韓国の慰安婦訴訟判決について1

 韓国で、日本政府に慰安婦への賠償請求を認める判決がでて、またまた物議を醸している。日本の報道は、ほぼ韓国非難で、唯一の例外が日本共産党と思われる。ただし、共産党も、判決を支持しているわけではなく、日本政府は韓国とよく協議すべきであるとの主張に留まっている。私自身は、もちろん、今回の判決を支持するものではないし、酷いと思うのだが、日本政府の反論を見ると、必ずしも説得力があるものではないのだ。ここは、冷静に考える必要がある。国際世論は、日本に味方すると思い込んでいるのか、それほど詳細な反論など必要ないと思っているのか、徴用工訴訟判決のときもそうだったが、単に「遺憾である」とか「認めない」などというだけでは、韓国はもちろん、国際社会が日本の立場を認めるかどうかは、不明だと私は思っている。日本政府の主張は、一貫しているようで、実は、揺れもあるからだ。
 今回の判決に対して、日本政府は、「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約」を根拠に、政府は外国人からの民事訴訟については、免除されていると主張して、この判決が国際条約違反であると、単純にいっているように感じられる。つまり、裁判そのものが成立しないという立場をとっているようだ。だから裁判は完全に無視してきた。では、その条約はどんなものなのか。

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長谷川平蔵の恩赦

 トランプが、任期終了までに大量の恩赦を実行するのではないかといわれている。家族などだけではなく、自分も含むというのだ。恩赦というのは、確定した刑を消滅させることをいうのだから、まだ訴追もされていないことに恩赦が可能なのか不明だが、とにかく、すべてにおいて犯罪的なトランプのやりそうなことだが、アメリカでは大きな論争になっているようだ。
 ある見方では、バイデンにとって、トランプが自身を恩赦してくれたほうが、都合がいいという分析もある。バイデン自身がやれば、当然アメリカの分断を進めるとか、トランプ派からの大きな批判を受けるが、やらなければ、大きな犯罪を見逃すのかという批判を受ける。トランプ自身がやってしまえば、そのいずれの可能性からも解放されるというわけだ。
 トランプは自身を恩赦するだろうか。する場合のマイナスは、恩赦はあくまでも罪を許すことだから、罪を認めることになる。自分は罪など犯していないといっているのだから、自分の政治生命を閉ざす可能性が高い。また、恩赦できるのは、連邦犯罪だけであって、州での訴追を否定することはできない。トランプの犯罪とされているものは、州によるものが多いので、そこからは逃れられないのである。
 どうなるかは、第一弾は20日までにわかる。ここでの主題は、鬼平なので、そちらに移ろう。

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トランプの2024年はなくなった

 昨日はテレビに釘付けだったが、無事、バイデンの当選の確認がなされて、世界中の多くの人々は安心しただろう。私自身は、もっと酷い状況も想定していたが、さすがに、そこまではいかなかったようだ。日本のトランプ支持者たちのなかには、戒厳令が布かれて、議事堂が軍隊によって管理されるというようなことをいう者までいた。そして、彼等の何人かは、いまでも、「今度の」作戦なるものを吹聴している。それによると、トランプは、既に6日の夜に、テキサス州アビリーン国防司令部に、Boeing E-4 という、核攻撃されたときに使う飛行機で移動したというのである。そして、20日のバイデン新大統領の就任式前に、軍事行動をおこすような口ぶりである。そして、そのyoutubeには、多くの賛同コメントが書かれ、他のyoutubeにも引用されている。そうしたコメントによると、中共によって組織された過激派が、暴動をおこしたのであって、トランプはそれを静めようとしていたということのようだ。彼等によれば、トランプは完全に被害者らしい。カルトとはこういう人たちのことなのだろう。

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トランプ大統領のクーデター未遂か

 今日は朝から、アメリカの様子に釘付けになっていた。日本でも、1月6日にアメリカで「何か」がおきると、盛んに言われていたし、バイデン当選を否定する動きを支持するようなyoutubeチャンネルも少なくなかったから、実際にアメリカで起きたことに、それほど驚きはなかった。しかし、展開は興味深いものだ。
 日本の選挙制度では考えられないことだが、11月3日に行われた大統領選挙が、正式に結果が認定されるのが、1月6日の両院での確認の協議となっている。それまでに、結果の集計、選挙人による投票という手続があり、最終が1月6日だ。そして、そのときに、両院議会で、異議申し立てがあれば、議員が意見を述べ、そのあと、上院議長による確認という「儀式」になるというのだ。しかし、トランプが、上院議長であり、かつ副大統領であるペンスに、結果を承認するなという圧力をかけていたということだ。また、共和党議員に対して、意義申したてを行うように働きかけていた。

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読書ノート『ある小学校長の回想』金沢嘉市2

 金沢氏が、教育の世界で有名になったのは、校長としての活動によることが、続く部分で理解できる。
 最初の祖師谷小学校での実践で目立つのは、中学受験のための補習が行われていることを知って、それをやめるように指導したことだ。本書の記述では、校長としての権限行使として、かなり強権的に行われた印象を受ける。職員会議では、廃止すると宣言し、父母会を開催して説明する。もちろん、不満な親もいるわけだが、それについては、戦前の経験を話して、納得させる。すると、補習を望む親から、間接的に要望書が提出される事態になるが、頑として許さない。
 戦前の経験では、補習をした場合としなかった場合とで、合格率にほとんど差がなかったというが、今回の場合には、その実績は書かれていない。おそらく低下したのではないだろうか。差がなければ書くはずである。あるいは、そうした子どもたちは、一斉に塾に通いだしたのかも知れない。

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読書ノート『ある小学校長の回想』金沢嘉市

 金沢嘉市氏は、民間教育運動では著名な校長だった。しかし、何か有力な教育方法などを提起している人ではなかったので、私はほとんど関心をもたず、実際に接することもなかった。私は東京の世田谷で育ったのだが、金沢氏は、私が小学生だった時期に、世田谷で教頭や校長をしていた。氏の本を読んでみようと思ったのは、彼を批判する本を読んだからだ。細川隆元『戦後日本をだめにした学者・文化人』という本だ。よくある左翼系の学者だけを非難する本ではなく、左右のひとたちをかなり広く批判しているが、そのなかに金沢嘉市が含まれている。もちろん、私自身、この細川氏の本に共感しているわけではまったくないが、金沢氏を読んでみようと思ったきっかけになった。
 細川氏の批判は簡単にいうと次のようになる。
・戦前は軍国主義教育をしており、戦後民主主義に変節しているが、きちんと考えたわけではない。
・自分がいかに評価されているか、とくとくと書いているが、そういうことは胸にしまっておくべきこと。
・雑誌やラジオで解説しているが、浅い受け売りである。
 以上のようなことだ。私が気になったのは、戦前から戦後への変遷の部分だ。軍国主義教育をしていたのに、戦後民主主義社会になると、とたんに昔から民主主義者だったように振る舞う人が多かったとは、よく言われることであり、それが、教師に対する不信感となっていたとも言われる。しかし、ことはそう単純ではない。
 そこで、『ある小学校長の回想』(岩波新書)を読んでみた。1967年の発売だ。69年に定年退職なので、まだ現役の校長時代に執筆されている。

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読書ノート『メディアの闇 安倍官邸vsNHK 森友取材全真相』相澤冬樹

 「桜を見る会」の問題は、国会が開けば再燃するだろうが、森友問題もやはり、曖昧にするわけにはいかない。あれはたいした問題ではないと言う者もいるが、安倍内閣における政治の劣化が象徴的に表れているものであって、無視するわけにはいかない。財務省の公文書改竄事件で自殺をした赤木氏の件を取り上げて、注目された相澤冬樹氏の、森友問題の取材を記した本が文庫になった。
 kindleで購入して、すぐに読み終わったが、奥付をみると、2021年1月20日だった。未発売の本の読書ノートは初めてだ。旧版は前にだされていて、森友事件の文書改竄の責任を押しつけられた形で自殺した赤木さんの妻との接点部分が補筆されたものだ。
 題名からして、森友事件の真相、特に安倍首相や夫人の関与について、詳細な追跡があるのかと思っていたが、そこは皆無に近かった。あくまでも大阪の記者として、森友関連の取材を記録したものだ。
 著者は、森友事件には2つの大きな疑問があると書いている。
 第一は、基準を満たすのかについて疑問のある小学校が何故「認可適当」とされたのか。
 第二は、小学校予定地として何故国有地が大幅に値引きされて売却されたのか。

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日本人は集団免疫を獲得したのか

 これまで私自身はあまり注目してこなかったのだが、上久保靖彦という京大の特定教授が、ネット上ではけっこう支持されているらしい仮説を提示している。検索していると、確かに納得している人も少なくないのだが、専門家のコメントがほとんど見当たらないのだ。テレビで専門家との議論があったが、質問責めにされ、それにきちんと回答したのに、回答部分が放映のときにカットされたとも、本人がyoutubeで述べている。それが、専門家との討論としては、ほぼ唯一の機会だったのだろうか。
 本当らしくもあり、そうでない感じもするので、当人の発言や文書を検討してみた。
 
 その前に、新型コロナウィルスについては、まだ解明されていないことかけっこうあるようだ。あくまでも素人としての疑問をあげておきたい。
ア 欧米では死者や感染者数が、日本より圧倒的に多い。東アジアでは、日本人は悪いほうだが、国際的には、目立って少ない。この理由は何か。
イ 新型コロナウィルスは、これまでのコロナウィルスやインフルエンザと比較して、重い病気なのか、単なる風邪の一種なのか。
ウ 専門家会議は、発症前に感染させるとか、あるいは感染しても、他人に感染させるのは2割だけだというが、それは本当か、また本当だとしたら何故なのか。
 
 さて、この上久保論は、主にアに対しての仮説を与えたものだといってよい。他にも、BCG説、日本人の生活習慣説などがあるが、上久保氏は、日本人には集団免疫が形成されているからだと主張している。その議論の骨格を私なりにまとめてみる。

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2021年ニューイヤー・コンサート

 今年のウィーンフィル、ニューイヤー・コンサートは異例な開催だった。はじめての無観客で行われ、世界から募集した拍手要員が、一部と二部の終わりにオンラインで拍手をするという試みが取り入れられた。指揮者は、80歳の記念とウィーンフィルの指揮50年を祝って、リッカルド・ムーティだった。
 何よりも無観客の影響がどうなるのかに興味があった。オーケストラにとって、観客のいない状態での演奏は、別に珍しいことではなく、レコーディングなどは無観客だし、放送用収録などもある。そして、現在はライブ録音が普通になっているので、ゲネプロは、本番と同じように行われることが多い。だから、演奏そのものは、別に通常と変わりなかったと思う。ただ、通常は拍手があって、お辞儀をするわけだが、それがない。かといって、世界中でライブ放映されているから、ときどき起立してするのだが、礼をするでもなく、どうやっていいのか戸惑っている感がおかしかった。せっかく拍手をいれるなら、曲ごとに拍手をいれて、普通のように、起立して礼をするようにすればよかったのにと思う。ラデツキー行進曲での拍手もされなかったので、7000人も用意する必要があったのか疑問だ。
 興味があったのは、音だ。演奏する側からすると、観客はいないほうが音がよく響くので、演奏しやすいし、演奏していて気持ちがいい。観客が入ると、音が吸収されるので、響いた感じが若干薄らぐわけだ。たしかに、普段のニューイヤー・コンサートの録画と比較してみたが、今回のほうが、音がすっきりなっている感じはあった。ただ、金管が出すぎの感じがした。

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今年の抱負 (昨日アップ予定だったもの)

 勤務があるときには、やらねばならないことが決まっており、自分で決めることができるのは、研究テーマだった。今は、すべてが自由で、何をするにも、また、何もしないのも、自分で決めることができる。しかし、社会に対する影響力は、ほとんどない。自由とはそういうものかも知れない。昨年の元日は、ごく普通の記事を書いていたが、今年は、今年やりたいことを確認しておきたい。
 現在新型コロナウィルスがいまだに猛威を振るっているので、まずは感染しないように心がける必要がある。そんな抱負を書くというのは、情けないが、状況を考えれば仕方ないだろう。
 高校3年生の受験の前に、めずらしく、担任の教師が、訓戒めいたことを述べたのを思い出す。風邪をひくひとは、90%が不注意からであるというのだ。その証拠に、戦場では兵士は、ほとんど風邪をひくものはいなかったというのだ。風邪をひいたら、かなりの確率で死を意味するので、みんな注意に注意を重ねていたのだそうだ。なるほどと思ったものだ。それまで、私は春先になるとたいてい風邪をひいて、熱をだしていたが、大学生になると、あまり風邪をひかなくなった。
 また大学院のとき、助手が「体調が悪かったら、休むことが一番大事だ。休むと迷惑をかけるというのが、結果として一番まわりに迷惑になる」ということを言われ、これもなるほどと思って実践しているし、学生たちにも常にそういってきた。つまり、注意すれば感染を防げるとしたら、その注意を確実に実行し、もし、体調が低下したら直ちに休息する。それが大事だ。

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