犯罪を扱う小説で、事件が解決する場合には、どうしても不自然な要素が残ることが多い。というのは、読者を惹きつけるためには、犯罪そのものが特異で、解決が難しいことが求められる。だから、それを解決するためには、超人的な能力が必要で、ときには、あまりに不自然な偶然などを介在させたり、リアリティが損なわれることが多いのだ。そこで、骨格が同じふたつの物語を比較検討し、リアリティについて考えてみよう。
ひとつは「エメラルドの宝冠」、もうひとつは「第二のしみ」である。ともに、ある重要なものを預かった人物が、職場に置いておくことに不安だったので自宅に持ちかえり、そこで盗難にあう。ホームズが、品物を取り戻すことを依頼され、無事戻るという点が共通である。しかし、その共通性にもかかわらず、印象としてはかなり異なる。