国際社会論8 Q 植民地は日本の韓国併合のイメージが強くて、かなり強制的な印象が強かったのですが、他の国は日本とは異なる統治だったということでしょうか。 A 研究者によって異なる見解があると思いますが、基本的に植民地経営は、強制的なものだと思います。日本だけが特別とはいえないのではないでしょうか。しかし、例えばイギリスなどは、長い統治期間があるので、当初はともかく、次第に「学習」して、より上手な統治の方法を身につけていったということ、そのために、当初のかなり強引な統治の印象を和らげることに成功した感があるということはいえるでしょう。イギリスがインド統治をする際には、セポイの乱という事実上の戦争があり、それで征服したのですから、強制的だったはずです。  植民地というのは、必ず「反乱」がありますから、それを過酷に弾圧するのは、どの国でも同じで、合理的に考えれば、植民地が割に合わないということが、現在では定説になっています。 Q 江戸時代の武士たちは、なぜ貧しい生活で暮らしていたのでしょうか。武士たちが政治を動かしていたので、豊かな生活をしようとすれば、可能なのかと考えたのですが、どうなのでしょうか。自ら進んで貧しい暮らしを選んだのですか? A まずは、江戸時代は、海外貿易を実質的にしていなかったわけですから、国内の富が産業革命以後のような増加はなかったわけです。従って人口の増加も少しずつであり、全体としての富の増大がない中で、安定した政権を維持するためには、そうせざるをえなかったといえるのではないでしょうか。結局商業や工業に依拠した政権ではなく、農業に依拠した政権なので、「節約」をせざるをえなかったと考えられます。 Q 日本の援助の仕方の現在のメリットはないのでしょうか。 A 何をメリットと考えるかによるでしょう。日本政府はこれまでのやり方がメリットがあると考えるからずっと採用しているのだと思います。そのメリットとは、基本的には、日本の産業社会にとって有効だということでしょう。政府間援助なので、政府の意向を通しやすい、政府の意向とは、産業界の意向が柱ですから、援助を具体化する中で、日本の産業がそこで活動する場を確保しやすいということでしょう。  オランダ方式だと、現地の人たちの意向、それもかなり住民の意向にそうものですから、そこに何か工事が生じたとしても、それは現地の業者に発注されるのではないでしょうか。  「名誉」より「実益」だというのであれば、日本の方式にもかなりのメリットがあるともいえます。ただ、それが「持続可能性」という点で考えると、少し違う評価になると思われます。 Q 戦国時代の人が英国と闘ったら勝てるのか、疑問に思いました。 A 日本の戦国時代の、ヨーロッパの覇者はスペインですから、闘うとしたらスペインでしょう。世界で最初に、「鉄製の軍艦」をつくったのは、織田信長なので、海戦をやれば、日本が有利だった可能性が高いと言われています。  しかし、ヨーロッパでイギリスに覇権が移ったころは、日本は既に江戸時代で鎖国をしていました。そして、江戸時代は、世界史的にもめずらしい「軍備縮小」時代であったので、イギリスとの戦争に勝てたかといえば、たぶん無理だったでしょう。 Q 豊かな国が北半球に、貧しい国が南半球に集中しているのは何故でしょう。何か地理的な要因があるのでしょうか。 A まず最初の高度な文明は、何故暑い、あるいは暖かい地方で発生したのか。そして、近代文明は何故温暖、あるいは多少寒い地域で発生したのか。両方を視野にいれる必要があるでしょう。  人類は、暑いアフリカで発祥したことは間違いないと言われています。それが、文明が発達するに従って、寒い地域でも住めるようになって、少しずつ寒い北の方に移動していったわけです。日本でも、江戸時代までは、北海道にはあまり人が住んでいませんでした。  寒い地方で生きるためには、かなりきちんとした住環境が必要で、外気から守り、暖房設備を整えることができないと生活できないわけです。  したがって、古代文明が、そういうことが必要のない暖かい地方で生じたことは、自然なことだったと思います。その後、住環境が改善され、寒い地方でも十分快適に住めるようになると、昼間、活動的になれるのはどちらかというと、暑い地方では、冷房施設がない限り、昼間激しい活動をすることは、極めて難しいそうです。日中の暑い間は体を休める必要があり、朝夕の涼しい時間帯に活動するということになるか、あるいは昼間の活動は、ゆったりとしたものになる。そうすると、やはり、温暖な地方が有利になり、あらゆる面で北の地方での活動が成果を生んでいったというのが、まずは基本と考えてよいのではないでしょうか。もちろん、更にさまざまな要因が重なったと思いますが。 Q 途上国が豊かになると自立するから、援助をある程度おさえているのでしょうか。 A 国によって政策が異なると思いますが、アメリカなどは、途上国にはあまり援助をしていません。アメリカの援助対象は実は先進国が多いのです。例えば、日本にはたくさんのアメリカの軍事基地があり、莫大な軍事予算が使われています。それは、基本的に日本への援助として計上されているはずです。  アメリカに限らず、先進国のメジャー企業は、途上国が競争相手になるのは好ましくありませんから、進出する際にも、持続的に途上国の産業が自国に従属的になるように工夫します。その代表的な例が、緑の革命(化学肥料を売る)や一代限りの種子を売るというような農業改革の援助、そして、現地工場をつくっても、利益は本社に多く入るような仕組みでの生産など。  自分たちを追い越すことを可能にするような援助をする国があるわけないのですから、やはり、途上国が先進国に追いつき、追い越すのは、「自力」ではないでしょうか。援助に頼りきれば、「従属」が固定されることになります。 Q 今の途上国が今の日本くらい発展をしたら、日本やアメリカはどうなってしまうのでしょうか。 A そうならないように、OECDなどを中心として、先進国がさまざまな分野での研究をしているといえるでしょう。PISAという国際学力テストもその一環です。  結局途上国は賃金が安いので、既に確立した技術を使って生産をする場合には、先進国より有利なわけです。だから、電気製品などは、どんどん途上国に生産の中心が移行していきます。従って、先進国が優位性を保てるのは、通常の労働力に頼るのではなく、高度な専門的な知識があって初めて可能なような生産や、生産技術を作り出すことにあると考えられていて、そうした能力を教育で育成していくために、PISAというテストが実施されています。  オランダは、九州と同じ面積の国ですが、金額ベースでの農業輸出は、世界で第三位です。それは、オランダ農業が高度な知識集約型の農業だからです。そういうように、高い技術を前提にした産業で優位にたてるかが、先進国であり続けるためには必要だと考えられているのです。