大学の教職課程で、現場出身教員採用枠義務化?

 最近、文科省は、教員養成に関して、矢継ぎ早に政策を繰り出している。教員採用試験の応募数が減少し、教員へのなり手が減っていて、更に現場では教師不足が深刻になっていることに、よほどあせっているのだろう。私は、20年以上前から、やがて日本も教師不足になると警告していたが、それは、文科省の政策が、どんどん教師への魅力を低下させているから、確実に教師不足になると予測できたわけだ。同様の見解をもつひとは、少なくなかった。今更というより、あせっている割には、基本的な政策転換ではなく、これまでの誤りを糊塗するようなことばかりだしていることに、失望してしまう。
 教職単位を2年で取得できるとか、教員免許をもたない社会人を採用できるようにする、などということを提起してきたが、そのようなことは、現在の制度でできることで、特に新しいことではない。教職の免許取得は、完全な単位制だから、単位が取得できれば、4年かける必要はなく、教職課程をおいている大学が、どのような履修を可能にするかによって、何年かけるかが決まるのであって、それも柔軟にしている大学もある。私が所属していた学部は、中高社会の免許取得が可能だったが、2年生から授業が始まるので、3年かかるし、予め登録しておかなければならないので、ほとんどの学生はそのルールに従っていたが、特別な理由で、3年からの登録も認めていたので、数名はそうした短縮期間で取得したと記憶する。それに、通信などでは、小学校免許でも2年で取得可能だ。

“大学の教職課程で、現場出身教員採用枠義務化?” の続きを読む

読書ノート『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎(筑摩新書)1

(投稿していたと思っていたら、なぜかされていなかった文章。21日にアップするはずだった原稿です。)
 ウェブに章ごとで、いくつか掲載されているのを読んで、全部読まねばと思い購入した。今半分のところだが、私も大学に勤めていたので、実に憂鬱になる話の連続だ。
 前半を読んだが、構成は、
・破壊される国公立大学
 ここでは京都大学、北海道大学、東京大学、下関市立大学が扱われている。
・私物化される私立大学
 山梨学院大学、札幌国際大学、追手門学院、上野学園大学、日本大学が出てくるが、リアルタイムで問題となった事例が多い。
・ハラスメントが止まらない
 追手門学院、山形大学、東北大学、宮崎大学が扱われているが、教師、学生両方の被害者が登場する。そのなかで、大学でここまでひどいことがあるのか、と思わせられたのが、宮崎大学での「セクハラ捏造」だ。

“読書ノート『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎(筑摩新書)1” の続きを読む

読書ノート『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎(筑摩新書)3

 最後に、最も大きな問題だといえるのが、大学教職員への天下りである。以前は、国立大学と私立大学は、職員のありかたが、公務員と私企業に似た相違があった。国立大学の職員は、文科省からの出向という形で、文科省から多数が派遣されていた。キャリアもノンキャリアもいた。また、文科省の出向としては、県や市(こちらは少なかったと思われるが)の教育委員会があった。しかし、現在では、国立大学は、成立形態が違って、「国立」ではないから、以前のように、配置変えのような感じでの出向は少なくなっているようだが、その代わり、天下りで幹部になるケースが増えている。しかも、国立大学から、独立法人に変化し、大学の管理職の選び方が変わってきたので、いきなり学長になったりするわけである。それまでは、学長の選出は、多くが教職員による選挙によっていた。しかし、原則選挙は廃止し、意向調査なるものをやったとしても、選出機関が最終的に決める方式になっている。すると、意向調査で学内の教授が最高点をとっても、選出機関が文科省からの天下りを学長に選出することが起こりうる。そして、実際に起こっている事例が、本書で紹介されている。
 天下りが可能になるように、学長の選出方法を、法で変えてしまったとも、考えたくなる。

“読書ノート『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎(筑摩新書)3” の続きを読む

読書ノート『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎(筑摩新書)2

 前回は、前半の3章から、印象的な部分を重点的にとりあげたが、今回は後半に関して、1つの話題をとりあげたい。
 後半の構成は
・大学は雇用破壊の最先端 
 大量リストラした奈良学園大学、視覚障害の教員をはずした岡山短大、早大・東大の非常勤教職員の雇い止め、研究者の雇い止めが扱われている。
・大学に巣食う天下り
 全国的に広がる文科省の大学への天下りが扱われているが、特に、福岡教育大学と目白大学が詳しく書かれている。
 
 このなかでとりあげたいのは、視覚障害者の教員を、なんとかやめさせようしている岡山短大の事例である。幼児教育学科の准教授は、遺伝性の網膜色素変性症を患っているが、岡山大学から博士号を取得しており、「環境」という科目を担当していたという。視力が少しずつ衰えていったが、授業をするのに支障はなかったという。派遣職員がいろいろと手助けをしてくれていたが、その職員が辞めるときに、准教授にも退職勧奨をしてきた。そのときには、自費で補佐員を雇うことで、継続していたが、そのうちに、強力に辞めるように圧力をかけ、結局、授業をもたせないようになった。事務職ならよいということだが、拒否したために、授業をはずされてしまった。そこで、労働局に提訴し、授業をさせないのは不当であるという決定がだされたにもかかわらず、復帰させていない。

“読書ノート『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎(筑摩新書)2” の続きを読む

五十嵐顕考察6 五十嵐顕とは、どんな研究者だったのか

 五十嵐顕著作集の作業が始まった。私は、せっせと、著作のファイル化を進めている。スキャンしたファイルをOCRにかけて、読み取りミスを直していく作業だ。消耗な作業だが、熟読することだと思えば、特に苦痛ではなく、それなりに楽しんでやっている。
 そういうなかで、五十嵐顕という人物が、普通の東大教授のイメージとは、かなり違うひとであるという印象が強くなってきた。実は、私は五十嵐先生の指導生ではない。指導教官は、持田栄一教授だった。それは、大学院に進学したときには、ドイツの教育を研究するつもりだったので、ドイツ留学から帰国して、どんどん成果を発表していた持田教授のほうがよいと考えたからである。ただ、当時大学紛争の雰囲気が冷めやらない時期で、二人の教授は、極めて忙しく外の活動に邁進しており、また、五十嵐先生は、そのうち重い心臓疾患になってしまったので、院生が、親しく研究指導を受けるということはなかった。その時期でなくても、そういう雰囲気ではあったのだが。

“五十嵐顕考察6 五十嵐顕とは、どんな研究者だったのか” の続きを読む

WBC 事実は小説より奇なり

 NHKテレビの初期だと思うが、「私の秘密」という番組があった。いまでも、ときどき話題にでるような人気番組だった。ある人の珍しい経験を、回答者たちが質問をしながら、その経験をあてるという、一種のクイズ番組だったが、冒頭に、高橋啓三アナウンサーが、「事実は小説より奇なり、と申しまして」と必ず言うことになっていた。そういう言葉が、本当にあるのかわからないが、確かに、どんな作り事よりも珍しい、印象的な事実はあるものだ。
 今回のWBCは、まさしく、この言葉に相応しいドラマだった。ネットのコメントでも、「漫画のストーリーに、あのような場面を設定したら、あまりにリアリティがないからだめだと言われそう」というのが、多数あった。たしかに、いくらそういう場面が実現してほしいと思っても、実現しそうにない対決が実現してしまった。

“WBC 事実は小説より奇なり” の続きを読む

給特法の論議 教師の残業はどうすればよいのか

 給特法(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)をどうするかという議論が、再び活発になっている。
 給特法とは、公立学校の教師の給与の特例措置を決めたものだ。
・残業手当をださない代わりに、基本給の4%を支給する。
・残業を命じることができる事項を限定し、それ以外の残業を命ずることはできない。限定された残業とは
1.校外実習その他生徒の実習に関する業務
2.修学旅行その他学校の行事に関する業務
3.職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
4.非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
である。

“給特法の論議 教師の残業はどうすればよいのか” の続きを読む

共産党は、なぜあれほど党首公選を拒否するのか

 党首公選を訴えた鈴木元氏も、除名された。松竹氏のときにも、当然考えたのだが、何故、共産党はあれほどまで、頑なに党首公選を受け入れないのだろうか。公式には、党首公選を実施すると、分派が生まれてしまうからだ、といっているが、それは、誰が考えても、おかしな理屈で、当人たちが、本当にそう思っているのかさえ疑問である。そもそも、ただの一度も、党首公選などしていないのに、そうした弊害が、必ず出てくるなどということはいえないはずである。
 そこで、表立ってはいわない、裏の理由があるのではないかと、いろいろと考えてみた。そして、ひとつの推論に達した。そして、それは現在の政党を考える上で、重要な論点を含んでいるのではないかと思い、整理してみることにする。

“共産党は、なぜあれほど党首公選を拒否するのか” の続きを読む

生の演奏会か録音か

 先日、音楽会をこよなく愛するひとと話す機会があった。極論すれば、上手なCDより、多少劣るとしても、生の演奏会のほうを聴きたいという意見だ。そこは、重なる部分もあるが、違う部分もあると感じた。
 もちろん、録音は所詮音の缶詰であって、実際の演奏ではない。ライブ演奏といっても、人際には、ほとんどの場合修正してある。人間が演奏する以上、ミスはあるから、リハーサルや複数の演奏会の録音をとっておいて、ベストのものを主体に、他の録音でミスを修正するのである。クラシック音楽に、文字通りのライブ放送がほとんどないのは、ミスなしの演奏など、ほぼ無理だからだ。スポーツの場合には、相手がいるので、当然ミスは多い。しかし、それも観戦の面白さだと思うひとが多いだろう。

“生の演奏会か録音か” の続きを読む

またも除名騒動に 規約が問題なのではないか

 松竹伸幸氏への除名で、大きな社会的論議を呼んだ共産党が、同時期に、やはり党首公選を主張した本を出版した鈴木元氏を、3月16日に除名処分にした。
「共産党「志位氏辞任要求」で2人めの除名者が「やっていることスターリン」「政権とったら粛清が」SNSで広がる警戒感」
 京都府委員会がホームページで公表しているというので、みたが、それは以下の通りである。長いけれども、全文を転載しておく。
---
 日本共産党京都府委員会常任委員会は、2023年3月15日、鈴木元氏の除名処分を決定し、3月16日、中央委員会がこれを承認し確定しました。鈴木氏は京都府委員会直属で、支部に所属していない党員であることから、府常任委員会での決定となったものです。除名処分の理由は以下のとおりです。

“またも除名騒動に 規約が問題なのではないか” の続きを読む