裁判年月日 平成22年 6月18日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決 事件番号 平20(行ウ)234号 事件名 公文書部分公開決定処分取消請求事件 裁判結果 一部却下、一部棄却 上訴等 確定 文献番号 2010WLJPCA06189001 主文  1 本件訴えのうち,次の各請求に係る部分をいずれも却下する。   (1) 大阪府教育委員会が原告に対し平成20年9月16日付けでした部分公開決定の非公開部分のうち,同委員会の平成21年11月11日付け変更決定により変更された部分の取消請求   (2) 上記平成20年9月16日付け部分公開決定において非公開とされた部分の公開決定の義務付け請求   (3) 大阪府知事が原告に対し平成20年10月16日付けでした部分公開決定の非公開部分のうち,同知事の平成21年11月11日付け変更決定により変更された部分の取消請求   (4) 上記平成20年10月16日付け部分公開決定において非公開とされた部分の公開決定の義務付け請求  2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。  3 訴訟費用は原告の負担とする。    事実及び理由 第1 請求  1(1) 大阪府教育委員会が原告に対し平成20年9月16日付けでした原告の同年8月31日付け公開請求に対する部分公開決定(教委小中第○号)のうち,非公開とした部分を取り消す。   (2) 大阪府教育委員会は,原告に対し,上記部分公開決定に係る行政文書の非公開部分の公開決定をせよ。  2(1) 大阪府知事が原告に対し平成20年10月16日付けでした原告の同年9月17日付け公開請求に対する部分公開決定(秘総第○号)のうち,非公開とした部分を取り消す。   (2) 大阪府知事は,原告に対し,上記部分公開決定に係る行政文書の非公開部分の公開決定をせよ。 第2 事案の概要  1 事案の骨子  本件は,文部科学省が全国の小学校6年生及び中学校3年生を対象にして行った全国学力・学習状況調査(以下「全国学力調査」という。)に関し,原告が,大阪府情報公開条例(平成11年大阪府条例第39号。以下「本件条例」という。)に基づいて,大阪府教育委員会(以下「府教委」という。)に対して,全国学力調査結果のうち市町村別及び学校別データが記載された行政文書の公開を,大阪府知事(以下「府知事」という。)に対して,同じく市町村別データが記載された行政文書の公開を,それぞれ請求したところ,府教委及び府知事から,それぞれ本件条例8条1項4号(事務執行支障情報)該当を理由とする行政文書の一部を非公開とする部分公開決定(以下「本件各決定」という。)を受けたため,本件各決定のうち非公開とされた部分の取消し及び本件各決定に係る行政文書の非公開部分の公開決定の義務付けを求めている事案である。  2 本件条例の定め   (1) 本件条例6条は,何人も,実施機関(知事,教育委員会等をいう。同条例2条2項)に対して,行政文書の公開を請求することができると規定する。   (2) 本件条例8条1項柱書きは,実施機関は,同項各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開しないことができる旨規定し,同項4号は,「府の機関又は国等の機関が行う取締り,監督,立入検査,許可,認可,試験,入札,契約,交渉,渉外,争訟,調査研究,人事管理,企業経営等の事務に関する情報であって,公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」(以下「事務執行支障情報」という。)と規定する。  3 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含むものとする。)   (1) 全国学力調査の実施(乙3から6まで,弁論の全趣旨)  文部科学省は,学校の設置管理者である市町村教育委員会等の協力を得て,平成19年度の全国学力調査(以下「平成19年度調査」という。)を平成19年4月24日に,平成20年度の同調査(以下「平成20年度調査」といい,平成19年度調査と併せて「本件調査」という。)を平成20年4月22日に,それぞれ全国の小学校6年生及び中学校3年生を対象として実施した。  都道府県教育委員会は,域内の市町村教育委員会に対して指導・助言・連絡等をするなど調査に協力し,都道府県知事は,私立学校の所轄庁として調査に協力した。   (2) 府教委に対する行政文書公開請求の経緯等(甲1,8,9,乙2,9,10,19から21まで)    ア 原告は,平成20年8月31日,本件条例に基づいて,実施機関である府教委に対し,公開を求める行政文書の名称その他の公開請求に係る行政文書を特定するに足りる事項の内容(以下「行政文書の名称等」という。)を「過去2回 文部科学省が実施した全国学力学習状況調査結果の内 市町村及び学校別データー(学力調査部分のみ)」として,行政文書の公開を請求した(以下「本件府教委請求」という。)。    イ 府教委は,本件府教委請求に対し,同年9月16日付け部分公開決定通知書により,上記請求に係る対象文書を別紙1「行政文書の名称」欄記載の各文書(以下「本件府教委文書」という。)と特定の上,本件府教委文書のうち,別紙1「公開しないことと決定した部分」欄記載の各部分を公開しないこととし,それ以外の部分を公開する旨の部分公開決定(以下「本件府教委決定」という。)をした。  本件府教委決定の通知書において,府教委が本件府教委文書のうち一部を公開しない理由は,「大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。」とされ,その具体的な理由は下記のとおり記載されていた。    記  「平成19・20年度全国学力・学習状況調査」の「小学校調査」及び「中学校調査」は,国が実施主体となり,市町村教育委員会がそれぞれの判断で参加することにより実施された調査であって,「平成19・20年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(文部科学省初等中等局長通知)において,文部科学省は,調査結果について,市町村名・学校名を明らかにした公表がされることになると,市町村間や学校間の序列化や過度な競争が生じるおそれがあり,都道府県教育委員会は域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこととしているものである。  また,文部科学省は,当該調査に係る実施要領において,市町村教育委員会が,保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため,当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては,それぞれの判断にゆだねること,としており,府教育委員会において,各市町村教育委員会に対し,自主的なデータの公表を要請しているところである。  そのため,本件行政文書(非公開部分)を公開すると,市町村教育委員会との信頼関係を損ない,次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど,正確な情報が得られなくなり,全国的な状況を把握できなくなるなど,当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。    ウ 大阪府情報公開審査会は,平成21年6月15日,原告とは別の請求者が行った本件府教委文書の部分公開決定に対する異議申立てに関し,本件府教委文書の非公開部分のうち,(1)市町村別の学校実施数,(2)市町村別及び学校別の児童数又は生徒数,(3)市町村別の平均正答数及び平均正答率(以下「市町村別調査結果」という。)が記録された部分を公開すべきである旨答申した(以下「別件答申」という。)。    エ 府教委は,別件答申を契機として従来の方針を変更し,同年11月11日,職権により,原告に対し,本件府教委決定において公開しないと決定した部分のうち,(1)市町村別の学校実施数,(2)市町村別及び学校別の児童数又は生徒数,(3)市町村別の平均正答数及び平均正答率が記録された部分(α町の小学校及び中学校並びにβ町,γ町,δ村,ε町及びζ町の中学校に係る部分並びに平成19年度におけるη町及びθ町の中学校に係る部分を除く。)を公開する旨の,本件府教委決定を一部変更する決定(以下「本件府教委変更決定」という。)を行った。  これにより,最終的に本件府教委文書のうち公開されなかった部分は,①学校別の平均正答数及び平均正答率が記録された部分(別紙2の1から4までの黒塗り部分,以下「学校別調査結果」という。),及び②小学校又は中学校が1校しかない市町村に係る市町村別の平均正答数及び平均正答率(別紙2の5から8までの黒塗り部分,以下「単一校市町村別調査結果」といい,学校別調査結果と併せて「本件府教委非公開部分」という。)となった。   (3) 府知事に対する行政文書公開請求の経緯等(甲2,丙1から3まで,6から8まで)    ア 原告は,平成20年9月17日,本件条例に基づいて,府知事に対し,行政文書の名称等を「過去2回 文部科学省が実施した全国学力・学習状況調査結果のうち,市町村別データー」として,行政文書の公開を請求した(以下「本件府知事請求」という。)。    イ 府知事は,同年10月1日,本件府知事請求に対する決定期間を延長し,公開決定等の期限を当初の同日から同月16日に変更して,原告に対し,通知した。さらに,府知事は,同月1日,本件府知事請求のうち平成19年度調査に係る部分につき,「請求に係る行政文書は,府教育委員会から取得していないため,管理していない。」として,不存在による非公開決定をし,原告に対し,通知した。    ウ 府知事は,同月16日付け部分公開決定通知書により,本件府知事請求に係る対象文書を「平成20年度 小学校児童 学力学習状況調査分析(市町村別)」及び「平成20年度 中学校生徒 学力学習状況調査分析(市町村別)」(以下,併せて「本件府知事文書」という。)と特定の上,本件府知事文書のうち「教科別平均正答率及びその平均 ただし,吹田市,泉南市,阪南市,η町,ε町,ι町,α町,ζ町の小学校及び中学校並びにβ町,γ町,δ村の中学校にかかる数値」を公開しないこととし,それ以外の部分を公開する旨の部分公開決定(以下「本件府知事決定」という。)をした。  本件府知事決定の通知書において,府知事が本件府知事文書のうち一部を公開しない理由は,「条例第8条第1項第4号に該当する(事務執行支障情報)」とされ,その具体的な理由は下記のとおり記載されていた。    記  今回の全国学力・学習状況調査は,国の実施要領に基づき,大阪府教育委員会が個々の市町村名を明らかにしたデータの公表は行わないことを前提に,市町村教育委員会が参加した経緯がある。市町村別結果については,大阪府教育委員会から各市町村教育委員会に対して自主的な公表を要請したところであり,その要請を受け,各市町村教育委員会において,保護者や地域住民に説明責任を果たすためにはデータをどの程度公表することが適切か,慎重に検討されてきた。  調査結果の公表について検討中の市町及び非公表とする決定をした市町村について,その自主的な判断を無視して大阪府が一方的に学力調査結果を公にすることは,次回の全国学力・学習状況調査や大阪府教育委員会が実施する同種の学力テストに参加しないことや,各市町村の教育に関する調査の協力を得られなくなること,また,教育非常事態宣言を踏まえた本府の緊急対策に関する施策の実施について協力を得られなくなることなど,今後の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。    エ 府知事は,平成21年11月11日,原告に対し,職権により,本件府知事決定において公開しないことと決定した部分を,本件府知事文書のうち「教科別平均正答率及びその平均 ただし,α町の小学校及び中学校並びにε町,ζ町,β町,γ町及びδ村の中学校にかかる数値」(別紙3の1及び2の黒塗り部分,以下「本件府知事非公開部分」といい,本件府教委非公開部分と併せて「本件各非公開部分」という。)に変更した(以下「本件府知事変更決定」といい,本件府教委変更決定と併せて「本件各変更決定」という。)。   (4) 全国学力・学習状況調査に関する実施要領(乙5,6)    ア 文部科学省は,平成19年度調査の実施にあたり,「平成19年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(以下「平成19年度実施要領」という。)を定め,平成20年度調査の実施にあたり,平成19年度実施要領を一部修正した「平成20年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(以下「平成20年度実施要領」といい,平成19年度実施要領と併せて,単に「実施要領」という。)を定め,各都道府県教育委員会等に対し,これらを通知した(なお,市町村教育委員会に対しては,都道府県教育委員会から周知することとされた。)。    イ 平成20年度実施要領7(4)は,調査結果の取扱いについて具体的に配慮すべき点として,「イ 本調査の実施主体が国であることや,市町村が基本的な参加主体であることなどにかんがみて,都道府県教育委員会は,域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。また,市町村教育委員会は,域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと」としている(平成19年度実施要領7(4)イも同旨)。  また,平成20年度実施要領9(8)は,「調査により得られる調査結果の取扱い」と題して,「ア 文部科学省は,調査結果のうち,公表する内容を除くものについて,以下のような考え方で対応すること。・これが一般に公開されることになると,序列化や過度な競争が生じるおそれや参加主体からの協力及び国民的な理解が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり,全国的な状況を把握できなくなるなど調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられるため,行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠として,同法における不開示情報として取り扱うこととする。イ 教育委員会等においても,提供される調査結果のうち,文部科学省が公表する内容を除く調査結果について,上記を参考に,それぞれの地方公共団体が定める情報公開条例に基づく同様の規定を根拠として,情報の開示により調査の適正な遂行に支障を及ぼすことのないよう,適切に対応する必要があること。」としている(平成19年度実施要領10(6)ア,イも同旨)。   (5) 訴訟の提起等(顕著な事実)    ア 原告は,平成20年12月12日,本件府教委決定のうち公開しないこととされた部分及び本件府知事決定のうち公開しないこととされた部分の取消し(第1の1(1)及び2(1))を求めて本件訴えを提起した。    イ 原告は,平成21年4月8日付け準備書面(1)により,上記各部分公開決定に係る行政文書の非公開部分の公開決定の義務付け(第1の1(2)及び2(2))を求めて訴えの追加的変更を行った。    ウ なお,全国学力調査は,本件各決定がされた後にその調査対象範囲が変更され,平成22年度からは悉皆調査から抽出調査に変更されている。  4 主たる争点   (1) 本件各変更決定により訴えの利益が一部消滅したか   (2) 本件府教委非公開部分の事務執行支障情報該当性   (3) 本件府知事非公開部分の事務執行支障情報該当性   (4) 義務付けの訴えの可否等  5 主たる争点に関する当事者の主張の概要   (1) 本件各変更決定により訴えの利益が一部消滅したか  (府教委及び府知事の主張)  府教委が平成21年11月11日付けでした本件府教委変更決定及び府知事が同日付けでした本件府知事変更決定により,本件各決定の非公開部分がいずれも一部撤回された。したがって,本件各決定の非公開部分のうち,本件各変更決定により変更された部分については,原告にその取消しを求める訴えの利益はない。  (原告の主張)  争う。   (2) 本件府教委非公開部分の事務執行支障情報該当性  本件府教委非公開部分が本件条例8条1項4号にいう「国等の機関が行う調査研究の事務に関する情報」に該当することは明らかであるから,同号該当性に係る実質的な争点は,本件府教委非公開部分が,同号所定の「公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当するか否かである(本件府知事非公開部分についても同じ。)。  (府教委の主張)    ア 学校別調査結果について  府教委が学校別調査結果を公開する場合は,個々の学校名とともに,調査結果である平均正答率の数値データのみの公表となり,実施要領が調査結果を公表する場合に求めている十分な配慮をすることは不可能である。しかも,学校別調査結果は,児童生徒が直接所属し日々学習し生活する集団の数値であり,児童生徒の学習への影響が極めて大きい数値である。にもかかわらず,府教委がこのような学校別の数値データのみを公表すれば,学校別に序列化することが直ちに可能となり,序列が低位となる学校で学ぶ児童生徒は,不公平感や劣等感を抱くなど,学習そのものへの悪影響が予想され,また,他の地域からの恣意的な評価や格付けによるいわれなき差別を受けるおそれもある。そして,場合によっては,市町村教育委員会や学校において,平均正答率を上げるために特定の教科を重視した偏った指導が行われたり,それら特定の教科に慣れさせるためのテストや過去のテストを事前に頻繁に実施したりするなどの過度な競争の弊に陥るおそれがあり,そうなっては,普段の教育に基づく学力・学習状況を正確に把握するという本件調査の目的が達成されず,児童生徒の心身のバランスの取れた教育活動に支障を来すおそれがある。以上のとおり,学校別調査結果を公開することは,大阪府内の市町村教育委員会や学校に深刻な影響を与えるおそれがあり,ひいては保護者その他の大阪府民が不利益を被る結果につながるおそれがある。このことは,過去の同種のテストの実施においても同様に指摘されたものであり,実施要領の作成に先立つ中央教育審議会の答申,国会での審議,専門家検討会議の報告等,様々な場面で指摘されてきたものである。  加えて,大阪府内の各市町村教育委員会は,府教委が調査結果の公表について実施要領の定めに従うとの信頼のもとに,自主的に本件調査に参加していることから,府教委が実施要領の定めを遵守することなく,大阪府内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表を行った場合は,市町村教育委員会との信頼関係を損ない,市町村教育委員会が次年度以降に全国学力調査に参加せず,同調査に協力しない事態が生じる可能性があり,そうなっては全国学力調査が目的とする正確な情報が得られなくなり,全国的な状況を把握できなくなるなど調査の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。  このように,学校別調査結果を公開することは,学校間の序列化や過度な競争を惹起し,また,市町村教育委員会等との信頼関係を損ない,次年度以降に市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。    イ 単一校市町村別調査結果について  単一校市町村別調査結果は,学校別調査結果と同様のものと解すべきであるところ,学校別調査結果は,上記のとおり,これを公開することにより全国学力調査の目的が達成できなくなり,又は当該事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報というべきであるから,単一校市町村別調査結果についても,上記と同様のおそれを理由として非公開とすべきである。  なお,原告は,別件答申を尊重して単一校市町村別調査結果についても公開すべきであると主張するが,大阪府情報公開審査会の答申には実施機関の決定を拘束する法的効力はなく,実施機関は,その判断と責任に基づいて最終的な決定を行うべきものとされている。したがって,答申を受けた実施機関が,合理的な理由に基づき,答申と異なる決定をすることは,何ら違法ではない。  (原告の主張)    ア 府教委は,学校別調査結果等を公開することにより,序列化や過度な競争が生じるおそれがあり,その結果,序列が低位となる学校で学ぶ児童生徒が不公平感や劣等感を抱くなど,学習そのものへの悪影響が予想されるとか,他の地域からの恣意的な評価や格付けによるいわれなき差別を受けるおそれもあるなどと主張する。  しかし,府教委が主張する「おそれ」は,本件調査の実施自体が顕在化させるものであって,調査結果の開示によって引き起こされるものではない。また,そもそも,そのようなおそれは何ら具体的事実に基づかない抽象的で主観的なものにすぎない。宇都宮市や東京都墨田区などでは,学校別調査結果が公開されているが,これらの地域で過度な競争が生じたという事実はなく,府教委が主張する弊害などは生じていないことが明らかである。  また,全国学力調査の趣旨目的が大阪府民に正しく理解されていれば,学校別調査結果が公開されても,小中学校の序列化や,児童生徒が不公平感や劣等感を抱くことにはつながらないし,教職員は,児童生徒がこのような感情を抱かないような指導を行うべきである。万が一,不公平感や劣等感を抱く児童生徒がいたとしても,教職員や保護者が必要に応じて指導又は注意をすれば足りる。    イ 府教委は,学校別調査結果等を公開すると,実施要領を信頼して参加した市町村教育委員会等との信頼関係が失われるなどと主張する。しかし,そもそも公文書の開示不開示の判断は,各地方公共団体の情報公開条例により個々に判断されるべきものであって,仮に文部科学省が本件府教委文書を非公開とする条件で府教委に提供したものであったとしても,実施要領に法的拘束力がない以上,これによって,府教委と市町村教育委員会又は学校との間で法的保護に値する信頼が損なわれるものではない。府民との関係でも,本件府教委文書を本件条例に基づき適切に開示するものであれば,大阪府民の信頼を高めることこそあれ,大阪府の教育行政に対する大阪府民の不信感や不安感を増大させるおそれがあるということはできない。  また,学校別調査結果等が開示されることを前提に全国学力調査が実施されるとした場合,全国学力調査への協力を躊躇する市町村や学校があるとしても,各地方公共団体はそれぞれの情報公開条例に基づき開示不開示の判断をするのであるから,大阪府が開示することと市町村が協力しないこととは直接結びつくものではない。    ウ 万が一,学校別調査結果が事務執行支障情報に該当するとしても,府教委は,市町村別調査結果を公開すべきとした別件答申を尊重して,単一校市町村別調査結果を公開すべきである。   (3) 本件府知事非公開部分の事務執行支障情報該当性  (府知事の主張)    ア 府教委は,各市町村教育委員会に対し,平成20年度調査の結果の自主的な公表について要請したが,市町村の中には,府教委からの同要請に対し,非公表と判断した市町村や,なお検討中とした市町村があった。こうした市町村に係る平成20年度調査の結果を,当該市町村教育委員会の主体的な判断を無視して府知事が一方的に公開すると,①自主性を無視された市町村が次回の調査や府教委が実施する同種の学力テストに参加しないこと,②大阪府が行う各市町村への教育に関する調査の協力を得られなくなること,③教育非常事態宣言を踏まえた大阪府の緊急対策に関する施策の実施について各市町村の協力を得られなくなることなどが想定され,今後の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。したがって,本件府知事非公開部分は,事務執行支障情報に該当する。  なお,府知事が本件府知事変更決定を行ったのは,本件府知事決定後における府教委の対応に伴い,本件府知事決定の非公開部分の一部について既に公表されたのと同様の状況が生じ,府知事がこれらの情報を公開しても,事務執行支障情報に該当しないこととなったと判断したためである。したがって,その余の部分(本件府知事非公開部分)については,これを公開すると,大阪府の教育行政の実施等への各市町村の協力が得られなくなることなど,上記の支障が想定され,事務執行支障情報に該当する。    イ 本件府知事非公開部分は単一校市町村別調査結果であるところ,別件答申はこれを含む市町村別調査結果全部を公開すべきものとしている。しかし,大阪府情報公開審査会はいわゆる諮問機関であり,諮問に応じてなされた答申は,実施機関を法的に拘束するものではなく,答申と異なる決定を実施機関が行うことは何ら違法ではない。  (原告の主張)  上記(2)(原告の主張)に同じ。   (4) 義務付けの訴えの可否等  (原告の主張)  本件各決定における非公開部分が,いずれも本件条例の非公開事由に該当しないことは明らかであり,府教委及び府知事は,上記各非公開部分を開示する義務を負っている。したがって,上記各非公開部分の公開の義務付け請求はいずれも認められるべきである。  (府教委及び府知事の主張)  争う。本件各非公開部分は,いずれも事務執行支障情報に該当するから,原告の上記請求は理由がない。 第3 当裁判所の判断  1 本件各変更決定により訴えの利益が一部消滅したか(争点(1))  前記前提となる事実,証拠(乙17から19まで,21,丙7,8)及び弁論の全趣旨によれば,府教委は,職権で,原告に対し,平成21年11月11日付けで,本件府教委決定の非公開部分の一部を撤回する旨の本件府教委変更決定を行い,同変更決定により公開することとされた本件府教委文書(別紙2の1から8まで)は,本件府教委変更決定に先立つ同年8月13日付けで原告に提供され,原告はこれを同年9月4日付けで受領したこと,府知事は,職権で,原告に対し,同年11月11日付けで,本件府知事決定の非公開部分の一部を撤回する旨の本件府知事変更決定を行い,そのころ,同変更決定により公開することとされた本件府知事文書(別紙3の1及び2)を原告に開示したこと,以上の事実が認められる。  上記認定事実によれば,原告が取消しを求めている本件各決定の非公開部分のうち,本件各変更決定により変更された部分については,本件各変更決定により本件各決定の非公開部分の一部が撤回され,原告は本件各変更決定により公開することとされた文書の開示を受けたものであるから,原告において上記部分の取消しを求める訴えの利益は失われたというべきである。  したがって,本件各決定の非公開部分のうち,本件各変更決定により変更された部分の取消しを求める訴えについては,いずれも却下すべきである。  2 争点(2)及び(3)に関する認定事実  前記前提となる事実に加えて,証拠(甲5,10,乙3から8まで)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。   (1) 実施要領作成に先立つ答申,国会審議等    ア 中央教育審議会は,平成17年10月26日,「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」を発表した。そこでは,学習到達度,理解度の把握のための全国的な学力調査を実施することが適当とした上で,「なお,実施に当たっては,子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら,学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である。」などとされている。    イ 全国学力調査に関しては,平成18年3月(第164回国会),衆議院文部科学委員会や参議院文教科学委員会等において審議され,小坂文部科学大臣(当時)は,調査結果の公表等に関し,「過去にあった学力調査における意見として,自校の成績を上げるために学力の差のある生徒に対して受けさせないというような事例が生じたりという弊害が過去指摘をされたこともあります。」,「特に公表の仕方,どこへどう戻すのかというフィードバックのレベルについては,私どもも,少なくとも学校の公表に当たっては,全国的に見た中で大まかな感覚がつかめるように,余り個別的なものを公表するということになりますと弊害が生じることも懸念されますので,専門家の御意見を聞きながら,その辺には十分に配慮をしたい。」(同月1日衆議院予算委員会第四分科会),「自分たちの町村に対して直接的な位置づけをして公表されるようなものに参加はしたくないというような間違った理解のないように,十分にその意義とやり方,方法等を周知して取り組んでいきたい」(同月15日衆議院文部科学委員会),(市区町村ごとに結果が公表されて,おまえの学校は成績最下位だとかあんたの市は最悪だといってからかわれたとか,もうそういうことを言われるので引っ越ししたいと親に言ったとか,もうみんなに迷惑掛けるからテストの日休んだとか,こういう子どもの声もたくさんあり,見直すべきだと思うが,いかがかとの質問に対し,)「悉皆的な調査をいたしますと,それをそのまま公表するような形を取るとそういった弊害というものが指摘されます。例えば市町村の各学校ごとの状況を順位付けして発表するというようなことをいたしますとそういう状況になってくると思います。」,「そういった弊害的な,御指摘に当たるようなことがミニマイズされるような,最小限化されるような方法を策定をして実施をしてまいりたい,そして,そういった方式を公表することによって,今委員が御指摘になったような懸念が払拭されるように努めてまいりたいと存じます。」(同月16日参議院文教科学委員会),「そして悉皆調査によるいわゆる御指摘のあったような単なる個別の競争を起こすような,過度の競争に入るような,そういった弊害が生じないような方法を講じて,公表等についても十分に配慮して,そういった点を配慮した上で公表の方式等も考えて,各市町村,学校現場の皆さんの理解が十分に得られるような方法を模索してまいりたい,その上での実施を心掛けたいと思っております。」(同月22日参議院文教科学委員会)などと答弁した。    ウ 全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議は,平成18年4月25日,「全国的な学力調査の具体的な実施方法等について」を発表した。そこでは,上記中央教育審議会の答申を踏まえて,「市区町村の状況については,現在都道府県において独自に実施されている学力調査においても市区町村単位まで調査結果を公表する自治体数が8にとどまっていることや,現時点において個々の単位の状況まで公表すると序列化や過度な競争につながるおそれがありその影響は大きいと予想されることなどを考慮し,個々の市区町村単位の状況を公表するのではなく,地域の規模等に応じたまとまりごとに,例えば,大都市(政令指定都市及び東京23区),中核市,その他の市,町村の状況を公表する。」,「都道府県が域内の市区町村等の状況を個々の市区町村名等を出して公表することになると序列化や過度な競争につながるおそれは払拭できないと考えられる。また,全国的な学力調査の実施主体が国であることや市区町村が基本的な参加主体であることなどにかんがみると,都道府県に対して,原則として,国における公表レベルや内容と同様の対応を求めることが適当である。」などとされた。    エ 安倍内閣総理大臣(当時)は,平成19年4月20日,衆議院教育再生特別委員会において,「全国の学力・学習状況調査においては,個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行いません。そして,学校間の序列化や過度の競争をあおらないように十分我々は配慮しなければならないと考えています。」,「個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行わない。しかし,…国全体と都道府県の状況については発表するということでございます。」などと答弁した。   (2) 実施要領及び留意事項の通知    ア 文部科学省は,各都道府県教育委員会等に対し,本件調査を実施するに当たり,「平成19年度全国学力・学習状況調査の実施について(通知)」(平成18年6月20日付け文科初第317号文部科学事務次官通知)及び「平成20年度全国学力・学習状況調査の実施について(通知)」(平成19年11月14日付け文科初第865号文部科学事務次官通知)を発出し,本件調査の目的や調査結果の取扱い等を記載した実施要領を示した。なお,市町村教育委員会に対しては,都道府県教育委員会から周知することとされた。    イ 文部科学省は,各都道府県教育委員会等に対し,本件調査の結果を提供するに先立って,「全国学力・学習状況調査の調査結果の取扱いについて(通知)」(平成19年8月23日付け文科初第616号文部科学省初等中等教育局長通知)及び「平成20年度全国学力・学習状況調査の調査結果の取扱いについて(通知)」(平成20年8月22日付け文科初第654号文部科学省初等中等教育局長通知,以下「留意事項通知」という。)をそれぞれ発出し,調査結果の取扱いについての留意事項を示した。なお,市町村教育委員会に対しては,都道府県教育委員会から指導の徹底をすることとされた。   (3) 実施要領の定め  平成20年度実施要領は,下記のとおり定めている。    記  1. 調査の目的   (1) 国が,全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより,教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図る。   (2) 各教育委員会,学校等が,全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図るとともに,そのような取組を通じて,教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。   (3) 各学校が,各児童生徒の学力や学習状況を把握し,児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てる。  3. 調査の対象とする児童生徒   (1) 国・公・私立学校の以下の学年の原則として全児童生徒を対象とする。    ア 小学校調査  小学校第6学年,特別支援学校小学部第6学年    イ 中学校調査  中学校第3学年,中等教育学校第3学年,特別支援学校中学部第3学年  4. 調査事項   (1) 児童生徒に対する調査    ア 教科に関する調査  (ア) 小学校調査は,国語・算数とし,中学校調査は,国語・数学とすること。  (イ) 出題範囲は,調査する学年の前学年までに含まれる指導事項を原則とし,出題内容は,それぞれの学年・教科に関し,以下のとおりとすること。   ① 身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や,実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能など(主として「知識」に関する問題)を中心とした出題   ② 知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や,様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力などにかかわる内容(主として「活用」に関する問題)を中心とした出題  6. 調査の実施体制   (1) 本調査は,文部科学省が,学校の設置管理者である都道府県教育委員会,市町村教育委員会,学校法人,国立大学法人等(以下「参加主体」という。)の協力を得て実施する。(以下略)  7. 調査結果の取扱い   (1) 調査結果の示し方  小学校調査及び中学校調査のそれぞれについて,以下の事項等を示すこととする。    ア 教科に関する調査の結果について,国語,算数・数学のそれぞれ,主として「知識」に関する問題と,主として「活用」に関する問題に分けた四つの区分ごとの平均正答数,平均正答率,中央値,最頻値,標準偏差等    イ 都道府県・市町村・学校・児童生徒の学力に関する分布の形状等が分かるグラフ    ウ 各教科の設問ごとの正答率   (2) 調査結果の公表  文部科学省は,以下のア~ウについて,(1)に掲げる調査結果を公表する。    ア 国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況    イ 都道府県ごとの公立学校全体の状況    ウ 地域の規模等に応じたまとまり(大都市(政令指定都市及び東京23区),中核市,その他の市,町村,または,へき地)における公立学校全体の状況   (4) 調査結果の取扱いに対する配慮事項  調査結果については,本調査により測定できるのは学力の特定の一部分であることや,学校における教育活動の一側面に過ぎないことなどを踏まえるとともに,序列化や過度な競争につながらないよう十分配慮して,適切に取り扱うものとする。具体的に配慮すべき点は,以下のとおりとする。    ア 調査結果の公表にあたっては,本調査の結果が学力の特定の一部分であることなどを明示すること。また,数値の公表にあたっては,それにより示される調査結果についての読み取り方を併せて示すこと。    イ 本調査の実施主体が国であることや,市町村が基本的な参加主体であることなどにかんがみて,都道府県教育委員会は,域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。  また,市町村教育委員会は,域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと。    ウ 市町村教育委員会が,保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため,当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては,それぞれの判断にゆだねること。また,学校が,自校の結果を公表することについては,それぞれの判断にゆだねること。  ただし,本調査により測定できる学力は特定の一部分であること,学校の教育活動の取組の状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善方策等を併せて示すなど,序列化につながらない取組が必要と考えられること。    エ 都道府県教育委員会が,例えば,教育事務所単位で調査結果を公表するなど個々の市町村名が明らかとならない方法で公表することは可能であること。  また,各教育委員会が独自に実施する学力調査の公表の取扱いについては,もとよりそれぞれの各教育委員会の判断にゆだねられること。  9. 留意事項   (8) 調査により得られる調査結果の取扱い    ア 文部科学省は,調査結果のうち,公表する内容を除くものについて,以下のような考え方で対応すること。  ・ これが一般に公開されることになると,序列化や過度な競争が生じるおそれや参加主体からの協力及び国民的な理解が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり,全国的な状況を把握できなくなるなど調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられるため,行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠として,同法における不開示情報として取り扱うこととする。    イ 教育委員会等においても,提供される調査結果のうち,文部科学省が公表する内容を除く調査結果について,上記を参考に,それぞれの地方公共団体が定める情報公開条例に基づく同様の規定を根拠として,情報の開示により調査の適正な遂行に支障を及ぼすことのないよう,適切に対応する必要があること。   (4) 留意事項通知の定め  留意事項通知は,下記のとおりの内容である。    記  1 基本的な考え方  本調査に参加・協力した教育委員会は,実施要領を前提として調査に参加・協力したものであり,調査結果の取扱いについては実施要領に基づいて行うこと。  2 調査結果の公表について   (2) 留意事項  ① 市町村教育委員会,学校がそれぞれの判断で自らの結果を公表した後においても,都道府県教育委員会は個々の市町村名・学校名を明らかにした公表を行わないこと。同様に,学校がそれぞれの判断で自校の結果を公表した後においても,市町村教育委員会は個々の学校名を明らかにした公表を行わないこと。  3 情報公開における調査結果の取扱いについて   (2) 留意事項  ① 文部科学省が公表する内容以外の情報について,文部科学省は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)第5条第6号の本文…(中略)…を根拠として,不開示情報として取り扱うこととしていること。  ② 国が行う本調査の結果の公表・情報公開については,これまでも国会等で広く議論が行われてきたところであり,都道府県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を公にした場合又は市町村教育委員会が個々の学校名を明らかにした情報を公にした場合,その性質上,本調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあること。また,その具体例としては,次に掲げるおそれが挙げられること。    ア 本調査の実施については,序列化や過度な競争につながらないよう特段の配慮が必要であることについて,国会,審議会等において議論が行われたところであり,それらの議論を踏まえて作成した実施要領の趣旨に反して,都道府県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示し,又は市町村教育委員会が個々の学校名を明らかにした情報を開示することにより,本調査の実施方法に対する国民の信頼が損なわれるおそれ    イ 市町村教育委員会等は自らの判断で本調査に参加しているところ,一部の都道府県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示し,又は一部の市町村教育委員会が個々の学校名を明らかにした情報を開示することにより,次年度以降市町村教育委員会等からの協力が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり,結果として全国的な状況を把握できなくなるおそれ  ③ 都道府県教育委員会においては,①及び②を参考に,それぞれの地方公共団体が定める条例を根拠として,個々の市町村名・学校名を明らかにした情報の開示により本調査の適正な遂行に支障を及ぼすことにならないよう適切に対応すること。(以下略)   (5) 学校教育に関する保護者アンケート調査結果    ア 内閣府は,平成21年1月末,インターネットによるアンケートにより,小学校,中学校,高等学校に通う子どもを持つ保護者を調査対象者として,学校教育に関するアンケートを実施した(回答者数2200人〔小学校低学年,小学校高学年,中学校に通う子どもを持つ保護者それぞれ660人,高等学校に通う子どもを持つ保護者220人)。    イ 「問28:全国学力・学習状況調査の結果を学校毎に公表することについてどのようにお考えですか。」との問いにつき,上記保護者2200人の回答は,学校毎の結果を公表すべき(67.3%),学校毎の結果を公表すべきではない(10.5%),わからない(21.5%)などとなっている。    ウ 「問28-1:あなたが,学校毎の結果を公表すべきだと考える理由は何ですか。」との問いにつき,保護者1480人(問28で「学校毎の結果を公表すべき」を選択した保護者)の回答は,1.学校毎の結果は学校選択のための基本情報のひとつだから(55.1%),2.学力で評価していないので序列化や競争につながらない(20.9%),3.学力を向上させるのは,まずは学校(教員)の責務だから(56.8%),4.行政が支援をするとしても,透明性が大事だから(34.5%),5.説明責任を果たすために公表するのは当然だから(36.9%)などとなっている。  また,「問28-2:あなたは公表の方法についてどのようにお考えですか。」との問いにつき,上記保護者1480人の回答は,1.学校毎の点数をそのまま公表すべきである(68.7%),2.点数は公表しないが,一定の基準を設けた上で公表すべき(29.1%),3.わからない(1.7%)などとなっている。    エ 「問28-3:あなたが,学校毎の結果を公表すべきではないと考える理由は何ですか。」との問いにつき,保護者231人(問28で「学校毎の結果を公表すべきではない」を選択した保護者)の回答は,「学校間の序列化や過度な競争につながるから」という理由がすべてのグループにおいて最も高く(小学校低学年57.6%,小学校高学年60.6%,中学校61.4%,高校72.4%),「結果が良くなかった学校の生徒等に配慮する必要があるから」という理由がすべてのグループにおいて最も低かった(「その他」を除く。小学校低学年22.7%,小学校高学年18.2%,中学校27.1%,高校34.5%)。  3 本件府教委非公開部分の事務執行支障情報該当性(争点(2))について   (1) 前述のとおり,本件府教委非公開部分が本件条例8条1項4号にいう「国等の機関が行う調査研究の事務に関する情報」に該当することは明らかであるから,同号該当性に係る実質的な争点は,本件府教委非公開部分が,同号所定の「公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当するか否かである。   (2) 学校別調査結果について    ア 前記認定事実によれば,本件調査は,文部科学省が,全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより,教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ることや,各教育委員会,学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図るとともに,そのような取組を通じて,教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立すること等を目的として,国・公・私立学校の小学校第6学年及び特別支援学校小学部第6学年並びに中学校第3学年,中等教育学校第3学年及び特別支援学校中学部第3学年の原則として全児童生徒を対象として実施する悉皆調査である。このような本件調査の目的及び内容等にかんがみると,本件調査においては,国(文部科学省)において,全国の各地域における学力・学習状況を漏れなく,かつ,正確に把握すること及びその調査結果が国とともに義務教育の実施に責任を負う地方公共団体(都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等)に漏れなく提供されることが,その目的を達成するため不可欠となる。  そして,前記認定事実のとおり,実施要領は,学校別調査結果につき,当該学校における自主的な公表を除いて,参加主体(都道府県教育委員会及び市町村教育委員会等)が個々の学校名を明らかにした公表を行わないことを定めており,情報公開請求に対しても,各地方公共団体の情報公開条例に行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号と同様の非公開事由を定めた規定が設けられていることを前提に,当該規定を根拠として,上記情報を非公開情報として取り扱うべきことを定めている。そして,各都道府県教育委員会及び市町村教育委員会は,その設置する学校が自ら自校の結果を公表しない限り,域内の学校を含めて学校別調査結果を個々の学校名を明らかにして公にされることがないという前提で本件調査に参加しているのであり,参加主体のいずれかにおいてその域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした学校別調査結果を公表するなどして後になってこの前提が覆されることは,実施要領を前提に本件調査に参加している各参加主体に少なからず混乱を引き起こすおそれがあり,ひいては,全国学力調査ないし当該調査に係る国(文部科学省)の施策そのものに対する各参加主体の信頼を損なうことにもなりかねない。    イ 加えて,前記認定事実のとおり,内閣府の実施したアンケートにおいて児童生徒の保護者の多くが学校別調査結果の公開に賛成しており,また,調査結果の公開に前向きな首長も少なくないにもかかわらず,教育現場を担う市町村教育委員会や学校の関係者において,個々の学校名を明らかにして学校別調査結果を公にすることに対する反対意見が根強く,その公表に慎重な姿勢を取っている市町村が全国的にみて圧倒的多数を占めていることは,新聞記事(甲5)等の各種報道から明らかである。そして,教育現場を担う市町村教育委員会や学校において学校別調査結果の公表に対する反対が根強い背景には,学校別調査結果が公開されれば,域内の学校がその調査結果(数値データ)により序列化されることとなって,当該調査結果がその性格上学力の特定の一部分を表すにとどまるものであるにもかかわらず,それによって当該学校の教育活動全般が評価され,低位の学校の児童生徒らが不公平感や劣等感を抱き,更に学校間に成績競争の風潮を生み,特定の科目に偏った指導が行われるなど,様々な弊害の発生が危惧されるという点にあると解されるところ,これらの弊害については,かつて文部科学省が実施した全国学力テストにおいても同様に指摘されていたものであり,実施要領の作成に先立つ中央教育審議会答申,国会での審議,全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議の報告等においても指摘されてきたものである。さらに,インターネットが社会に普及し,一般市民による不特定多数者に対する情報発信や意見表明が容易となった今日においては,上記の弊害はより一層深刻なものとなる可能性もあることも考慮すれば,これを単なる杞憂に過ぎないということはできない。  しかも,前記保護者のアンケート調査結果(前記認定事実2(5))をみても,学校毎の学力調査結果の公表に反対する保護者は,学校間の序列化や過度な競争につながることを最も危惧しており,他方,公表に賛成する保護者においても,公表すべきと考える理由として,学校間の序列化や過度な競争につながらないという選択肢を選択した保護者は最も少数にとどまっている上,公表に賛成する保護者のうち55.1%が,学校別調査結果を公表すべきであると考える理由として,「学校毎の結果は学校選択のための基本情報のひとつだから」と回答していることからしても,児童生徒の保護者は,各学校が調査結果により比較され序列化されるおそれがあることは認識しつつも,その調査結果を我が子の学校選択に活かしたいという意識を有していることがうかがわれるのであって,保護者の意識としては理解し得るものの,学校間の序列化やこれに伴う過度な競争のおそれは,このような保護者の意識からも大いに危惧されるというべきである(この点に関しては,新聞記事において,米国の例にもあるように,余裕のある家庭が「よい学校」のある地域に引っ越し,経済的に厳しい家庭の子が通う学校や地域が不利になるなど,格差や差別が助長される可能性を指摘する教育学研究者の意見も紹介されている(甲5の6)。)。また,現実に,東京都足立区において,平成18年の東京都や足立区独自の学力テストにおいて小学校ぐるみで不正行為があったことが発覚し,その後再発防止の取組みがされていたにもかかわらず,教師による不正行為が再発した旨の報道がされている(乙23)。  そして,これらの弊害が現実化した場合には,全国学力調査による児童生徒の学力・学習状況の正確な把握が困難となって,全国学力調査の前記目的を損なうことになるのみならず,各学校における義務教育の適正かつ円滑な実施を阻害することとなって,教育基本法の定める義務教育の理念等にももとることになりかねない。    ウ 以上の点からすれば,学校別調査結果が個々の学校名を明らかにして公開されるならば,当該学校が自ら自校の結果を公表しない限りこれを公にされないという実施要領の定めを信頼して全国学力調査に参加した参加主体(各都道府県教育委員会及び市町村教育委員会)に混乱を引き起こし,全国学力調査ないし当該調査に係る国(文部科学省)の施策そのものに対する信頼を損なうおそれがある上,上記のような態様で学校別調査結果を公にすることによる序列化,過度な競争等の様々な弊害の発生が危惧されており,これを理由とする市町村教育委員会や学校の反対も根強いことも考慮すると,将来,全国学力調査において,多くの市町村教育委員会等の協力を得られなくなるおそれがある(過去の全国学力テストの実施においても,教育現場において激しい抗議行動がみられたことは広く知られているところである。)ほか,学校間の序列化や過度な競争の結果として全国学力調査の結果に児童生徒の学力・学習状況が正確に反映されない事態が生ずるおそれがあり,しかも,これらのおそれは一般的,抽象的な可能性や危惧感にとどまらず,十分に根拠のあるものということができる。  そして,上記のような事態に陥れば,国(文部科学省)は,全国学力調査を通じて,全国の児童生徒の学力・学習状況等を漏れなく,かつ,正確に把握することができなくなり,その結果,児童生徒の学力・学習状況の分析に基づいて教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ることが不可能ないし著しく困難となり,また,各地方公共団体(教育委員会)においても,国(文部科学省)から提供を受けた調査結果に基づいて全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図ることが不可能ないし著しく困難となって,全国学力調査の目的の達成に支障が生じるにとどまらず,全国学力調査を実施する意義そのものを没却することにもなりかねない。    エ この点,原告は,実施要領には法的拘束力がなく,文部科学省の単なる要望又は見解にすぎないから,学校別調査結果を公開しても,府教委と市町村教育委員会又は学校との間で法的保護に値する信頼が損なわれるものではないなどと主張する。しかし,実施要領がこれに従うべき法律上の義務を負わせるものではないとしても,本件調査の参加主体は,それぞれの自主的な判断に基づき,実施要領を前提として本件調査に参加しているのであって,各参加主体が実施要領に従って調査を実施し,調査結果を利用することが,本件調査の当然の前提とされていることはいうまでもない。しかも,前述したとおり,教育現場を中心として,学校別調査結果を公にすることに対する反対意見は根強く,学校別調査結果が公にされるかどうかは,市町村教育委員会等が全国学力調査に参加するかどうかを判断する上で重要な考慮要素の一つであると解されるところ,市町村教育委員会等は,学校が自ら自校の結果を公表しない限り,学校別調査結果を個々の学校名を明らかにして公にされることがないという実施要領の定めを前提として本件調査に参加したのであり,その実施要領に対する各参加主体,ひいては各学校や児童生徒らの信頼は保護されるべきである。そして,このような前提が事後的に覆された場合には,その後の全国学力調査において,各参加主体の任意の協力を得られなくなるおそれがあることは,これまでに説示したとおりである。  また,原告は,学校別調査結果を公表している自治体もあるが,今後調査に協力しないとする市町村の動きが具体的になっているとはいえないと主張する。しかし,原告が提出する新聞記事をみても,秋田県では,市町村別結果を公開した知事の方針に反発し,κ町がいったん不参加を表明した経緯があるし(甲5の22,25),大阪府においても,府知事や府教委の強い要請にもかかわらず,これに反対して自主的な公表を拒んだ市町村は少なくない(甲5の4から7まで)。また,学校別調査結果の公開を可能にした鳥取県の条例改正に際しても,全国学力調査に参加しない市町村が出るおそれにかんがみて,開示を受けた者に情報の使用に配慮を求めており(甲5の19,20),しかも,最終的には同県の全市町村が平成21年度の調査に参加したものの,参加の是非については様々な意見があったことがうかがわれる(甲5の19,24)。さらに,実施要領に反して学校別調査結果の公表,公開に踏み切った地方自治体は全国的にみてもごく少数にとどまることも踏まえれば,今後,個々の学校名を明らかにした学校別調査結果を公開することとした場合に,調査に協力しないとする市町村が現れるおそれは十分根拠があるということができるのであって,これを杞憂であるなどということはできない。  また,原告は,被告が主張するような弊害のおそれは,本件調査の実施自体が顕在化させるものであって,調査結果を公開することにより引き起こされるものではないとか,このようなおそれは何ら具体的事実に基づかない抽象的で主観的なものであるとか,学校や教職員に対する適切な指導を徹底することなどにより上記おそれは防止することができるなどと主張する。しかし,学校別調査結果がひとたび公開されれば,個々の学校が平均正答率順にランキングされ,成績の良い学校と悪い学校が数値データのみによって色分けされてインターネット上のホームページや掲示板等に公開されるなどすることは十分予想されることであり,これにより,ある学校の平均正答率が悪かった場合には,調査対象であった児童生徒が劣等感等を抱き,教師や学校の教育の在り方のみが批判の対象とされ,これを避けるため点数偏重の弊に陥ったり,逆に,当該地域の保護者の経済力など地域の教育環境の問題とされ,偏見や差別を助長したりする結果となり,児童生徒に対する教育に悪影響を及ぼさないとも限らないのであって,たとい府教委が学校や教職員に対する指導を徹底し,大阪府民に本件調査の意義や目的を周知するなどしても,学校間の序列化や過度な競争が生じるおそれや,これに伴う様々な弊害を全て防止できるとは考え難い。しかも,前記認定のとおり,本件調査の実施に先立つ中央教育審議会答申,国会での審議,全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議の報告等においては,被告が主張するような弊害の発生に対する危惧が繰り返し指摘されてきたのみならず,調査結果等の公表をめぐる議論からは上記弊害の発生に対する危惧を理由とする教育現場の根強い反対も看取されるのであり,これらの事実は,学校別調査結果について個々の学校名を明らかにした公表を行うことによる学校間の序列化ないし過度な競争の発生等の弊害が発生するおそれが十分に根拠のあるものであることを裏付けるに足りるのみならず,このような情報の公開の是非についての社会一般のコンセンサスがいまだ成立していないことを如実に物語るものということができる(原告が主張するように,学校別調査結果を公開し広く市民の審議対象とすることが教育活動の改善に資する面があることは否定できないとしても,他方,学校間の序列化や過度な競争を招くなどという弊害があることもまた一概に否定できないのであり,学校別調査結果を公開することによる利益とその弊害を比較して,常に前者が後者に勝るというような社会一般のコンセンサスはいまだ形成されていないというべきである。)。したがって,原告の上記主張は採用することができない。    オ 以上によれば,本件府教委非公開部分のうち学校別調査結果は,本件条例8条1項4号にいう「公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当するというべきである。   (3) 単一校市町村別調査結果について    ア 実施要領は,市町村別調査結果についても,当該市町村による自主的な公表を除いて個々の市町村名を明らかにした公表を行わないことを定めているのであるから,これを事後的に覆した場合に各参加主体の任意の協力を得られなくなるなどのおそれがあることは学校別調査結果の場合と基本的に異なるものではない。のみならず,単一校市町村別調査結果については,個々の学校名が直接明らかになるわけではないものの,容易に特定の学校の調査結果であることが判明する性質のものであり,事実上学校別調査結果と同じ情報である。  したがって,単一校市町村別調査結果についても,上記(2)のとおり,本件条例8条1項4号にいう「公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当するというべきである。    イ これに対し,原告は,被告は大阪府情報公開審査会の別件答申を尊重して単一校市町村別調査結果を公開すべきであると主張するが,大阪府情報公開審査会はいわゆる諮問機関であって(本件条例20条),実施機関である府教委はその答申に法的に拘束されるものではないから,別件答申に反するからといって本件府教委決定が違法となるものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。   (4) 小括  以上のとおり,本件府教委文書の本件府教委非公開部分は,事務執行支障情報に該当するから,これを非公開とすることは,本件条例に反しない。  4 本件府知事非公開部分の事務執行支障情報該当性(争点(3))について  本件府知事非公開部分は,平成20年度調査の単一校市町村別調査結果と同じものであるところ,上記2及び3で述べたところによれば,本件府知事非公開部分は,事務執行支障情報に該当するというべきである。  なお,原告は,別件答申を尊重すべき旨主張するが,上記3(3)イのとおり,採用することができない。  したがって,本件府知事文書の本件府知事非公開部分は,事務執行支障情報に該当するから,これを非公開とすることは,本件条例に反しない。  5 義務付けの訴えの可否等  第1の1(2)及び2(2)の義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号所定の義務付けの訴えであるところ,同号所定の義務付けの訴えを提起するには,適法な取消訴訟等を併合提起することが必要であり(同法37条の3第3項2号),かつ,その取消訴訟等が認容されるべきものであることが必要である(同条1項2号)。そうであるところ,原告は,本件各決定の各非公開部分の取消しを求めているものの,上記のとおり,これらはいずれも却下又は棄却すべきものであるから,同各部分の公開の義務付けを求める訴えは不適法であって,却下を免れない。  6 結論  よって,本件訴えのうち主文1項記載の各部分は不適法であるからこれを却下し,原告のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。  (裁判長裁判官 山田明 裁判官 徳地淳 裁判官 直江泰輝)