国際社会論 第5回 Q 東日本と西日本では電気のやりとりができると聞いたことがあります。何故そうしないのでしょうか。 A ご承知のように、東日本と西日本とでも、交流電気の周波数が違います。これは発電が出発するときに、それぞれの電力会社が取り入れた国が異なる(アメリカとドイツ)ためのようです。テレビもアメリカとヨーロッパは異なりますが、日本ではアメリカで統一されていました。デジタルになっても、国際的に統一されているわけではありません。  日本の電力会社は、民間で地域管轄になっているために、国家的な統一ができなかったのでしょう。このままではやりとりはできないので、周波数を揃える装置を通す必要があります。それがなかなか大変なようで、現在の施設ではやりとりできる電力量にかなり制限があるということです。一度こうなってしまうと、統一するということは、不可能に近いでしょう。  鉄道の軌道も、明治に鉄道を作るときに、広軌にするか狭軌にするかでもめたそうですが、コストの面で、狭軌の方が車輛の費用が低いので、そのようにしたのですが、世界の大勢は広軌で、スピードもまったく違うので、その後後悔したようですね。新幹線はさすがに広軌ですが。 Q 原発の被害は小さい子どもの方が受けやすいと聞いたのですが。 A 放射能が体に害があるのは、細胞に影響を与えて、細胞分裂する際の遺伝子を異常にしてしまうことがもっとも大きな害です。生物は細胞を同じように複製して、細胞を新鮮な状態に保つわけですが、正確に複製できないと、もともとと違う細胞になってしまい、いろいろと不都合が起きるわけです。  細胞分裂では、大人になるに従って、その速度が遅くなります。それは傷ができた場合、かさぶたがどの程度で消えるかを見るとよくわかります。私の子どもが2、3歳のころ、傷が2、3日ですっかり消えているのを見て、かなりショックを受けたことがあります。現在の私だと、ひょっとして2週間以上かかるかも知れません。  人間のシステムでは、細胞分裂の際に、異常が起きると、修復する機能が働くのだそうです。しかし、修復機能がきちんと働くためには、ある程度の時間が必要なのだそうで、小さな子どもの場合、細胞分裂の速度が非常に早いために、修復が間に合わないことが多くなり、結果として、分裂で異常が起きたときに、修復されないまま複製されてしまう。ところが、大人は細胞分裂が遅いだけ、修復機能が働く時間的余裕があるために、子どもよりは、異常の修復がしやすいということです。そのために、子どもの方が放射能汚染の影響を受けやすいわけです。  もちろん、子どもの場合には余命が長く、大人の場合は短いので、被害を受ける期間が長いということもあるでしょう。 Q 福島は永久に住めないのでしょうか。 A それは誰にもわからないと思います。広島の爆心地でもその後、それほどたたないときに住むようになったわけだし、もちろん、原爆病は発生しているけれども、住んでいることも事実です。ただ、放出した放射性物質の量が比較にならないほど福島の方が多いこと、現在でも、閉じ込めつつあるけれども、いつ再度爆発が起きるかわからないということもあり、広島よりは、ずっと困難な状況が続くことは否定できないように思われます。ただ、事故もあるけど、事故を封じ込める技術もあるということで、事態が好転することを期待しましょう。 Q 原発が停止して困っている人はやはりいるのでしょうか。 A こまっていることの正当性は別として、現実問題として困っているひとたはいるといえます。電力会社は本来発言がなされてして収益をあげるわけですが、停止していても、かなりのコストがかかりますから、費用がかかって収益がない状態ですから、電力会社はとにかくこまっていると思います。そして、そこで働く人たちも、仕事が制限されるし、またいまある人も、いつ切られるかわかりませんので、それも不安でしょう。電力会社は膨大な関連会社をもっていますので、関連会社もこまっていると考えられます。  もちろん、逆に、原発が動かなければ代替機関が動いているわけで、そうしたところでは逆に利益をえているといえます。火力発電所に提供している石油会社側など。 Q 地表深くにあるマグマにまとめて危ない物を捨てて溶かすっていう手段は駄目なんですか? A 実現できればいいのかれ知れませんが、それでも放射性物質は残るでしょうし、そもそもマグマのところまでどうやってその物をもっていくんでしょうか。 Q 保安院のひとは東電の手下みたいな感じになりますか?だとしたら、東電に有利なように動いてしまうのではないかと思うのですが、そのような人たちの情報は信憑性に欠けるのではないでしょうか。 A 東電の監督庁である経済産業省の中に、保安院があり、かつ、経済産業省の役人の最も重要な天下り先のひとつが電力会社であるということから、その癒着は以前から指摘されていました。しかし、このような大惨事の事故が起きないでいたので、そのことが社会的に本気に問題にされなかったわけですね。だから、信憑性に欠けるということは、今回の事故で明白に認識されるようになったといえるのだと思います。ではどうすればいいのか、という問題は残りますが。形式的に独立した組織にすれば信憑性がでるか、原子力研究者の多くが電力会社の資金をもらって研究しているわけだし、実際に電力会社は役人の天下りを受け入れているので、組織を別にしても、同じ構造が温存される可能性はありますね。 Q 新しい原子力技術が実用化されたとして、今の日本で原発は作られるでしょうか。 A 今の状況では、停止原発が稼働するのにこれだけ問題になっているのですから、新しい原発を設置するのは、かなり難しいのではないでしょうか。  それから、原発の安全を確保する「技術」は実は相当高いレベルで実全しています。問題は、それをお金をかけて実現するかどうかなのです。もちろん、それでも防げないことはあるでしょうが、昨年の地震と津波で事故を起こしたのは福島第一原発だけなわけです。それ以外は、とにかく耐えたわけですね。福島第一原発は、もともと相当な問題原発だったわけで、起こるべくして起きた事故だったわけです。そういう歪んだコスト意識をどうやって防ぐかという課題もかなり大きなことでしょう。