裁判年月日 平成21年 5月15日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決 事件番号 平20(行ウ)22号 事件名 公文書非公開決定処分取消請求事件 裁判結果 請求棄却 上訴等 控訴(後、訴え取下げ) 文献番号 2009WLJPCA05158011 大阪府枚方市〈以下省略〉  原告 X  大阪府枚方市〈以下省略〉  被告 枚方市  同代表者 枚方市教育委員会  同委員会代表者委員長 中野一雄  処分行政庁  枚方市教育委員会教育長南部一成  被告訴訟代理人弁護士 仲田哲  主文  1 原告の請求を棄却する。  2 訴訟費用は原告の負担とする。   事実及び理由 第1 請求  枚方市教育委員会教育長が原告に対し平成20年1月22日付けでした原告の同月8日付け公開請求に対する非公開決定処分(教学指第583号)を取り消す。 第2 事案の概要  1 本件は,文部科学省が全国の小学校6年生及び中学校3年生を対象にして行った平成19年度全国学力・学習状況調査(以下「本件調査」という。なお,全国学力・学習状況調査を「全国学力調査」ということがある。)に関し,原告が枚方市情報公開条例(平成9年枚方市条例第23号。以下「本件条例」という。)に基づいて,本件条例所定の実施機関である枚方市教育委員会の委任を受けた枚方市教育委員会教育長(以下「枚方市教育長」という。)に対し,「平成19年度全国学力・学習状況調査における各中学校別平均点(全校分)」の情報(以下「本件情報」という。)の公開を請求したところ(以下「本件公開請求」という。),枚方市教育長が,本件条例6条4号該当を理由として本件情報を非公開とする決定(平成20年1月22日教学指第583号,以下「本件決定」という。)をしたため,原告がその取消しを求めている事案である。  2 本件条例の定め   (1)本件条例1条は,同条例は,市の保有する情報を公開することにより,市政に関する市民の知る権利を保障し,市政に対する市民の理解と信頼を深め,市民の市政参加を促進し,もって地方自治の本旨に即した市政を推進することを目的とする旨規定する。   (2)本件条例2条2号は,この条例において,情報の公開とは,実施機関がこの条例の定めるところにより,公文書を閲覧に供し,又はその写しを交付することをいう旨規定する。   (3)本件条例5条柱書きは,同条1号ないし6号に掲げる者は,実施機関に対し,情報の公開を請求することができる旨規定し,同条1号は,「市内に住所を有する者」と規定する。   (4)本件条例6条柱書きは,実施機関は,同条各号のいずれかに該当する情報については,当該情報の公開をしないことができる旨規定し,同条4号は,「市が国,他の地方公共団体又はこれらに準ずる団体(以下「国等」という。)と協力して行う事務事業又は国等から依頼,協議等を受けて行う事務事業に関して作成し,又は取得した情報であって,公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」と規定する。  3 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含むものとする。)   (1)当事者等    ア 原告は,枚方市内に住所を有する者であり,実施機関に対し情報の公開を請求することができる者である(本件条例5条1号)。    イ 枚方市教育委員会は,本件条例の実施機関の一つであり(本件条例2条3号),枚方市教育長は,枚方市教育委員会事務委任規則に基づき,枚方市教育委員会により情報公開事務その他の事務を委任されている行政庁である。(弁論の全趣旨)   (2)本件調査の実施  本件調査は,平成19年4月24日,全国の小学校6年生及び中学校3年生を対象として,実施された(甲3,弁論の全趣旨)。   (3)原告による本件公開請求(甲11)  原告は,平成20年1月8日,本件条例に基づいて,枚方市教育長(ただし,本来の実施機関である枚方市教育委員会と表記している。)に対し,請求に係る情報の内容を「平成19年度全国学力・学習状況調査における各中学校別平均点(全校分)」として,写しの交付の方法による本件情報の公開を請求した。   (4)枚方市教育長による本件決定(甲12)  枚方市教育長は,本件公開請求に対し,平成20年1月22日付け非公開決定通知書により,本件情報の記録されている対象文書(以下「本件対象文書」という。)を別紙1記載のとおり特定の上,本件情報が本件条例6条4号に該当するとして,別紙2記載のとおり理由を付して,原告の請求に係る情報の公開をしない旨の本件決定をした。   (5)本件対象文書及び本件情報の内容(甲12,乙5,弁論の全趣旨)    ア 本件対象文書は,枚方市立中学校の各校ごとに,別紙1記載のとおり4種類作成され,各種類ごとにA4用紙1ないし2枚(4種類で合計6枚)であり,それぞれ出題に関する項目ごとの調査結果(分析データ)が記載されている。    イ 本件対象文書の記載内容は,次のとおりである(別紙3参照)。  (ア) 集計結果   ① 当該中学校の生徒数と平均正答率   ② 大阪府下の公立中学校の生徒数と平均正答率   ③ 全国の公立中学校の生徒数と平均正答率  が併記された表である。  (イ) 分類・区分別集計結果  3つの「分類」をし,各分類ごとに「区分」された項目ごとに,   ① 対象設問数(問)   ② 当該中学校の平均正答率   ③ 大阪府下の公立中学校の平均正答率   ④ 全国の公立中学校の平均正答率  が併記された表である。  なお,「分類」,「区分」は,問題作成者がそれぞれの問題(設問)によって測ることができる学力の種類ごとに項目分けしたものである。  (ウ) 設問別集計結果  各設問ごとに,   ① 設問の概要等   ② 当該中学校の平均正答率と無解答率   ③ 大阪府下の公立中学校の平均正答率と無解答率   ④ 全国の公立中学校の平均正答率と無回答率  が併記された表である。  なお,「設問」は,本件調査における各「問い」(出題)のことである。    ウ 原告が公開を求めている本件情報は,本件対象文書中,上記(ア)①,(イ)②及び(ウ)②であり,別紙3の黒塗り部分に相当する。   (6)「平成19年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」の内容(甲3)    ア 文部科学省は,本件調査の実施にあたり,「平成19年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(以下「実施要領」という。)を定め,各都道府県教育委員会等に対し,これを通知した(なお,市町村教育委員会に対しては,都道府県教育委員会から周知することとされた。)。    イ 実施要領7(4)は,調査結果の取扱いについて配慮すべき点として,「イ 本調査の実施主体が国であることや市町村が基本的な参加主体であることなどにかんがみて,都道府県教育委員会は,域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。また,市町村教育委員会は,上記と同様の理由により,域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと」としている。  また,実施要領10(6)は,「調査により得られる分析データの取扱い」と題して,「ア 文部科学省は,調査により得られる分析データのうち,公表する内容を除くものについて,以下のような考え方で対応すること。これが一般に公開されることになると,序列化や過度な競争が生じるおそれや参加主体からの協力が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり,調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられるため,行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠として,同法における不開示情報として取り扱うこととする。イ 教育委員会等においても,提供される調査結果のうち,文部科学省が公表する内容を除く分析データについて,上記を参考に,それぞれの情報公開条例に基づく同様の規定を根拠として,適切に対応する必要があること。」としている。    ウ なお,実施要領においては,「調査結果」という用語と「調査により得られる分析データ」という用語が用いられているが,これらは同じものであり,本件情報は「調査結果」(「調査により得られる分析データ」)に該当し(乙4),実施要領10(6)の「調査により得られる分析データのうち,公表する内容を除くもの」(以下「非公表情報」ということがある。)である。   (7)訴訟の提起  原告は,平成20年2月12日,本件決定の取消しを求めて本件訴えを提起した。(顕著な事実)  4 主たる争点及び当事者の主張  本件情報が本件条例6条4号の「国等と協力して行う事務事業又は国等から依頼,協議等を受けて行う事務事業に関して作成し,又は取得した情報」に該当することは当事者間に争いがないから,本件の主たる争点は,本件情報が本件条例6条4号の「公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」に該当するか否かである。この点に関する当事者の主張の概要は,以下のとおりである。  (原告の主張)   (1)実施要領は,各地方公共団体において,住民から本件調査の結果に係る情報公開請求がされた場合には,当該自治体の情報公開条例によって公開するか否かを判断すべきものとしており,その判断に当たっては,実施要領10(6)アに記載されている事項を参考に,地方公共団体の個別具体的な状況にかんがみ,本件調査の結果を公開した場合の,① 序列化が生じるおそれの程度,② 過度な競争が生じるおそれの程度,③ 他の参加主体の協力が得られなくなるおそれの程度を検討し,これらを総合して,④ 調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれの程度を吟味して,非公開の是非が決せられる。  以上を前提に,本件情報が本件条例6条4号の「公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」に該当するかを検討する。  ①の序列化が生じるおそれの程度についてみると,被告は,独自に行った学力テストの各小学校と各中学校別の成績を公開しているし,本件情報よりもさらに踏み込んだ各中学校別の「卒業生進路先一覧表」を公開しており,平成18年8月3日の大阪地裁判決(甲5)の説示に照らしても,本件情報の公開により序列化が生じるおそれは極めて低い。  ②の過度な競争が生じるおそれの程度についてみると,被告独自の学力テストの各中学校別成績結果(甲6)によれば,既に各中学校間で学力差は生じているところ,本件情報が公開されれば,より多くの調査結果を住民が得ることができ,住民が教職員の加配を要求するなどして学力差の解消に役立つことになるので,本件調査の目的にかなう。しかも,本件調査においては,各中学校の成績がほぼ同程度になることが期待されているはずであり,前記大阪地裁判決の説示に照らしても,本件情報の公開により過度な競争が生じるおそれはない。  ③の他の参加主体の協力が得られなくなるおそれの程度についてみると,被告は,独自の学力テストの結果の非公開決定を違法として取り消した平成19年1月31日の大阪高裁判決(甲8,上記大阪地裁判決の控訴審)を受け入れたという特殊事情があり,また,各地方公共団体の実情(情報公開条例の規定の内容,人口,学校の規模,自治体独自の学力テスト結果の公開状況,学校選択制の実施の有無等)によって判断は異なり得るのであり,本件情報が公開されても他の参加主体の協力が得られなくなるおそれは極めて低い。  ④の調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれの程度についてみると,上記①ないし③を総合すれば,調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはない。また,本件情報が公開された場合に,保護者がその結果を踏まえて,各中学校に対して質問や要望をすることは予想されるが,それは本件調査の目的に沿うものであって,調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはない。  以上のとおり,上記①ないし④のおそれは,抽象的に考え出された可能性ないしは危惧感にすぎず,本件情報を公開しても正確な情報が得られなくなる可能性が高まることもなく,調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはない。したがって,被告と国との協力関係が著しく損なわれることはないから,本件決定には理由がない。   (2)「情報公開事務及び個人情報保護事務の手引」(乙2,以下「本件手引」という。)は,「公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」として,「国等の実施する調査等に際して作成し,又は取得した情報のうち,国等との協力関係を維持するため非公開とする必要があるもの」,「その他国等からの協議に基づき作成し,又は取得した情報であって,公開するか否かについて国等の判断に委ねるべき性格の情報のうち,国等から公開してはならない旨の指示があるもの」を挙げ,前者の例として「調査の結果に関する情報であって,国等において統一的に公表する必要のあるもの,国等において公表するまで公表してはならない旨の指示があるもの」等を掲げている。  しかし,本件情報は,中学校教育におけるごく一面の情報にすぎない本件調査に関する情報であり,公開するか否かが国の政策的判断に委ねられるべき情報ではなく,「国等において統一的に公表する必要のあるもの」ではない。また,各中学校において,自校の結果を公表することは許されており(実施要領7(4)ウ),「国等において公表するまで公表してはならない旨の指示」もない。よって,本件情報は,「国等の実施する調査等に際して作成し,又は取得した情報のうち,国等との協力関係を維持するため非公開とする必要があるもの」には当たらない。  また,本件情報は,本件手引30頁記載の「公開するか否かについて国等の判断に委ねるべき性格の情報」の具体的内容の例示にも全く当たらず,「公開するか否かについて国等の判断に委ねるべき性格の情報」ではない。  したがって,本件情報を公開しても,「市と国等との協力関係を著しく損なう」(本件条例6条4号)とは認められない。   (3)予備的主張  本件決定は,本件情報が本件条例6条4号に該当するという具体的な理由を,「本調査は,文部科学省が策定した『平成19年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領』を前提として枚方市教育委員会が参加・協力したものであり,文部科学省から提供を受けた本調査結果の取扱いについても,実施要領に基づいて適正に行う必要がある。」としている。しかし,本件条例は,「市民の知る権利」(憲法21条1項,本件条例1条)を保障していることから,実施要領7(4)イの「市町村教育委員会は,域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと」という部分は,被告(枚方市)においては違憲又は違法であり,無効となるから,本件条例を公開しても,被告(枚方市)と国との協力関係を著しく損なうことはない。よって,本件決定には,非公開とすべき理由がなく,本件条例に反し違法である。  (被告の主張)   (1)実施要領10(6)によれば,文部科学省は,「調査により得られる分析データのうち,公表する内容を除くもの」について,「行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠として,同法における不開示情報として取り扱うこととする。」とし,教育委員会等でも,「提供される調査結果のうち,文部科学省が公表する内容を除く分析データ」について,この取扱方針を「参考に」,「それぞれの情報公開条例に基づく同様の規定を根拠として,適切に対応する必要がある」としている(この点に関し,文部科学省は,本件調査が終わった後の平成19年8月23日,初等中等教育局長名で,全国の都道府県教育委員会に,同旨の通知を行って,都道府県教育委員会に,「域内の市町村教育委員会に対して,同様に,調査結果の取扱いについて適切に行うよう指導の徹底」を要請している。また,文部科学大臣は,国会において,「各教育委員会等も個々の市町村名や学校名を明らかにしないということを前提にして調査に参加をしておられますから,今回の調査に関しては学校が順番で公表されるなどということはありえません。」と答弁し,初等中等教育局長は,「この実施要領に基づき,各教育委員会等が個々の市町村名や学校名を明らかにしないことを前提として調査に参加をしております。」などと答弁している。)。  本件情報は,各学校別の成績等の調査結果が含まれているものであり,実施要領10(6)の「提供される調査結果のうち,文部科学省が公表する内容を除く分析データ」に該当するから,文部科学省(国)は,本件情報についても,枚方市教育委員会に対し,その非公開を求めていることが明らかである。  したがって,これを公開することが,「市と国等との協力関係を著しく損なうと認められる」ことは明らかである。このことは,被告が本件条例に基づく情報公開等に関して作成した「情報公開事務及び個人情報保護事務の手引」(本件手引)に,「公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」として,「国等の実施する調査等に際して作成し,又は取得した情報のうち,国等との協力関係を維持するため非公開とする必要があるもの」,「その他国等からの協議に基づき作成し,又は取得した情報であって,公開するか否かについて国等の判断に委ねるべき性格の情報のうち,国等から公開してはならない旨の指示があるもの」が挙げられていること(乙2)からも,明らかである。   (2)原告の主張(1)について  原告は,実施要領10(6)アに記載された事項を参考に,地方公共団体の個別具体的な状況にかんがみ,① 序列化が生じるおそれの程度,② 過度な競争が生じるおそれの程度,③ 他の参加主体の協力が得られなくなるおそれの程度,④ 調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれの程度を検討,吟味し,非公開の是非が決せられる旨主張する。しかし,本件は,前記大阪地裁判決で問題とされた本件条例6条7号(いわゆる事務事業情報)ではなく,本件条例6条4号が問題となっているところ,本件情報が本件条例6条4号に該当するか否かの判断に当たっては,上記①ないし④の各点について,検討,吟味する必要は全くない。   (3)原告の主張(3)について  原告の予備的主張の法律構成は必ずしも明らかではないが,原告が主張するように,実施要領の記載が被告(枚方市)において違憲又は違法であり,無効となるものではない。原告の主張は独善的な見解を根拠とするものである。 第3 当裁判所の判断  1 事実関係について  前記前提となる事実等に加えて,掲記各証拠(特記しない限り,証拠番号は枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。   (1)実施要領作成に先立つ答申,国会審議等    ア 中央教育審議会は,平成17年10月26日,「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」を発表した。そこでは,学習到達度,理解度の把握のための全国的な学力調査を実施することが適当とした上で,「なお,実施に当たっては,子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら,学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である。」などとされている(乙1)。    イ 全国学力調査に関しては,平成18年3月(第164回国会),衆議院文部科学委員会や参議院文教科学委員会等において審議され,小坂文部科学大臣(当時)は,調査結果の公表等に関し,「過去にあった学力調査における意見として,自校の成績を上げるために学力の差のある生徒に対して受けさせないというような事例が生じたりという弊害が過去指摘をされたこともあります。」,「特に公表の仕方,どこへどう戻すのかというフィードバックのレベルについては,私どもも,少なくとも学校の公表に当たっては,全国的に見た中で大まかな感覚がつかめるように,余り個別的なものを公表するということになりますと弊害が生じることも懸念されますので,専門家の御意見を聞きながら,その辺には十分に配慮をしたい。」(同月1日衆議院予算委員会第四分科会),「自分たちの町村に対して直接的な位置づけをして公表されるようなものに参加はしたくないというような間違った理解のないように,十分にその意義とやり方,方法等を周知して取り組んでいきたい」(同月15日衆議院文部科学委員会),(市区町村ごとに結果が公表されて,おまえの学校は成績最下位だとかあんたの市は最悪だといってからかわれたとか,もうそういうことを言われるので引っ越ししたいと親に言ったとか,もうみんなに迷惑掛けるからテストの日休んだとか,こういう子どもの声もたくさんあり,見直すべきだと思うが,いかがかとの質問に対し,)「悉皆的な調査をいたしますと,それをそのまま公表するような形を取るとそういった弊害というものが指摘されます。例えば市町村の各学校ごとの状況を順位付けして発表するというようなことをいたしますとそういう状況になってくると思います。」,「そういった弊害的な,御指摘に当たるようなことがミニマイズされるような,最小限化されるような方法を策定をして実施をしてまいりたい,そして,そういった方式を公表することによって,今委員が御指摘になったような懸念が払拭されるように努めてまいりたいと存じます。」(同月16日参議院文教科学委員会),「そして悉皆調査によるいわゆる御指摘のあったような単なる個別の競争を起こすような,過度の競争に入るような,そういった弊害が生じないような方法を講じて,公表等についても十分に配慮して,そういった点を配慮した上で公表の方式等も考えて,各市町村,学校現場の皆さんの理解が十分に得られるような方法を模索してまいりたい。その上での実施を心掛けたいと思っております。」(同月22日参議院文教科学委員会)などと答弁した(乙1)。    ウ 全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議は,平成17年11月16日から議論を重ね,平成18年4月25日,「全国的な学力調査の具体的な実施方法等について」を発表した。そこでは,上記中央教育審議会の答申を踏まえて,「市区町村の状況については,現在都道府県において独自に実施されている学力調査においても市区町村単位まで調査結果を公表する自治体数が8にとどまっていることや,現時点において個々の単位の状況まで公表すると序列化や過度な競争につながるおそれがありその影響は大きいと予想されることなどを考慮し,個々の市区町村単位の状況を公表するのではなく,地域の規模等に応じたまとまりごとに,例えば,大都市(政令指定都市及び東京23区),中核市,その他の市,町村の状況を公表する。」,「都道府県が域内の市区町村等の状況を個々の市区町村名等を出して公表することになると序列化や過度な競争につながるおそれは払拭できないと考えられる。また,全国的な学力調査の実施主体が国であることや市区町村が基本的な参加主体であることなどにかんがみると,都道府県に対して,原則として,国における公表レベルや内容と同様の対応を求めることが適当である。」などとされた(乙1,8)。   (2)実施要領の定め(甲3)    ア 文部科学省は,各都道府県教育委員会等に対し,本件調査を実施するに当たり,「平成19年度全国学力・学習状況調査の実施について」(平成18年6月20日付け18文科初第317号文部科学事務次官通知)を発出し,次のとおり本件調査の目的や調査結果の取扱い等を記載した実施要領を示した(なお,市町村教育委員会に対しては,都道府県教育委員会から周知することとされた。)。    イ 実施要領によれば,本件調査の目的は,(ア) 全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより,教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ること,(イ) 各教育委員会,学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図ることにあり(実施要領1),この調査は,国・公・私立学校の小学校第6学年及び盲・聾・養護学校小学部第6学年,中学校第3学年,中等教育学校第3学年及び盲・聾・養護学校中学部第3学年の,原則として全児童生徒を対象とする(実施要領3)。  また,本件調査の調査事項については,小学校第6学年に対する調査は,国語・算数とし,中学校第3学年に対する調査は,国語・数学とすることとされ,出題範囲は,調査する学年の前学年までに含まれる指導事項を原則とし,出題内容は,それぞれの学年・教科に関し,① 身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や,実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能など(主として「知識」に関する問題)を中心とした出題,② 知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や,様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力などにかかわる内容(主として「活用」に関する問題)を中心とした出題,とすることとされている(実施要領4(1)ア)。  また,児童生徒に対する本件調査の実施日時は,平成19年4月24日火曜日とし,教科に関する調査は,全体で小学校は3単位時間,中学校は4単位時間,質問紙による調査は1単位時間とすることとされた(実施要領5(1))  本件調査は,文部科学省が,学校の設置管理者である都道府県教育委員会,市町村教育委員会,学校法人,国立大学法人等(参加主体)の協力を得て実施することとされている(実施要領6(1))。    ウ 実施要領7「調査結果の取扱い」によれば,文部科学省は,ア 国全体の状況及び国立・公立・私立学校別の状況,イ 都道府県ごとの公立学校全体の状況,ウ 地域の規模等に応じたまとまり(大都市(政令指定都市及び東京23区),中核市,その他の市,町村,または,へき地)における公立学校全体の状況について,実施要領7(1)に掲げる調査結果の分析データ(ア 教科に関する調査の結果について,国語,算数・数学のそれぞれ,主として「知識」に関する問題と,主として「活用」に関する問題に分けた4つの区分ごとの平均正答値,中央値,最頻値,標準偏差等,イ 都道府県・市町村・学校・児童生徒の学力に関する分布の形状等が分かるグラフ,ウ 国語,算数・数学の問題ごとの正答率,など)を公表するものとされている。  また,文部科学省は,市町村教育委員会に対して,当該市町村における公立学校全体及びその設置管理する各学校に関する調査結果(各学校に関する調査結果は,当該学校全体,各学級及び各児童生徒に関するものとする。実施要領7(3)イ)を提供するものとされている(実施要領7(3)ア(イ))。    エ 実施要領7(4)「調査結果の取扱いに対する配慮事項」は,「ア 調査結果の公表にあたっては,本調査の結果が学力の特定の一部分であることを明示すること。また,数値の公表にあたっては,それにより示される調査結果についての読み取り方を併せて示すこと。イ 本調査の実施主体が国であることや市町村が基本的な参加主体であることなどにかんがみて,都道府県教育委員会は,域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。また,市町村教育委員会は,上記と同様の理由により,域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと。ウ 市町村教育委員会が,保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため,当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては,それぞれの判断にゆだねること。また,学校が,自校の結果を公表することについては,それぞれの判断にゆだねること。ただし,本調査により測定できる学力は特定の一部分であることや,学校評価の中で体力なども含めた教育活動の取組の状況等を示し,調査結果の分析を踏まえた今後の改善方策等を併せて示すなど,序列化につながらない取組が必要と考えられること。」としている。    オ 実施要領10(6)は,「調査により得られる分析データの取扱い」として,「ア 文部科学省は,調査により得られる分析データのうち,公表する内容を除くものについて,以下のような考え方で対応すること。これが一般に公開されることになると,序列化や過度な競争が生じるおそれや参加主体からの協力が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり,調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられるため,行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠として,同法における不開示情報として取り扱うこととする。イ 教育委員会等においても,提供される調査結果のうち,文部科学省が公表する内容を除く分析データについて,上記を参考に,それぞれの情報公開条例に基づく同様の規定を根拠として,適切に対応する必要があること。」としている。    カ 安倍内閣総理大臣(当時)は,平成19年4月20日,衆議院教育再生特別委員会において,「全国の学力・学習状況調査においては,個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行いません。そして,学校間の序列化や過度の競争をあおらないように十分我々は配慮しなければならないと考えています。」,「個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行わない。しかし,…国全体と都道府県の状況については発表するということでございます。」などと答弁した。   (3)調査結果の取扱いについての留意事項(乙1)    ア 本件調査は,平成19年4月24日に実施されたところ,文部科学省は,各都道府県教育委員会等に対し,本件調査の結果を提供するに先立って,「全国学力・学習状況調査の調査結果の取扱いについて(通知)」(平成19年8月23日付け文科初第616号文部科学省初等中等教育局長通知,以下「留意事項通知」という。)を発出し,調査結果の取扱いについて実施要領に基づき適切に行われるよう求めるとともに,次のとおり,調査結果の取扱いについての留意事項を示した(市町村教育委員会に対しては,都道府県教育委員会から指導の徹底をすることとされた。)。    イ 留意事項通知1「基本的な考え方」は,「本調査に参加・協力した教育委員会は,実施要領を前提として調査に参加・協力したものであり,調査結果の取扱いについては実施要領に基づいて行うこと」としている。  留意事項通知2「調査結果の公表について」は,「学校がそれぞれの判断で自校の結果を公表した後においても,市町村教育委員会は個々の学校名を明らかにした公表を行わないこと」としている。    ウ 留意事項通知3「情報公開における調査結果の取扱いについて」は,「① 文部科学省が公表する内容以外の情報について,文部科学省は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の本文…を根拠として,不開示情報として取り扱うこととしていること。② 国が行う本調査の結果の公表・情報公開については,これまでも国会等で広く議論が行われてきたところであり,都道府県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を公にした場合又は市町村教育委員会が個々の学校名を明らかにした情報を公にした場合,その性質上,本調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあること。また,その具体例としては,次に掲げるおそれが挙げられること。」として,「ア 本調査の実施については,序列化や過度な競争につながらないよう特段の配慮が必要であることについて,国会,審議会等において議論が行われたところであり,それらの議論を踏まえて作成した実施要領の趣旨に反して,都道府県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示し,又は市町村教育委員会が個々の学校名を明らかにした情報を開示することにより,本調査の実施方法に対する国民の信頼が損なわれるおそれ イ 市町村教育委員会等は自らの判断で本調査に参加しているところ,一部の都道府県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示し,又は一部の市町村教育委員会が個々の学校名を明らかにした情報を開示することにより,次年度以降市町村教育委員会等からの協力が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり,結果として全国的な状況を把握できなくなるおそれ」とし,さらに,「市町村教育委員会においては,①及び②を参考に,それぞれの地方公共団体が定める条例を根拠として,個々の学校名を明らかにした情報の開示により本調査の適正な遂行に支障を及ぼすことにならないよう適切に対応すること。なお,その際,別添2,3の資料が参考になると考えられること」とし,別添2として「調査結果の公表・情報公開に関する国会での主な質疑内容」を,別添3として「調査結果の公表・情報公開に関する中央教育審議会の答申等の記述」を添付している。   (4)各地方公共団体における独自の学力調査結果の公表・公開状況等    ア 全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議の資料及び報告案によれば,都道府県において独自に実施されている学力調査における調査結果の公表については,平成17年度までに2年おきあるいは3年おきに学力調査を実施しているものも含めた44都道府県を対象に見てみると,都道府県全体の調査結果を公表する自治体数が35,市区町村単位までの調査結果を公表する自治体数が8,学校単位までの調査結果を公表する自治体数が1となっている(乙8の3,4)。    イ 被告も,枚方市立小中学校の生徒を対象に独自の学力診断テストを行っているところ,受験した児童生徒及び保護者に対しては,当該個人及び枚方市全体の各観点別等の分析結果等を送付するが,各学校ごとの各観点別等の分析結果等については,児童生徒及び保護者に送付する取扱いにはしておらず,枚方市教育委員会及び各学校校長が保有している。ただし,原告がした本件条例に基づく情報公開請求に対し,被告は,当初,各学校ごとの成績は本件条例6条7号(事務支障情報)に該当するとして非公開としていたが,平成18年8月3日,大阪地方裁判所において当該非公開処分を違法であるとして取り消す旨の判決がされ,平成19年1月31日,大阪高等裁判所において被告の控訴が棄却され,その後,各学校ごとの成績の一覧表を公開する旨の決定がされている(甲5,6,8)。   (5)各地方公共団体における調査結果の公表・公開状況と文部科学省の反応等    ア 新聞報道等によれば,本件調査の結果の公表に関し,宇都宮市において市内の小規模校2校を除く全小中学校のホームページにその学校の成績が載せられており,東京都墨田区においても区教育委員会が指導して全小中学校がそのホームページに成績を公表しており,広島県福山市も本件調査の結果を公表するよう各学校を指導している。また,文部科学省の担当者は,これらの自治体の対応につき,「各校の判断でホームページに掲載しているならば,実施要領に反しているとはいえない」としている旨報道されている(甲13ないし16)。    イ 新聞報道等によれば,全国学力調査の市町村別・学校別の成績の情報公開請求に関し,平成20年7月8日,鳥取県情報公開審議会は,鳥取県教育委員会が行った非開示決定処分を取り消して開示すべき旨の答申をした。しかし,同教育委員会は,同月29日から同年8月5日までの間に保護者,市町村教育委員会,校長会と意見交換を行った結果,教育現場への配慮を求める意見が予想以上に多かったことなどから,同月11日の臨時委員会において,全国学力調査の市町村別・学校別の成績を開示しないことを決定した。この件に関しては,文部科学省学力調査室が「1県でも開示すれば今後,参加しない自治体も出てくる。非開示は当然」としていること,文部科学省のA事務次官が同教育委員会に対し開示しないよう求めたことを明かしたこと,鳥取県知事は開示を支持していたこと等が報道されている(甲17,18,乙7)。  なお,その他の自治体においては,愛知県春日井市の情報公開審査会が全国学力調査の学校別成績を含む情報の開示を,埼玉県の情報公開審査会が全国学力調査の市町村別・学校別成績を開示すべき旨の答申をしており(甲22ないし24),鎌倉市の情報公開・個人情報保護審査会が全国学力調査における特定の学校の結果につき,不開示とすべき旨の答申をしている(乙11)。    ウ 新聞報道によれば,鳥取県南部町教育委員会は,平成20年10月2日,本件調査の学校別の平均正答率を,情報公開請求をした住民に開示した。これに対し,文部科学省の担当者は,「調査の趣旨に照らして適切とはいえない」とし,同省は,「他教委に広がるのは防ぎたい」,「南部町の対応は適切ではない。各教委には,実施要領に従うよう引き続き強く求めていく」としている旨報道されている(甲20,乙10の1)。    エ 新聞報道によれば,秋田県知事が全国学力調査の市町村別の結果を公表したところ,秋田県内の25市町村教育委員会のうち,少なくとも15の教育委員会が,来年度の参加について見合わせを含めて検討すること,同県藤里町は,平成21年1月8日,市町村別の成績を公表するなら参加しない旨の方針を決定したこと,この点に関し,文部科学大臣は「非常に懸念していたところで,こういったことが続くと,参加したくないというところが出てくる。」と述べていることが報道されている(乙10の2,3)。   (6)被告の照会に対する文部科学省の回答(乙6)  被告(枚方市教育委員会教育長)は,文部科学省(同省初等中等教育局教育課程課学力調査室長)に対し,平成20年7月31日付けで「平成19年度全国学力・学習状況調査について(ご照会)」と題する書面を送付し,「当該実施要領に反して当教育委員会が個々の学校名を明らかにした本件情報の開示を行った場合,今後提供される全国学力・学習状況調査の結果の内容が制限される可能性があるなど,従来の協力関係を維持することが困難になると考えますが,貴職の見解をお伺いします。」旨照会したところ,文部科学省は,平成20年8月29日付け書面で,「貴見のとおりである。」旨回答した。  なお,平成21年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領によれば,調査結果の取扱いや調査により得られる調査結果の取扱いに関しては,平成19年度の実施要領よりもさらに非公表・非公開の徹底を指示・要請する内容となっており,「各教育委員会,学校等においては,提供された調査結果等について,本実施要領に基づいて適切に利用するとともに,管理を徹底するために,必要な措置を講ずること。また,関係機関等に対して調査結果等を提供する場合には,提供を受ける機関等において本実施要領の趣旨が遵守されることを前提とするとともに,本実施要領の趣旨に基づいた取扱いが行われるよう必要な措置を講ずること。」などとされている(平成21年度実施要領9(1)オ)  2 以上の認定事実を前提として,本件情報が本件条例6条4号の「公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」に該当するか否かを検討する。   (1)本件条例6条4号が「市が国,他の地方公共団体又はこれらに準ずる団体(以下「国等」という。)と協力して行う事務事業又は国等から依頼,協議等を受けて行う事務事業に関して作成し,又は取得した情報であって,公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」を公開しないことができる情報として定めた趣旨は,本件手引によれば,「国,府,他の地方公共団体等との協力関係を継続的に維持する観点」,すなわち,「市の行政は,国等の行政と密接に関係し合い,相互に協力し合って運営されなければならない。市が国等と協力して行う事務事業又は国等から依頼,協議等を受けて行う事務事業に関して,市が作成し,又は取得した情報の中には,公開するか否かが国等の政策的判断に委ねられるべき情報が含まれている。このような情報を公開すれば,市と国等との間の協力関係が損なわれる場合があるので,これを防止しようとするものである。」とされ,「協力関係」とは,市と国等との間における当面の又は将来にわたる継続的で包括的な協力関係をいうとされている(乙2)。  このような本件条例6条4号の文言及び趣旨に加えて,市の保有する情報を公開することにより,市政に関する市民の知る権利を保障し,市政に対する市民の理解と信頼を深め,市民の市政参加を促進し,もって地方自治の本旨に即した市政を推進するという本件条例の目的(本件条例1条)に照らせば,ある一定の情報を公開することにより被告と国等との協力関係を著しく損なうと認められるか否かについては,当該情報の公表,公開に関し,国等から被告に対しどのような指示,要請等があったか,公にしないことを条件に提供された情報であるかなどといった点のみならず,当該情報が「公開するか否かが国等の政策的判断に委ねられるべき情報」であるか,すなわち,当該情報の内容,性質に照らし,国等において当該情報を非公開とすべき必要性及び合理性についても検討し,これらを総合的に考慮した上で,被告と国等との協力関係を著しく損なうと認められるか否かを判断する必要があるというべきである。  この点につき,被告は,文部科学省が本件調査における当該市町村の設置管理する各学校に関する調査結果(以下「学校別調査結果」という。)につき非公開とする旨求めていることのみをもって,本件条例6条4号の非公開情報に該当するとし,本件情報が公開された場合に生じる弊害のおそれについて検討する必要は全くないと主張する。しかし,当該情報を非公開とすべき旨の国の指示や要請がいかに不合理なものであっても常に同号により非公開としなければならないとすれば,被告と国が協力して行う事務事業等については,国が被告に対し当該事務事業に関する情報を非公開とする旨指示し又は要請するだけで,容易に非公開情報を作り出すことができることになりかねないところ,そのような事態は,市政に関する市民の知る権利を保障し(本件条例1条),実施機関は市民の知る権利が十分に保障されるように解釈,運用しなければならない(本件条例3条)ものとした本件条例の趣旨,目的に反する結果となることは明らかである。したがって,本件情報が本件条例6条4号に該当するか否かについては,文部科学省が学校別調査結果を非公開とする旨求めていることに加えて,学校別調査結果を非公開とすべき必要性及び合理性,換言すれば,本件情報を公開することにより全国学力調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれの有無,程度等も考慮の上,被告と国等との間における当面の又は将来にわたる包括的な協力関係を継続的に維持するために本件情報を非公開とすべき相当の根拠があるといえるか否かを判断する必要があるというべきであり,被告の上記主張は採用することができない。   (2)文部科学省の指示,要請等について    ア 上記認定事実によれば,文部科学省は,本件調査の実施及び調査結果の提供に先立ち,実施要領及び留意事項通知を通じて,各市町村教育委員会において学校別調査結果を公表してはならない旨を明確に指示しており,かつ,学校別調査結果の開示を求める情報公開請求に対しても,国の調査事務に係る支障(行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号参照)を根拠として,各地方公共団体の情報公開条例に基づき非公開とすることを要請していることが認められる。  そして,本件調査は,文部科学省が,市町村教育委員会等の各参加主体の協力を得て実施することとされており(実施要領6(1)),実施要領に任意に応じ難い内容が含まれている場合には,各参加主体は本件調査に参加しない選択をすることも可能であって(後記のとおり,市町村及び都道府県は本件調査に参加すべき法律上の義務まで負うものではなく,広く知られているとおり,愛知県犬山市の教育委員会は,実際に本件調査に参加していない。),留意事項通知1にもあるとおり,枚方市教育委員会を含む各参加主体は,実施要領の内容を前提として,本件調査に参加したものというべきである。そうすると,被告の枚方市教育長が本件情報を公開するとすれば,文部科学省の実施要領を前提として本件調査に参加していながら,あえてこれに反する行為をすることになるのであるから,国(文部科学省)の被告(枚方市教育委員会)に対する信頼が失われるにとどまらず,実施要領の内容を前提として本件調査に参加した他の市町村(市町村教育委員会)等の被告(枚方市教育委員会)に対する信頼が失われ,その協力関係を継続的に維持することに支障が生ずることは明らかである。    イ しかも,安倍内閣総理大臣(当時)が,国会において,個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行わない旨述べていること,本件決定後も,新聞報道等によれば,文部科学省は,都道府県知事等による実施要領に反する公表行為や,情報公開請求に対する非公開情報の公開に対し,反対する旨の見解を明らかにしていること,平成21年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領は,平成19年度の実施要領よりもさらに非公表・非公開の徹底を求める内容となっていること,文部科学省は,本件情報を公開すると従来の協力関係を維持することが困難になるか,という内容の被告の照会に対し「貴見のとおり」である旨の回答をしていることなども考慮すれば,文部科学省は,各参加主体が学校別調査結果を公にしないことを全国学力調査の円滑かつ確実な実施のための不可欠の条件と位置づけた上,各参加主体に対し,学校別調査結果を公にしないよう一貫して求めるとともに,これに反する対応を認めないという態度を明確にしているということができ,これらの点からも,枚方市教育長が本件情報を公開するとすれば,その協力関係を継続的に維持することに支障が生ずることが裏付けられる。    ウ もっとも,実施要領においては,情報公開請求に対する教育委員会等の対応について,「それぞれの情報公開条例に基づく同様の規定を根拠として,適切に対応する必要があること」とされており(実施要領10(6)),文理上,教育委員会等の個別の判断にゆだねる趣旨であるようにも読めなくはなく,原告もそのような解釈を前提とした主張をしている。しかし,実施要領10(6)は,上記の定めに先立って,学校別調査結果等,調査により得られる分析データのうち公表する内容を除くものは,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号の規定を根拠として同法における不開示情報として取り扱うこととする旨明記しているのであって,その趣旨からすれば,上記定めは,各地方公共団体の情報公開条例にも同法5条6号と同様の非公開事由を定めた規定が設けられていることを前提に,上記の情報が当該規定に該当するものとして,これを非公開情報として取り扱うべきことを定めたものであって,情報公開事務が各地方公共団体の自治事務(地方自治法2条8項)の範ちゅうにあり,その運用に国の立場から制約を加えることが同法に抵触するおそれがある(同法245条の3第6項参照)ことから,直截な表現を避け,「適切に対応する必要がある」という表現にとどめたものと解される。したがって,実施要領の上記定めをもって,学校別調査結果を公開するか否かを教育委員会等の自由な判断にゆだねる趣旨であるということはできず,その限度において,原告の上記主張には理由がない。    エ そこで,以上を前提に,本件情報(学校別調査結果)を非公開とすべき必要性及び合理性,すなわち,本被告と国等との間における当面の又は将来にわたる包括的な協力関係を継続的に維持するために本件情報(学校別調査結果)を非公開とすべき相当の根拠があるといえるか否かについて検討する。   (3)本件情報を非公開とすべき必要性,合理性について    ア 前記のとおり,本件調査は,文部科学省が,(ア) 全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより,教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ること,(イ) 各教育委員会,学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図ることを目的として,国・公・私立学校の小学校第6学年及び盲・聾・養護学校小学部第6学年並びに中学校第3学年,中等教育学校第3学年及び盲・聾・養護学校中学部第3学年の原則として全児童生徒を対象として実施する悉皆調査である。  そうであるところ,教育基本法5条2項は,義務教育として行われる普通教育は,各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い,また,国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする旨規定し,同条3項は,国及び地方公共団体は,義務教育の機会を保障し,その水準を確保するため,適切な役割分担及び相互の協力の下,その実施に責任を負う旨規定しているほか,同法16条2項は,国は,全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため,教育に関する施策を総合的に策定し,実施しなければならない旨規定し,同条3項は,地方公共団体は,その地域における教育の振興を図るため,その実情に応じた教育に関する施策を策定し,実施しなければならない旨規定している。  これらによれば,本件調査は,教育に関する施策を総合的に策定し,実施すべき権限と責務を有する国(文部科学省)において,全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上を図るための施策として,自らが実施主体となって,小学校等及び中学校等の義務教育の修業年限の各最終学年にある全国の全児童生徒を対象とする学力・学習状況についての調査を実施した上,全国の各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握,分析することにより,教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図るとともに,調査結果を参加主体である都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等に対して提供することにより,これらの参加主体やその設置管理する学校において,全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図る制度であるということができるのであって,その目的,具体的施策内容及び実施主体である国と参加主体である地方公共団体(都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等)との役割分担等は,正に教育基本法5条3項,16条2項及び3項の趣旨に沿うものということができる。  上記のような本件調査の目的及び内容等にかんがみると,本件調査においては,国(文部科学省)において,全国の各地域における学力・学習状況を漏れなく,かつ,正確に把握すること及び,その調査結果が国とともに義務教育の実施に責任を負う地方公共団体(都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等)に漏れなく提供されることが,その目的を達成する上で不可欠の前提を成すものということができる。そうであるとすれば,少なくとも,義務教育を施すことを目的とする学校(小学校等及び中学校等)を設置し,教育基本法上国との協力の下に義務教育の実施に責任を負う立場にある市(東京都の区を含む。以下同じ。)町村及び都道府県は,本件調査に参加することにより本件調査に係る国の施策に協力すべき責任を負うと解される(教育基本法5条2項参照)。  もっとも,本件調査は,各参加主体の協力を得て実施することとされているが(実施要領6(1)),これは,法令上,教育に関する地方自治の原則が採用されており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条,32条,43条等),地方教育行政の組織及び運営に関する法律の解釈上,文部科学大臣が各教育委員会に対し学力調査の実施を義務として要求(強制)する権限を導き出すことができないからであると考えられ(最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照),以上説示した本件調査の目的及び内容等からすれば,市町村及び都道府県は,本件調査に参加すべき法律上の義務まで負うものではないものの,教育基本法上,少なくとも本件調査に参加することによりその目的の達成に協力すべき責任を負うと解されるのであって,本件調査に参加することが前提とされているものというべきである。    イ ところで,前記認定事実のとおり,実施要領は,学校別調査結果につき,当該学校における自主的な公表を除いて参加主体(都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等)が個々の学校名を明らかにした公表を行わないことを定めており,情報公開請求に対しても,各地方公共団体の情報公開条例に行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号と同様の非公開事由を定めた規定が設けられていることを前提に,上記の情報が当該規定に該当するものとして,これを非公開情報として取り扱うべきことを定めている。そして,各都道府県教育委員会及び市町村教育委員会は,その設置する学校が自ら自校の結果を公表しない限り,域内の学校を含めて学校別調査結果を個々の学校名を明らかにして公にされることがないという前提で本件調査に参加しているのであり,参加主体のいずれかにおいてその域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした学校別調査結果が公表されるなど後になってこの前提が覆されることは,実施要領を前提に本件調査に参加している各参加主体に少なからず混乱を引き起こすおそれがあり,ひいては,全国学力調査ないし当該調査に係る国(文部科学省)の施策そのものに対する各参加主体の信頼を損なうことにもなりかねない。  実際にも,前記認定事実によれば,鳥取県教育委員会においては,全国学力調査の市町村別・学校別の成績の情報公開請求について,同県情報公開審査会の公開すべき旨の答申を受けたにもかかわらず,保護者,市町村教育委員会,校長会に教育現場への配慮を求める意見が多かったことなどから,当該情報を非公開とする立場を維持し,また,秋田県においては,知事が全国学力調査の市町村別の結果を公表したところ,県内の25市町村教育委員会のうち少なくとも15の教育委員会が次年度の参加について見合わせを含めて検討するとしたほか,市町村別の成績を公表するなら参加しない旨の方針を決定した町も存したというのである。これらの事実は,教育現場には学校別調査結果を個々の学校名を明らかにして公表することについての否定的意見が根強くみられることを裏付けるものであるとともに,上記のような態様で学校別調査結果を公表した場合に市町村を始めとする各参加主体の間に混乱を引き起こすおそれが杞憂にとどまらない現実のものであることを如実に物語るものということができる。  しかも,教育現場において,上記のような態様で学校別調査結果を公にすることに対する反対が根強い背景には,学校別調査結果が公開されれば,域内の学校がその調査結果(数値データ)により序列化されることとなって,当該調査結果がその性格上学力の特定の一部分を表すにとどまるものであるにもかかわらず,それによって当該学校の教育活動全般が評価されたり,学校間に成績競争の風潮を生み,特定の科目に偏った指導が行われるなど,様々な弊害の発生が危惧されるという点にあると解されるところ,これらの弊害については,かつて文部科学省が実施した全国学力テストにおいても同様に指摘されていたものであり,実施要領の作成に先立つ中央教育審議会答申,国会での審議,全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議の報告等においても指摘されてきたものである上,インターネットが社会に普及し,一般市民による不特定多数者に対する情報発信や意見表明が容易となった今日においては,上記の弊害はより一層深刻なものとなる可能性もあることも考慮すれば,これを単なる杞憂に過ぎないということはできない。そして,これらの弊害が現実化した場合には,全国学力調査による児童生徒の学力・学習状況の正確な把握が困難となって(前記認定事実からは,受験を忌避する児童生徒が出たり成績を上げるための作為が行われたりする可能性も否定することができない。),全国学力調査の前記目的を損なうことになるのみならず,各学校における義務教育の適正かつ円滑な実施を阻害することとなって,教育基本法の定める義務教育の理念等にももとることになりかねないのである。  これらの点からすれば,学校別調査結果が個々の学校名を明らかにして公開されるならば,当該学校が自ら自校の結果を公表しない限りこれを公にされないという実施要領の定めを信頼して全国学力調査に参加した参加主体(各都道府県教育委員会及び市町村教育委員会)に混乱を引き起こし,全国学力調査ないし当該調査に係る国(文部科学省)の施策そのものに対する信頼を損なうおそれがある上,上記のような態様で学校別調査結果を公にすることによる序列化,過度な競争等の様々な弊害の発生が危惧されており,これを理由とする教育現場の反対も根強いことも考慮すると,将来,全国学力調査において,多くの市町村教育委員会等の協力を得られなくなるおそれがある(過去の全国学力テストにおいても,前掲最高裁判決の事案にみられるように,教育現場において激しい抗議行動がみられたことは広く知られているところである。)ほか,過度な競争の結果として全国学力調査の結果に児童生徒の学力・学習状況が正確に反映されない事態が生ずるおそれがあり,しかも,これらのおそれは一般的,抽象的な可能性や危惧感にとどまらず,十分に根拠のあるものということができる(前記のとおり,市町村及び都道府県は,教育基本法上,少なくとも本件調査に参加することによりその目的の達成に協力すべき責任を負うと解されるものの,本件調査に参加すべき法律上の義務まで負うものではないのであって,前記認定事実に照らしても,これらの参加主体が教育現場の根強い反対の声を受けて全国学力調査への参加を見合わせることは十分に考えられるところである。)。  そして,上記のような事態に陥れば,国(文部科学省)は,全国学力調査を通じて,全国の児童生徒の学力・学習状況等を漏れなく,かつ,正確に把握することができなくなり,その結果,児童生徒の学力・学習状況の分析に基づいて教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ることが不可能ないし著しく困難となり,また,各地方公共団体(教育委員会)においても,国(文部科学省)から提供を受けた調査結果に基づいて全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図ることが不可能ないし著しく困難となって,全国学力調査の目的の達成に支障が生じるにとどまらず,全国学力調査を実施する意義そのものを没却することにもなりかねない。前記のとおり,全国学力調査の目的,具体的施策内容及び実施主体である国と参加主体である地方公共団体(都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等)との役割分担等は,教育基本法5条3項,16条2項及び3項の趣旨に沿うものということができるのであって,上記のような事態に陥ることを避けるべく,学校別調査結果について個々の学校名を明らかにした公表を行わないものとすることは,全国学力調査を適切に遂行し,もってその目的を達成する上で,必要不可欠であり,かつ,教育基本法の定める義務教育の理念等にも沿う合理的なものということができる。    ウ 原告は,被告は本件調査に先立って枚方市立小中学校の児童生徒を対象として独自に実施した学力診断テストについて,本件条例に基づく情報公開請求に対し各中学校別の平均得点及び到達評価に係る情報を非公開とした決定を違法として取り消した平成19年1月31日の大阪高裁判決を受け入れたという特殊事情があり,また,各地方公共団体の実情(情報公開条例の規定の内容,人口,学校の規模,自治体独自の学力テスト結果の公開状況,学校選択制の実施の有無等)によって判断は異なり得るのであり,本件情報が公開されても他の参加主体の協力が得られなくなるおそれは極めて低いなどと主張する。しかしながら,前記認定事実による限り,被告において本件情報が公開されることとなれば,他の参加主体の協力が得られなくなるおそれがあると十分な根拠をもっていうことができるのであり,原告が主張するようにそのおそれが極めて低いということはできない。  また,原告は,本件情報を公開しても学校間に序列化が生じるおそれや過度な競争が生じるおそれは極めて乏しいなどと主張する。  なるほど,被告においては,枚方市立小中学校の児童生徒を対象として独自に実施した学力診断テストの各学校別成績一覧が公開されているところ(甲6),これによって枚方市立各小中学校の間に序列化や過度な競争が生じている具体的な事実を認めるに足りる証拠は提出されていない。しかしながら,上記学力診断テストは,学習指導要領に示された内容についての習得状況を把握し,各学校における教育課程や指導方法の改善に役立て,枚方市立小中学校児童生徒の学力の向上を図ること,学習の到達度を児童生徒や保護者等に明らかにし,努力目標を示すことにより学習意欲を引き出すこと,及び各学校の行う評価の客観性や信頼性を高めることを目的とするものである(甲5)ものであって,全国学力調査(本件調査)とはその目的を異にするものである上,全国学力調査(本件調査)における教科に関する調査内容は,国語・算数ないし国語・数学について,身につけておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や,実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能等(知識)及び知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や,様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力などにかかわるもの(活用)であることなどからすれば,本件情報が公開されることによって前記のような学力の特定の一部分についての調査結果のみに基づいた序列化や過度な競争の発生等の様々な弊害が生じないと直ちに断じることもできない。かえって,前記認定のとおり,本件調査の実施に先立つ中央教育審議会答申,国会での審議,全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議の報告等においては,前記のような弊害の発生に対する危惧が繰り返し指摘されてきたのみならず,本件調査の実施後の学校別調査結果等の公表をめぐる議論からは上記弊害の発生に対する危惧を理由とする教育現場の根強い反対が看取されるのであり,これらの事実は,学校別調査結果について個々の学校名を明らかにした公表を行うことによる学校の序列化ないし過度な競争の発生等の弊害が発生するおそれが十分に根拠のあるものであることを裏付けるに足りるのみならず,このような情報の公開の是非についての社会一般のコンセンサスがいまだ成立していないことを如実に物語るものということができる(原告が主張するように,上記のような態様で学校別調査結果を公開することが地域の学校間の学力差の解消等に資する面があることは否定できないとしても,他方,学校間の序列化や過度な競争を招くという弊害があることもまた一概に否定できないのであり,学校別調査結果を公開することによる利益とその弊害を比較して,常に前者が後者に勝るというような社会一般のコンセンサスはいまだ形成されていないというべきである。)。また,被告において,実施要領に反する取扱いをすれば,上記のような弊害の発生を危惧する教育現場の声を受けて,他の参加主体の協力が得られなくなる現実的なおそれがあることは,前述したとおりである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。   (4)小括    ア 以上検討したところによれば,学校別調査結果である本件情報については,文部科学省が参加主体(各都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等)に対し実施要領等を通じて個々の学校名を明らかにした公表をしないよう求めており,枚方市教育委員会も実施要領の内容を前提として本件調査に参加したものであることに加えて,上記のような態様で学校別調査結果を公にすることについては学力の特定の一部分についての調査結果のみに基づいた序列化や過度な競争の発生等の様々な弊害の発生が危惧されており,教育現場の反対も根強いため,本件情報を非公開としなければ,全国学力調査につき他の参加主体の協力が得られなくなるおそれがあるほか,過度な競争の結果として全国学力調査の結果に児童生徒の学力・学習状況が正確に反映されない事態が生ずるおそれがあり,これらのおそれは十分に根拠のあるものということができるところ,これらのおそれが現実化した場合には,国(文部科学省)は,同調査を通じて,全国の児童生徒の学力・学習状況を漏れなく,かつ,正確に把握することができなくなり,その結果,児童生徒の学力・学習状況の分析に基づいて教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ることが不可能ないし著しく困難となり,また,各地方公共団体(教育委員会)においても,国(文部科学省)から提供を受けた調査結果に基づいて全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図ることが不可能ないし著しく困難となって,同調査の目的の達成に支障が生じるにとどまらず,同調査を実施する意義そのものを没却することにもなりかねないから,学校別調査結果について個々の学校名を明らかにした公表を行わないものとすることは,同調査を適切に遂行し,もってその目的を達成する上で,必要不可欠なものであり,かつ,教育基本法の定める義務教育の理念等にも沿う合理的なものということができる。そうであるとすれば,被告と国等との間における当面の又は将来にわたる包括的な協力関係を継続的に維持するために本件情報を非公開とすべき相当の根拠があるということができるから,本件情報は,本件条例6条4号にいう「公開することにより,市と国等との協力関係を著しく損なうと認められるもの」に該当するというべきである。    イ 原告は,本件情報は本件手引が掲げる本件条例6条4号の非公開情報に係る小分類や例示に当てはまらない旨主張する。しかし,そもそも,本件手引が掲げるこれらの小分類や例示は,あくまで被告内部における取扱いの基準を示したものにすぎない上,前記認定事実に照らせば,本件情報は,本件手引が掲げる例示のうち「調査の結果に関する情報であって,国等において統一的に公表する必要のあるもの,国等において公表するまで公表してはならない旨の指示があるもの等」に該当するものということができるのであって,いずれにしても,原告の上記主張は採用することができない。  また,原告は,予備的主張として,実施要領7(4)イの「市町村教育委員会は,域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと」という部分は,知る権利の保障(憲法21条,本件条例1条)に反し,枚方市においては違憲又は違法であり,無効となるなどと主張するが,上記主張を採用することができないことは,以上説示したところから明らかである。    ウ 以上のとおり,本件対象文書に記録された本件情報は,本件条例6条4号の非公開事由に該当するから,これを非公開とした枚方市教育長の本件決定は,適法である。  3 結論  以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。  (裁判長裁判官 西川知一郎 裁判官 徳地淳 裁判官 釜村健太)      〈以下省略〉