楽の専売特許のようになったのか、それを今回考えてみよう。
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何故クラシック音楽が国際化したのか(1)

私が担当している「国際教育論」という授業で、今年度始めて、「文化の国際化」を扱いました。昨年までは、ほとんど戦争やグローバリゼーション等の固いテーマばかりやっていたのですが、残り少ない勤務ということもあり、自分の趣味である音楽も、国際社会の重要な要素でもあり、扱ってみました。音楽に親しんではきましたが、これまで正確には知らなかったことを調べて、わかったことも多々ありました。
 その内容は、自分で作成している「教科書」にはないので、ここで、講義資料をもとに、文章化して掲載します。

 文化も国際化の重要なテーマである。文化は通常民族固有のものと理解されているが、実際には、ある特定の民族や国家で生まれた文化が、形をかえることはあっても、基本的に同じ文化が多民族や外国で盛んになることは、いくらでもある。しかし、すべての文化内容が国際化するわけではなく、むしろ少数が国際的に拡大していくといえる。

クラシック音楽とは何か
 芸術の国際化。音楽の国際化を考える。国際化している音楽の代表は、クラシック音楽である。
 ただし、ここでいうクラシック音楽とは、古い音楽というわけではなく、正確に記譜された音楽のことをいう。記譜されているから、後代に残るし、また、外国でも演奏される。例えば、ジャズは基本が即興演奏だから、その場で消えてしまう。すべてのジャズの音楽家がそうではないが、記譜するのは、ジャズとして邪道だいう。しかし、アメリカにガーシュインという作曲家が現れて、音楽のジャンルとしては明らかにジャズだが、それを記譜して出版した。私自身、市民オケで「パリのアメリカ人」という音楽を演奏したことがある。元々は映画音楽だが、そのなかの曲をつなげて、組曲としての「パリのアメリカ人」という曲を作った。楽譜があるから、世界中で演奏されている。これは、音楽の分類としてはジャズ音楽だが、記譜されて、正確に伝えられるからクラシック音楽である。だから、記譜された形で作曲されれば、それは、21世紀に作られてもクラシック音楽である。 “何故クラシック音楽が国際化したのか(1)” の続きを読む

クラウディオ・アバドのボックス

 2014年になくなったアバドは、現代最高の指揮者の一人であったし、私のもっとも好きな指揮者の一人だった。自分で勝った初めてのオペラのレコードが、アバドの「セビリアの理髪師」だったが、すべてとはいえないが、かなりのCDを所有している。交響曲ボックス、オペラボックス、ソニーのボックス、そしてDVDボックス(25枚組)である。新しく購入したオペラボックスとDVDボックスについて、感想を書いておきたい。

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